第十六話 班分け
先週は更新できず申し訳ありませんでした。
脱稿いたしましたので今週から元の更新速度に戻ります。
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――簡単な説明を受けた後、ある程度実力別に分けられた生徒たちは、それぞれの科毎に集められ、教師の指示に従い、仮の班を組み始める。後々ある程度の交流がなされた後は、手続きを行ったの後に教師の許可を得て班のメンバーを変更することも出来る。が、生徒主体で決めさせると大概戦力的に偏った状態になるので、基本的にはこの最初の班分けのまま授業は進む。
「……――以上がSクラスの班だ、各人それぞれの班ごとに別れろ!」
バァンッッッ!!!
鼓膜が破れそうな手拍子の音と共にグレコの野太い声が響き渡る。
「相変わらずあの手拍子は凶器ですね……ってどうしたんですかシャマ!?」
「……。」
何となしに横の従者を見れば、そこには完全に血の気を失い蒼白になりながら震えるシャマが居た。今まで見たこともない状態のシャマ、一体何事かとオニキスに緊張が走る。
「……こんな……こんな事って……オニキスちゃんと別々の班だなんて……あいたっっ!」
「バカな事で過剰なリアクションしないでください、何事かと驚くでしょうが!私達は同じ魔法科なんですから同じ班に配属されるわけ無いでしょうに。」
「バカとはなんですかぁ、別々の班ですよ!シャマとオニキスちゃんが引き裂かれたんですよ!?」
「人を猟奇的な殺され方した人みたいに言わないでください……。」
頭を叩かれ目尻に涙を浮かべながら猛抗議する駄メイドを無視し、オニキスは班分け表を見てみた。残念ながら自分の班には知り合いがほぼ居ないようだが、シャマの班には見覚えのある名前がズラリと並んでいた。
Sクラス C班
シャマ=フォティア
ディアマンテ=エヴィエニス
ヴィゴーレ=ボテスタース
ファルケン=イグニオール
リコス=エヴィエニス
「王子がいるじゃないですかぁぁぁぁ!!何で!?王子も魔法科でしょう!」
「そりゃ後衛が一人って決まりは無いですからそういう事もあるかもですね……あはは、一緒になれなかったのは残念でしたね……。」
笑って誤魔化しては見たつもりだったが、ジト目のシャマに見つめられ少し居心地が悪い。別に自分が何をしたでもないのに睨まれたオニキスは、理不尽さを感じつつも今度は自分の班のメンバーを眺める。
Sクラス E班
オニキス=マティ
リーベ=グリュック
カマラダ=キャマラード
シルト=ドーン
シーカ=ブニャウ
「あ、見てください、リーベが一緒ですよ!やりました。」
知っている名前を見つけ無邪気にはしゃぐオニキス。だがそれは、横にいる従者の神経を逆撫でする以外の何物でもない行為だった……。
「ギギギ、あの淫乱ピンク……まさか教師を買収して……。」
「そんなこと~やってませ~ん!!あとピンクでも淫乱でもないですよー!」
メンバー表を眺める二人の後ろから聞き慣れた間延びした声が聞こえる。振り向くと頬を膨らませ猛抗議をするリーベが立っていた。……が、間延びした声と本人が醸す雰囲気のせいで全く恐ろしさがない。頬が膨らんでいるせいで何時も以上に小動物っぽさが増している気すらする。
「む、噂をすればなんとやらですね、こんにちは狂信的同性愛者。」
「シャマちゃん!?何か名前のニュアンスが変な気がするよ~!」
「こんにちはリーベ、連携実習は同じ班ですね。よろしくおねがいします。」
「はぅあぁぁ~お姉さまぁ、不束者ですがこちらこそお願い致します~。」
眼からハートを飛ばしながら喜ぶリーベ。舌打ちしつつガンを飛ばすシャマ。班分けの明暗分かれる光景であるが、もう授業は始まっているので何時迄もそうしているわけにもいかず、シャマは怨嗟の声を上げつつ渋々自分の班へと移動を始めた。その後姿は、まるで幽鬼の如き禍々しさを放っており、あれを白”姫”とは呼べないだろうとオニキスは苦笑いを浮かべる。
「さしずめ白い悪魔とでもいいますか……。」
遠くから一連の流れを見ていたリコスが苦笑いを浮かべながらシャマを慰めようとして八つ当たりをされているのが見える。その様子を見ていたオニキスの中で、理不尽な仕打ちをうけるリコスに親近感が湧いった。
「……さて、私達も行きますか。」
「はい、オニキスお姉さま!」
オニキスの言葉に春の陽気のような明るい笑顔でうなずくリーベ。比べて遠くで傍若無人に暴れている駄メイド。こうして比べてみると、なるほどフェガリ人が魔族と言われるのも納得がいくなぁと、オニキスは遠い目をした。
……――――
「それでは自己紹介をしよう。まずは俺から。俺の名前はシルト、シルト=ドーン。盾術科だ。あんまり早く動くのは得意じゃねえが、硬さには自信があるぜ?」
班員が揃ったのを見計らい、シルトと名乗った青年が自己紹介をする。短く刈り揃えられた金髪と、空色の瞳がさわやかな印象を持たせる。体は特別大きいわけではないが、巨大な盾を扱えていることから中々に鍛えられているように思われる。シルトの紹介が終わるとその横に座っていた少女が立ち上がる。ダークグレーのストレートヘアーの少女は腰に剣を下げているが、その立ち姿は非常に華奢で頼りなく、今にも消えてしまいそうな儚ささえ感じさせる。……どう見ても前衛職には見えない出で立ちの少女であった。
「シーカ=ブニャウッス!剣術科でっす。見た目こんなッスけど、こう見えてSクラスなんで前衛はまかせて欲しいッス!」
儚げな見た目に似合わず力強い声に一同呆気に取られていると、シーカと名乗った少女は悪戯が成功した子供のような明るい笑顔を浮かべて笑っていた、どうやら見た目の儚さとは180°真逆の人物であるようだ。
「……斧術科……カマラダ……。」
対象的に次に自己紹介したカマラダ=キャマラードは物静かな男だった。新緑を思わせる明るい緑色の髪を後ろに纏め、鍛え抜かれた巨躯をほこるカマラダであったが、シーカとシルトの話によると、極度の照れ屋であるとの事。彼等前衛職は武器ごとそれぞれの科に属しているが、基本的な座学は別々に学び、実技は合同の授業という事が多いらしく、お互いに面識もあるらしい。
「あ、あの、リーベ=グリュックでひゅっ!ふぇぇぇぇ舌噛んじゃいました!リーベ=グリュックですぅ。治癒術科……でしゅ!あうう……。」
自分の番が来て慌てて立上った勢いで、盛大に舌を噛んでしまったらしい。リーベは今日も平常運転だ。
「グリュック……ああ、あんた聖女様の一族か!」
「おー、聖女様と組めるなんてこれはラッキーッスね!!」
「……。」
リーベの自己紹介が終わり、シルトとシーカがグリュックの家名に気が付き反応をする。
「ふぇっ、確かにお母様は聖女をしてましたけど、私はそんなに……あの、あの……。」
褒められなれてない上に過剰な期待をかけられたリーベはプレッシャーで目を白黒させていた。オニキスはそんなリーベを笑顔で眺めつつ立ち上がる。
(慌てるリーベは本当にリスの様で可愛らしいですねえ。さて……。)
「それでは最後に私の自己紹介『うぉぉぉぉ!!黒姫様!』ひぇっ!?」
自己紹介をしようと思った瞬間、シルトが野太い声をあげる。
「ちょっとシルト、せっかくの生黒姫ちゃん何だから邪魔しないでほしいッス。」
「ナマ!?」
「悪りぃ、でもよ、生だぜ、生黒姫。これは滾るだろ!?」
「こっちも生!?」
「ちょっと黙ってろッス。」
いきなりの展開に混乱するオニキス、興奮するシルト。そんなシルトに冷たい視線を向けるシーカ。突然自己紹介の場が混沌としてきてしまったが、オニキスは気を取り直し自己紹介を始める。隣からは「ふぇぇぇ~」と聞き慣れた鳴き声が聞こえてきた。
「皆様、宜しくお願い致します。オニキス=マティです。魔法科ではありますが、前衛も出来ますので皆様のお役に立てるよう頑張らせていただきます。」
優雅に礼をしつつ自己紹介をするオニキスに全員から感嘆の声がもれた。いや、約一名だけはそれだけでは終わらなかった。
「うぉぉぉ~、マジか!マジでお姫様みてぇだ!!凄えぞシーカ、これからこのお姫様を俺の好きにして良いのか!?マジか!ありえねえ、夢みたいだ!!」
「いや、落ち着けッス。お前は女を攫ってきた山賊の頭領か何かッスか。そんな事したら速攻で班替えッスよ。いや、速攻退学ッスよ?」
「オニキスちゃんに指一本でも触れてみるですよ?退学なんて絶対させません。お前の体を指先から徐々に徐々に鋸で削りとって、発狂する直前まで追い込んだ後に、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も体と心を治癒させて、お願いだから殺してください。って無様に懇願するまで甚振り倒しますよこの腐乱犬。」
「怖っ!?」
いつの間にかオニキスの後ろには不機嫌そうにシャマが立っていた。今の話を聞いていたようで、絶対零度の視線と殺気をシルトに向けていた。強烈な殺気を浴びたシルトは、生まれたての子鹿のようにブルブルと震え、その目にはうっすらと涙が溜まりつつあった。
しかしシャマは、勝手に自分の班から抜け出してこちら来ていたらしく、その事にすぐに気がついて迎えに来たリコスにお姫様抱っこで回収されていった。
「離せ、離すですよ王子!あんな獣の群れにオニキスちゃんを残していく訳には行かないんですー!孕む!!オニキスちゃんが孕まされます!――ピンク!ピンクー!!シャマと替わって下さいぃぃ!!」
「ふえぇぇぇ、無理だよぉ~!?」
何やら喚いているが、お姫様抱っこされている状態では為す術などある訳もなく、騒いでいるシャマの声は徐々に遠のいていった。その様は、お姫様抱っこをされているにもかかわらず、姫というよりは出荷されていく子牛のようだなとオニキスは思った。
「……ん?群れ!?ちょっとシルト、あんたのせいで私らまで白姫ちゃんのターゲットにされてるッスよ!?」
「いやー、白姫ちゃんマジこえー。俺、生まれて初めて死ぬかと思ったわ。あの目はマジだったな……。」
「いやいやいや、マジ白姫に殺されたらブッコロッスよシルト、絶対ブッコロッス!!」
「殺されてんのにどうやるんだよ……。」
「すいません、すいません、シャマには私が後できつく言っておきます……。」
駄メイドのせいで自己紹介は散々なものになってしまい、申し訳無さで小さくなるオニキスだったが、取り敢えず班員の人となりを垣間見れたので、これはこれで良かったのかなと思いつつ、いよいよ始まる実技の授業に僅かに心が踊るのだった。
シーカの語尾がッスですがミルコとは無関係です。
シャマの名字、つけ忘れていたのでなにかの伏線にしようかと思いましたが、
何も思いつかなかったので公開……。
新キャラ多めに出てしまったので整理します。
シルト 盾、金髪ケダモノ
シーカ 儚げ系ガサツ剣士 ッス
カマラダ 斧 無口
ディアマンテ リコスの兄 ダンジョンで一緒だった変人
ヴィゴーレ ディアマンテの友人ゴリラ 治癒のゴリラ ダンジョンでいっしょだったゴリラ




