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魔王で♂ですが、JKやってます。  作者: ドブロッキィ
第二部 学生満喫編
69/90

第三十話 人は変われるんです

ちょっと遅れましたー、久々の投稿です。

67



 ――――side シーザー



 魔狩祭開始の合図とともに、一斉に参加者がなだれ込む。奈落の洞の入り口周辺は参加者で溢れかえり、怒号と共に次々とバルーンスライムの破裂音が響き渡る。スタートダッシュの喧騒は、見る間にダンジョン奥へと消えていき、スタート地点となる入り口周辺は一気に閑散としていった。


 正直、以前の僕だったら我先にと集団の中を突っ切って行っただろうけど、もう以前のような油断はしてはいけない。僕は勇者候補なのだから、これからは思慮分別というものを身に着けなくてはいけないのだ。これはオニキス姉さんに教えてもらった僕の宝みたいなもんだな、うん。シャマネキは索敵即滅殺って言ってた気がするけども……。


 全員居なくなったかと思い周りを見渡すと、入り口周辺にはわずかながらに参加者が残っているみたいだった。しかもその中には見覚えのある集団が、あれはたしか……。


「ふえぇぇ、凄いですねぇ、私怖くて一歩も動けませんでしたぁ」


「いやいやリーベくん、それで良いのだとも。あんな人混みに揉まれてしまったら僕の股間の白鳥(キングゼグザル十三世)がへし折れてしまうからね、流石に一緒に突入するわけには行かないよ」


 あの女の子は確か、姉さん達とよく一緒にいる娘だな。それに彼女と一緒に居るのはたしか……そう、ディアマンテ君だ、実技ではたまにヒヤッとされる相手だからよく覚えている。まあ剣筋は鋭いのだけど、基本的に彼斬撃(スラッシュ)しかして来ないからなぁ……でも、それだけであそこまで斬り込んでくるのは彼の技術がずば抜けてる証明なんだよね、もったいない。


「……君の白鳥(それ)、戦いの場には必要なのかい?」


 僕は思っていたことを素直にぶつけてみることにした。


「はぁん、誰かと思ったらシーザー君じゃぁないかぁ?君は勇者候補と言われているのにそんなこともわからないのかぁい?」


 話しかけるつもりはなかったのだけど、彼のあまりの意味不明さに思わず尋ねてしまった。彼はそんな僕に心底呆れたとばかりに説明を始める。


「良いかぁい?戦闘というものは心と言うものが大切なのだぁよぉ、心とは何かわかるかぁい?」


「んー?全然分からないな。良ければ教えてもらえるかな?」


 彼ほどの剣士が自信満々なのだ、何かあるのかもしれない。僕は彼の次の言葉を固唾をのんで待ち受けた。


「それはこれこの白鳥(キングゼグザル十三世)!!雄々しく起立し、天を突くこの雄々しさ!まさに王者の風格!これがある限り、僕の心は常に折れない!怯まない!迷わない!!」


「ふぇぇ……私的には、ディアマンテ君は少しは怯んでほしいのです~」


「……はっ!?」


 一瞬彼が何を言ってるのかわからなかったので、股間の白鳥を見つめていたら何やら意識が遠く……。これか!これが彼の狙いなのか、恐ろしい幻術だな。流石一流の剣士は違う。これも今までの僕だったら気がつくことが出来なかったことだろう。


「なるほど、良く分からないけど分かったよ!」


「流石は勇者候補だぁね、今の一瞬でぇこれの良さの片鱗を理解したようだ、僕も君の健闘を祈るよぉ」


「有難うディアマンテ君!」


 お互い笑顔で握手する、こういった会話をすると、以前の自分が如何に矮小で愚かだったかが良く分かる。以前の僕だったらこういった新しい世界を知ることもできなかったことだろう、良く分からなかったけど!


「さて、そろそろ僕は行かせてもらうよ、それじゃあ!」


 彼らに手をふると、僕は全速力で奈落の洞へと進んだ、後ろからディアマンテ達も入り口を潜った気配を感じたが、一瞬で遠く見えない程の距離になった。暫く進むと、バルーンスライムを叩きながら奥へと進む一団が見えてきた。


「ふっ!」


 追い付いた瞬間に抜刀し、すれ違い際にバルーンスライムを斬り捨てる。


「うひっ!?なんだ……」


「あ、シーザーだ、シーザー=トライセンだ」


 僕の存在に気がついた数人が大声をあげる。人を指さしてフルネームを呼び捨てにするのは止めてほしいなあ……。


 未だこの辺りにはバルーンスライムが数匹ウロウロしていたが、進路上にいないバルーンスライムは敢えて無視をして奥へと走り抜けていく。こんな雑魚を立ち止まってまで倒す必要はない。今はまだ開始の合図から五分も経っていないからね、僕の足なら階段前のボスモンスター(ボーナス)が狙えるはずだ。


 次々現れる参加者達とバルーンスライム。まさにお祭り騒ぎ、皆ワイワイ楽しみながら無害なスライムを狩っていく。時折現れるゴブリンなどの正規のダンジョンモンスターは、配点が高いため、見つかった瞬間に集団に襲われ、哀れ一瞬で肉塊と化す。


 うーんモンスターとは言え、少々酷いな。


 更に進むと通路の雰囲気が変わり、少々開けた部屋に出た、階段前の広間、今日に限って言えば”ボーナス部屋”だ。


 まだ他の参加者はここまで到達していないようで、部屋の中央には一匹のオークが鎮座していた。通常ポップのそれと違い、このオークは運営が召喚術で呼び出したモンスターである。強さも実際のオークより劣る上に、大きな怪我はさせない立ち回りをしてくれるモンスター。


「だが……」


 オークが僕に気がついた瞬間にはその首は身体と永遠の別れを迎えていた。僕が相手なら危険な野生のオークも召喚された安全なオークも関係ない。彼らの反応速度では僕の剣閃は見ることも出来ないのだから。


「遅……」


 いけないいけない、つい口癖になっていたあの言葉を言いそうになってしまう。対戦相手に対して蔑むようなあの口癖は直していきたい。今にして思うと、少々周りより早く動けると言うだけで、得意になって「遅い!」だの「甘い!」だの言っていた自分を殴り飛ばしたい気持ちになる。


「姉さんたちのおかげで上には上が居るって知ったからなあ……あれは恐ろしかった」


 今思い出しても震えが来る、般若面の姉さんと、ヤギの骨を被ったシャマネキ、あの二人の本気はマジでやばかった。そんな事を考えているとふいに後ろから聞き覚えのある声がした。


「……シーザーさん」


「……ん?君は、ローガン君か」


 突然掛かかった声に驚き後ろを振り向くと、そこにはいつの間にかやって来ていたローガン=ヒュージャが立っていた。


 彼らの行動を鑑みて最近疎遠になってしまっていたが、どうしていたのだろうか。アビディ君が言う事には、顔色も悪く、不穏な空気を纏っていたという話だったが、今目の前にいるローガン君は顔色も良く、纏っている雰囲気も以前と同じ、むしろ爽やかな印象さえ受ける物だ。


「流石ですねシーザーさん、オニキスさん達に敗北してから個人技はなさらなくなっていたのに、今でもその腕前はご健在だ」


 真意が読めなかった僕は、彼の表情を注意深く観察してみたが、以前にあったような険のある表情ではなく、やはりどこかスッキリとしたような爽やかな笑顔を浮かべていた。


 しかし、アビディ君の忠告の事もある、僕の緊張はますます高まって行った。


「君こそ驚いたな、以前の君なら、ここまでこんなに早くやってくれる程の腕前ではなかったはずだよね……」


「手厳しいですね。確かに以前の僕なら、ここまで早くボス部屋までたどり着くなんてことは出来なかったでしょうね。でも、僕もシーザーさんと距離を置いてから、いろいろ考えたんですよ。以前とは違い、他の仲間と連携をとるようになった貴方を見てね。……正直、初めのうちは、突然人が変わったかのような行動を取る貴方に苛つきを覚えました……」


 その言葉に、身体が強ばる。


「でも、周りの仲間と連携を取る貴方を見ていて思ったんですよ。ああ、なぜ自分達はシーザーさんと、こう言った関係を築かなかったのかってね。そこに気がついてからは過去の自分達が滑稽に感じて、そこからはもう、いても立ってもいられずに訓練に打ち込みましたよ。僕等だって、頑張れば変われる。いつかシーザーさんにも認めてもらいたいってそう思ったんです」


 自嘲気味に笑う彼の言葉に僕は全身に電流が走ったかのような衝撃を受け、強張っていた身体から緊張を解いた。


 僕は愚かだ、またしても愚かだった。僕と同様に変わった彼に対して、何が「それ程の腕前ではなかったはず」だ……。変われるのは自分だけの特権だとでも思っていたのか、僕は……。


「すまない、今の言葉は失礼極まりない無礼な言葉だった、謝罪させてくれ」


「や、待ってくださいシーザーさん頭を上げてくださいよ」


 頭を下げる僕に慌てたローガン、本当に以前の彼とは全く変わったのだな。正直驚いてしまったが、僕を見て変わってくれたというのならこんなに嬉しいことはない。


「有難うローガン君、君がそんなふうに変わってくれた事、僕も自分の事のように嬉しいよ。僕はもう行くけど君はどうするんだい?」


「……僕はもうちょっとここで留まって仲間と合流してからニ層に向かいますよ。覚えてますか?俺と一緒にシーザーさんの周りに居た連中を。今日はあいつ等とパーティ組んでるんですよ。あいつ等もすっかり変わったんです。今はもう別人みたいになってますよ。だから今日はシーザーさんにだって負けませんよ!」


 ローガン君だけでなく、他の皆も……僕は心の中に温かいものが湧くような感覚を覚えた。これも全て姉さん達のお陰だ、姉さんに恋人になってもらうことは出来なかったけど、そんなことよりよっぽど大事なものを姉さんには貰った気分だ。……いや、姉さんと恋人になれるのと同じくらい……姉さんと恋人になれることの次ぐらいには嬉しいな……うん。


「それじゃあ先に行くよ。お互い頑張ろう」


「はい、お互いがんばりましょう!」


 アビディ君が言ってたローガン君は、おそらく心境が変わる前の葛藤の時期だったのだろう。あるいは特訓のせいで疲れ果てていただけなのかもしれない。全く彼の早とちりにも困ったものだ。


 僕は人のことを言えた義理ではないなと自嘲しつつ二層への階段を降りていったのだった。




何時も読んでいただき有難うございます。

コミケ原稿も終わったのでまた定期的にUPしたいと思います。

感想貰えると僕は死ぬほどヨロコビマス!!

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