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第四話 ゴブリン退治と豊胸

今回はほんのりグロ描写あります。

苦手な人でも読める程度とは思いますが一応。






「おっと、授業が始まってしまったね。

こっちへおいでよ、一緒に授業を受けよう。」


 リコスに誘われ席に着く。


「さて、今日は実践訓練でモンスター討伐をしてもらう。

この授業には他学科の生徒も合同で参加するので現地についたらパーティを組んでもらって構わん。

人数の上限は6名だ。それでは現地へ移動するぞ。」


「ねぇ、オニキスちゃん、シャマちゃん。

良ければボクとパーティを組まないかい?

ボクは元々戦士科の生徒だからきっと役に立てると思うんだよ。」


 Sクラス魔法科に入れる実力を持つSクラスの戦士。

間違いなくこの学園でもTOPクラスの実力を持っているであろう彼女の誘いは大歓迎だった。

 オニキスは笑顔でそれを快諾する。


「こちらこそよろしくお願いします。リコスさん。」


「オニキスちゃんがそれで良いのなら、シャマに異存はないのです。」


「よろしくね。」


 爽やかな笑顔を浮かべて握手をしてくるリコス。

オニキスの柔らかな手を握り

彼女の心の中は今オニキスへの情欲で溢れ返っているのだが、

それを全く悟らせない見事な爽やかスマイルであった。


 実は彼女の最も高いスキルはこのポーカーフェイスなのかも知れない。


 そんなことにまったく気が付かないオニキス、

労せず学園TOPクラスの生徒に近づくことが出来た為にご機嫌だった。




 この上機嫌で無邪気な笑顔が更にリコスの目を欲望に濁らせていたのだが……。




 その時、ふと視線を感じたリコスが振り返る。

そこにはすべてを見透かすような目をした一人の少女が佇んでいた。


 オニキスの従者にして忠実なるしもべ ――シャマ。


 シャマはリコスのその欲望に濁った目にすぐに気がついた。

自らの主に欲情する歪んだ嗜好をその鋭い眼力で正確に見抜いていたのだ。


 しかし、主への歪んだ愛情においてこの世界に並ぶものは居ないと自負する女。

このまま放置したほうが面白いものが見れそうなので、

あえてオニキスには何も伝えない決意をする。


 見つめ合う従者(へんたい)エリート(へんたい)

二人は確かに通じ合う何かを感じていた。


ガシッ!


 熱い握手。二人の心が合わさる。


 リコスとシャマは同じ志を持つ同志としてその絆を深めていくのだった。


 知らぬはオニキスばかりである……。




――――――




 サントアリオ王国の東には、広大な森林が広がっている。

クルヴィ大森林と呼ばれる森林。

そこには数多くの動物やモンスターが生息している天然のダンジョンだ。


 深部にはエルフも住んでおり、このエルフ族はサントアリオ聖王国が

唯一敵対していない亜人族である。

 そもそもエルフの住む集落は大森林の奥地であり、その数も少ない。

そのため人間との衝突はおろか、その姿を見ることすら稀である。


 奥地に行けば危険な魔獣などが生息する大森林ではあるが

浅い地域には比較的弱い魔物や動物が多く、

駆け出しの冒険者などの訓練やモンスター討伐依頼など、何かと人の出入りが多い場所でもある。


 今回の討伐授業は、この大森林の浅い場所で行われる。

移動用の土龍車に揺られながらグレコからの説明を聞く。


「さて、普通のクラスであれば実地訓練はまだまだ先の話になるのだが、

お前たちSクラスの基礎能力は中堅冒険者以上である。

したがってお前たちSクラスの生徒には実戦経験を多く積んでもらうために

こう言った実地訓練を多めに行う。」


 なるほど、と、オニキスは頷く。

確かに先の戦争に於いて、

フェガリに攻め込んできたという勇者たちは

押し並べて若者たちであった。


 そして、その若者たちの戦闘力は高く、

その戦闘経験もまた豊富であったという。

 その話を聞いたときは、何故学園に通っていたはずの学生たちが、

これほど戦闘経験豊富だったのかと不思議に思い色々想像していたが、

なるほど学園と言っても授業よりこういった訓練に重きをおいた教育をされていたのかと納得した。


「フェガリの学校とは大分違うものだなあ……。」


 と、思わず小声の素の口調でつぶやいた。


「最初の授業ではあるので不安だとは思うが、

今日皆に向かってもらうのは所謂ゴブリン退治というやつだ。

最近森林付近の村の畑が荒らされているのでそれなりの数に増えていると予想される。

ちなみにこれは正式な冒険者ギルドからの依頼なので

討伐証明にゴブリンの右耳は持って帰ってこいよ。

換金は出来ないが、学園内で使えるポイントに換算されるからな。

なお、スライムなどもいるが、そちらは対象外だ。

持って返ってくるんじゃないぞ。」


 学園内ポイントとは全寮制の聖サントリアリオ学園内でのみ使用可能な通貨のようなものだ。

ポイント以外に現金を使うことも出来るが、基本的に実家からの仕送りなど以外では

現金を手に入れる機会の少ない学生はこのポイントを貯める。

 ポイントはこのような実地訓練が冒険者ギルドからの正式依頼であった場合や、

休日に個人で学園内の冒険者ギルド出張所から依頼を受けることで貯めることが出来る。


 食事や文具と言った者は学園から支給されるが、

菓子類や飲み物などの嗜好品、装備品や制服以外の衣服などが主な使われ方となる。

ちなみにこの世界は15歳で成人扱いとなるのでお酒なども交換可能である。


「いやー、ポイントがもらえる授業は嬉しいねえ。

ボクは魔法科に移動したばかりだから武器がこの細剣しか無くてね。

魔力増幅系の武器がほしいと思っているんだよね。

あ、そういえばオニキスちゃん達は武器は持ってないのかい?」


「私はこれを愛用してますよ。」


「シャマはこれです。」


「え、えー?」


 ドヤ顔で武器を見せるオニキスにリコスのか顔が引きつる。

オニキスの手には反りのある刃渡りの長い刃物、刀が握られていたのだ。


 シャマの方はメイスだ。

こっちは魔法科でも使う人間はいるが、

シャマの持つものは明らかに近接格闘用のメイスであり

一般的な魔法科生徒の装備とは言い難い。


「あー、ふたりとも魔法力強化系の装備は持ってないのかい?」


 言われてオニキスは周りを見回す。

確かに他の生徒は可愛らしいデザインのワンドなどを装備していた。


「シャマは、あんなワンドで戦うほうが解からない。

あれでは接近された時詠唱しながら回避に専念しなくてはいけません。

その点、このメイスであれば相手の武器ごと頭蓋を破壊することが出来ます。」


 頭のアタリをコツコツしながら脳みそブシャァとジェスチャーをする。


「シャマちゃん!?怖いよ?あとその発想は魔法科生徒としてはおかしいからね???」


「ふふ、私こう見えて刀の扱いは自信があるんですよ。現地についたらお見せしますね。」


 身振り手振りで上機嫌に刀を振る動作をするオニキス。

その可愛らしさに同じ土龍車にのったクラスメイトの視線を集めるが本人は気が付かない。


 そしてその視線の中に一つ、憎悪に濁った視線が混じっていることも……。




――――――



「それじゃあオニキスちゃん。刀の腕前見せてくれるかい?」


「はい、それでは居合を少しお見せします。」


 現地についてすぐに先程言ったとおりオニキスが刀技を披露する。

さきほどは魔法科の生徒であるという先入観から驚いてしまったが、

刀を携えるオニキスの立ち姿は堂に入っている。


 ゴクリ……。


 リコスの剣士の血が騒ぐ。

 オニキスは目を閉じ静かに息を吐く。次の瞬間、空気が変わる。


「ふっ……。」


 抜手を見せぬような素早くスムーズな抜刀。

オニキスの抜き放った刀はそのまま抵抗なく立てかけられた木を切断し、

振り抜いた刀はそのまま手からスっぽ抜けリコスの顔をかすめて後ろの樹に突き刺さった。


「…………うわぁぁぁぁぁぁっぁ!!」


「うわぁぁぁぁぁぁごめんなさいいいいいいい。」


 とっさに回避したが、

その直前の見事な抜刀術に目を奪われていたために危うくあの世へ旅立つところだった。


「ごめんなさい!リコスさんお怪我はありませんか?」


 泣きそうな顔で謝ってくるオニキスに苦笑しつつ、問題ないと言う。

握力不足でスっぽ抜けてはいたが、その直前の太刀筋は恐ろしく鋭かった。

しかし必死に謝るその姿は非常に愛らしく、

死の危険と太刀筋と可愛らしさと、いろいろな意味でドキドキしてしまう。


「オニキスちゃんは、身体能力クソ雑魚なのでちゃんと気をつけて下さい。

流石にこんな変態でも死なせてしまっては色々問題になる可能性もあります。」


「ちょっとシャマちゃん?大問題だからね!?」


「うう、ごめんなさい。刀に魔力を通して一体化すればこのようなミスはありませんので、

本番では安心して下さい。」


 しょぼくれながら刀を収めていると森の中からゴブリンが一匹現れた。


「でましたよ、オニキスちゃん。汚名挽回のチャンスです。」


「汚名は挽回しませんよ!?」


 心無い従者の意図的な言い間違えにツッコミつつ抜刀する。

音もなく堕ちるゴブリンの首。

魔力をまとった刀はその刀身を薄く輝かせながら光の軌跡を残す。

 鋭利な切り口は出血すらしていなかった。

切り落とされた頭部も何が起こったか理解できておらず、

未だ口をパクパク動かしている。


「すごい、ボクの出番なんかいらないくらいの剣技だね。」


 爽やかに笑うリコスの足元にもゴブリンが二匹倒れていた。

弓矢を持っている。ゴブリンアーチャーだ。

 茂みに隠れている後衛を即座に見つけ出し始末しているあたり、

リコスの腕前も相当に高いことが伺える。


 ふと横を見るとシャマが無表情でゴブリンの耳を素手でちぎっていた。


グロッ!


ナイフとか持ってないのかこいつは。


「さて、早速3匹退治で幸先いいですね。」


「そうだね、死体は腐ると疫病のもとになるから燃やしておこう。

……ん?」


 ふいに言葉を切ると森の方を睨むリコル。


「……悲鳴?オニキスちゃん、シャマちゃん、誰か襲われてる。

すぐ動ける?」


「「はい」」


 返事を聞くと即座に森へ入るリコス。

後から二人が追う。

 悲鳴の主はこちらに向かって逃げてきていたようで、

森に入ってすぐに合流することが出来た。


「た、た、たすけてくださぁぁぁぁい。」


 走ってきたのはサントアリオ学園の生徒だった。

服装からして治癒術士だろうか。

短く切りそろえられた綺麗な金髪。

背丈は低く体は細身であるために一見すると子どものようにも見えるが

その胸部にはアンバランスな凶器が揺れていた。

顔立ちは……涙と汗にまみれていてひどい状態だが、

平時なら整った顔だと思われる。


 しかしおかしい。

泣きながら逃げている彼女の後ろには、

当然追ってきている魔物がいると思ったのだがその姿が見えない。

 代わりにいま彼女の足元にはシッポを全力で振っている

可愛らしい子犬がじゃれついていた。


「ひ、ひぃぃ。ワンちゃん。ゆるしてくださいぃぃぃ……。

怖い怖い怖い~~~!」


 一気に弛緩する空気。


「まさか……君はこのワンちゃんから逃げていたのかい?」


 じゃれつく犬を追っ払って上げながら尋ねるリコスに

必死に首を縦に振る少女。


「ご、ゴブリンを退治しようと思って森に入ったら。

いきなりあの子が駆けてきて……こ、怖かったですぅぅぅ。」


 普通ゴブリンのほうが恐ろしいと思うのだが……。


「あ、助けてくださってありがとうございました。

私、治癒術士のリーベ=グリュックともうします。」


 犬がいなくなると平静を取り戻した少女が自己紹介をしてきた。

落ち着きを取り戻すと始めの印象とは大分変わり、

おっとりとした可愛らしい美少女がそこには居た。


 あ、リコスの目が舐め回すようにリーベを見てる。

食指が動いたようだ……。

シャマがいつもよりちょっと冷ややかな視線をリコスに送る。


「リーベちゃんは一人かい?

治癒術士が一人で行動するのは少し危ない。よかったら一緒に行かないかい?」


 言っている事は至極まっとうなので何も言わないことにする。


「せっかくなのでみんなで一緒にやりましょう。そのほうが楽しいですし。」


 手を差し出すオニキスを見て顔を真赤にしながら首を縦にブンブン振るリーベ。

落ち着きはないが治癒術士が加わってくれたのは心強い。

 そのままオニキス達は問題なくゴブリン狩りを再開したのだった。



――――――




 ゴブリンをある程度倒し終え休憩している時だった。

皆から少し離れたところでオニキスは変な生き物を見つけた。

 半透明でプルプルとした楕円の球体。

指で押してみるとふにふにと心地よい。


「ふふふ、なんかかわいい……。」


 これはスライムの一種。ゼリーか。

触るとちょっとだけ反応する様がなんとも可愛らしい。


しかし、ふにふにとした感触に先刻の事を思い出す。


 ――貧乳コンプレックス疑惑


 思えばこういうものを胸に仕込んでおけばあんな悲劇は生まれなかったのだ。

女装に対してのツメが甘かった。

ため息を付きつつゼリーを拾い上げ胸元に合わせながらふにふにする。


 ふと顔をあげると遠くに居たはずのリコスがいつの間にか近くにいた。


 見られた……。


 なぜか凄く哀れなものを見る目でこちらを見つめている。


 ガバァ!!


「オニキスちゃん、そこまでッッ…………!!

大丈夫、胸の大きさなんて君の魅力の前では些細な問題さ!!

そんな物を詰めようと思うほど追い詰められていたなんて。」


 泣きながら抱きしめてくるリコス。

苦しい、しかもまた大きく勘違いしている。


「ち、ちがいます!誤解です離して!!」


「大丈夫、ボクには強がらなくていいよ!!

なんならボクが毎日もんで大きくしてあげるからねええええ!!!」


「あわわわ、リコスさん破廉恥です~。」


 顔を赤くして手で顔を抑えるリーベ。

指の間からきっちり覗いている!


 そしてなぜか親指を立ててるシャマ。


 もうやだ。何なのこのパーティ。


 泣きそうになりながら、

この貧乳コンプレックスの誤解をどう解くか思いを馳せるオニキス。

 しかし多人数で狩りをするという初めての体験に、

その表情は自然とほころぶのであった。






 ――だが、浮かれていたオニキスは、

この姦しくも微笑ましい光景を

暗い感情で見つめる影があることには気がつくことはできなかった……。





補足

土龍車はでかいトカゲが引く馬車的なものでこっちの世界で言うところのバスに相当します。

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