第十七話 苦手……ではないですよ?
★あとがきにオニキスのイラストUPしてあります。
イメージを大切になさりたい方はご注意下さい。
一応スペースを開ける予定ですので下の方にスクロールしなければ見えないと思います。
全身は https://ncode.syosetu.com/n0007ea/1/ こちらで見れます。
53
「それでは自己紹介は終わったな?これよりオーガを召喚するので、それを倒してもらう。召喚された魔物なのでお前たちの命が危なくなった場合は、強制送還されるので死ぬことはないが、その手前までは攻撃してくるので気を抜かないように。」
ざわ……
グレコの口から語られた、わりとハードそうな授業内容に生徒たちはざわめく。無理もない、死ぬ危険はないと言われても相手はオーガ。今までの授業で戦ってきたゴブリンやスライムなどと比べ、圧倒的な強さと討伐難易度を誇る魔物である。
「オ、オーガかー。俺見たことすらねえけど、彼奴等って確か身長3メートルとかあるんだよな?」
「そうっすね……シルト、良いやつだったッス。残念ッス……。」
「やめろ、まだ生きてる!!」
緊張するシルトに向かい両手を組み祈るシーカ。縁起でもない不謹慎な行動ではあるが、軽口を叩く内に、オーガの名前を聞いて青ざめていたシルトの顔色が良くなっていく。ケラケラと笑いながらシルトをからかうシーカであったが、どうやら彼女なりにシルトの緊張をほぐそうとしているらしい。
「お二人は仲がよろしいのですね~。」
「「どこが(ッス)!?」」
リーベの声に息ぴったりで反応しつつもギャーギャー反発する二人。どう見ても仲良し二人組にしか見えないのだが、本人たちは認められない何かがあるらしい。
「……そろそろ、始まる……。」
「ふぇっ!?」
あまりに無口だったので存在を忘れていたカマラダが急に声を上げたため、リーベが短く悲鳴を上げる。
「お、マジか、どれどれって……うぉぉぉぉでけぇ!?」
「うーわ、数字で見るより、実物のほうが遥かにでかく感じるッスねえ。」
「ふぇぇぇぇ。」
教室の四方を四人の教師が固め、内二人が召喚術を唱えオーガが召喚される。直後、残りの二人の教師により強固な二重結界が展開され場が整い、いよいよ連携術の講習が始まった。
「盾役、前へ!!来るぞ!」
「オウッ!」
各班リーダーの指示が飛び、各々慣れないながらも自らの役目を全うするべく動き出しす。
「お、動き出すみたいッスよ。」
シーカがそうつぶやいた直後、3メートルの巨体が一斉に動き出した。初撃、その長身と腕の長さを活かした拳の振り下ろしが繰り出され、それを受けた4班の盾役から一斉に重く鈍い金属音が響く。どうやら初撃を盾で防ぎ損なうような生徒は居なかったようだ、この辺りは流石Sクラスといった所か……。だが、その巨体に似合わない俊敏な動きから繰り出された二撃目、これを半数の盾役は防ぎ切ることが出来なかった。盾役が崩壊してしまえばパーテーィというものは意外と脆く、あっという間にオーガに蹂躙され、二班が瓦解してしまった。敗北した班は即座に退場、即座に治療が施される。
「これは、意外と厳しい授業ですね。」
「ふえぇ、でもオニキスお姉さまがいればオーガだって楽勝ですよね?」
「んー、単身で倒せと言われれば可能ですが、今回は連携術の授業ですから。私は中衛でのサポートに徹しますのでリーベも頑張らないと駄目ですよ?」
「は、はい!頑張りまひゅ。」
両手をぐっと握り気合を入れ直したリーベは、頼もしいと言うより可愛らしく、それを見たシルト達の顔が緩む。彼女のこういった空気は、治癒術とはまた違った癒やしを周りに及ぼし、戦場では思わぬ力を発揮するだろう。リーベは自覚していないだろうが、彼女はあらゆる意味で癒やしの存在と言える。彼女が何時か精神的にも成長した時、まさしく聖女と呼ぶに相応しい存在になるだろうとオニキスは思った。
(その時……願わくば、彼女と刃を交えるような事にならないようにしたい物ですね……。)
いつか来るかも知れないその時。もしも彼女が祖国を滅ぼす者となったとき、果たして自分は……。
「あ、お姉さま!!C班、シャマちゃん達が出てきましたよ!!」
暗い考えに沈みそうなオニキスをリーベの明るい声が遮った。
「あ、本当ですね。あそこの班は治癒術士が居ない代わりに盾が二枚ですか、どうやって戦うんでしょうね。」
「多分盾役二人がオーガの攻撃を集めて、アタッカーが切り刻む感じなんじゃねえッスかね。」
「頑張れシャマちゃん!リコスさーん!!」
リーベの明るい声援が響いた直後、シャマ達の戦闘が開始された。
「いきますよー。」
気の抜けたシャマの掛け声に合わせ、盾役二人が飛び出した。
「やっぱり私の思った通りの展開ッス、流石私ッスねー。」
「いや、あれは……。」
直後、リコス、シャマ、ディアマンテが盾役を追い越して一斉にオーガを襲った。リコス、ディアマンテの斬撃がオーガの両肩を引き裂き、シャマのメイスがオーガの頭部に叩き込まれる。ダメージによろめいたオーガだったが、崩れた体勢を無理やり力で修正し、即座に反撃に移ろうとした。が、オーガが反撃をするより早く、二人の盾役、ヴィゴーレとファルケンはオーガの両サイドに立ち、全力で盾撃を叩き込む。
巨大な盾に左右から抑えられたオーガは反撃することが出来ず、そのままリコス達の剣に切り刻まれた。頭部に幾度目かになるシャマのメイスの一撃を受け、オーガは断末魔の声を上げるかのように天井を仰ぎ、遂にその両膝を折り絶命した。
「見たか、C班の流れるような美しい連携を!!」
無表情でポーズを決めたシャマだったが、直後グレコに頭を叩かれる。
「調子に乗るな、馬鹿者。あんな雑なゴリ押しを連携とは言わん、特にシャマ=フォティア、リコス=エヴィエニス。お前らは魔法科だろう。後衛をしろ、後衛を!これじゃ、何のための班だかわからん。」
「えぇ……。」
「やっぱりじゃないか、ボクこれは駄目だってちゃんと言ったからねー、シャマちゃん?」
「だから言ったじゃないか、攻撃はこの僕の次元烈斬にまかせてくれたまえってね、フフーフ。」
「まあ、流れと動きは良かった。格下の相手であればあれは十分強力な連携だったと言える。治癒術が使えない班だから攻撃に集中するのも悪くない。だが……次回はちゃんと魔法使えよ?こんな注意をSランク魔法科生徒にしたの初めてだぞ……。」
「は~い。」
渋々といった雰囲気を隠しもせず返事をするシャマ。それを見たオニキスからため息が漏れる。
「……あれは、次回もスキあらば前衛に飛び出すつもりですね……反省してない顔です……。」
「ふえぇぇ……。」
何故あんな好戦的なシャマが白”姫”なのか謎ではあるが、ギャラリーの眼差しは確かに憧れの色を浮かべている。何処の世界にメイスでオーガを殴打する姫が居るというのか……そしてあれと並び称されている自分が、どの様な目で見られているのかという想像をし、戦慄した……。
「き、気を取り直して、他に参考になりそうな人は居るか探しますかね……。」
そうつぶやき、周りを見渡すと、シーザー=トライセンがこちらを見つめて微笑んでいるのが見えた。
どうやら丁度シーザーの班も戦闘を開始する所であったらしい。シーザーはオニキスの視線に気がつくと、オニキスの目を真っ直ぐに見つめ返し、髪をかきあげ、オニキスを指差しながら大声で宣言をする。
「見ていて下さいオニキスさん。この戦い……麗しの黒姫に捧げる!!」
バッチーン!!と音が聞こえそうなほどのウィンク。異常に白い歯が輝き、女生徒達の悲鳴にも似た歓声が上がり、オニキスの背筋を寒気が登っていく。
「な、何故か彼に見られると背筋がゾクゾクして変な汗が出ますね……。」
「黒姫ちゃんはシーザー君が苦手なんッスか?めっちゃイケメンだし将来有望の勇者候補筆頭ッスよ?」
「苦手……苦手……?違うと思うのですけど、彼に見られると……こう、何というか、怖気が走ると言いますか……。」
「お姉さま、それは結構苦手な人に対する反応だとおもいますぅ……。」
青い顔で身も蓋もない感想を述べるオニキスだったが、そんなことはお構いなしに、シーザーのオーバーなパフォーマンスは続く。
「さあ諸君、行くぞ!!」
「は、はい!」
呼び出されたオーガと対峙したシーザーは、掛け声を上げ、勢いよく間合いを詰めていく。その速度はオニキスをして瞠目するほどに鋭く、オーガが拳を振り上げた時には、何故かオーガの後ろに立っていた。
「遅い!!」
鋭い斬撃がオーガの足の健を斬りつけ、体勢を崩す。
「ほう……。」
オニキスはあれだけの速度を誇るシーザーが、態々後ろに回り込むのはなぜかと疑問に思ったが……なるほど、この様に足の健を斬ることによって、他の班員に安全に戦闘経験を積ませるつもりなのか。このシーザーと言う人物は性格はどうあれ、戦闘における役割と言う物をよく理解している……侮れない人物だ……。そうオニキスはシーザーの評価を上方に修正する。
オニキスがそんな事を考えていると、オーガは突然の攻撃のショックから立ち直り、シーザーに向かってその拳を振り下ろした。
「甘い……!!」
「え?」
思わずオニキスは驚きの声を上げてしまった。なぜなら、オーガの拳に即座に反応したシーザーは、その巧みな剣術でオーガの拳をいなし、再び背後に回リ込むとその剣を振り下ろしたのだ。まだ彼の班員達はオーガのもとに到達すらしてないと言うのに……。
「終わりだ……。煉獄破斬!!」
明らかにオーガを仕留めるには過剰な炎が巻き起こり、結界内に炎が吹き荒れる。直撃したオーガは当然灰も残らず燃え尽き、シーザーは技を放った姿勢のままその場に立っていた。暫くその余韻に浸るような所作を見せ、ゆっくりと立ち上がるとオニキスを見つめ、先程より更に眩しい笑顔でウィンクをした。
「……リーベ。」
「はい、なんでしょうオニキスお姉さま?」
「私……あの方が苦手です……。」
「解ります……。」




