第三話 男装の麗人と美少女の悩み
ストックなどはないのでこれから更新速度はこんな感じか、もう少しゆっくりになると思われます。
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色々と騒ぎにはなったものの、
無事クラス分けも終え、オニキス達は晴れてSクラスに所属することとなった。
テスト内容を聞いた学園側がオニキスを警戒していたがそこはグレコが彼女の人格等に問題は無く、
今のところ素直で良い生徒だとフォローを入れたお陰で事なきを得ていた。
こうしてオニキスとシャマの諜報活動は無事、大きく目立ちつつ開始されることとなった。
「とは言え、あの魔法は一体何だったんだろうな……。
本人は低級魔法と言っていたが、アレの意味も全くわからん……。」
フォローしてみたものの、明らかに普通ではない教え子に胃が痛くなってくるグレコであった。
――――――――
「おはようございます。」
抑揚のない挨拶と同時に教室のドアが開く。
入ってきたのは銀髪に赤い瞳の少女――シャマである。
そして、その後ろにコソコソ隠れながら小声で挨拶をして入ってくる黒髪……
いや、頬っ被りをした怪しい人物。
「オニキスちゃん、どういうつもりかは知らないですが目立ちすぎです。
すぐにその珍妙な被り物を外すか、
私とは無関係の人間になって二度と話しかけたりしないで下さい。」
「シャマさん!?後者ひどすぎません?」
頬っ被りを外すとその下から綺麗な黒髪が流れ落ちる。
”オニキスちゃん”こと魔王オニファス=アプ=フェガリである。
女装も板に付いてきており、自然になされる会話からはすでに魔王の威厳は完全に消えつつあった。
周りを見渡せばクラス中の生徒が会話を止めオニキスたちに注視していた。
そんな中、一人の男子生徒が立ち上がりこちらに近づいてくるのが見える。
涼し気な薄い青みがかった髪を短く切りそろえ、
前髪で顔の右半分を隠しているような髪型。
整った顔立ちは実に精悍な印象を受けさせる。
青い瞳はこちらを射抜くような鋭さを持っているが不快感はなく、
笑みを浮かべたその姿はまさに美男子といった感じである。
スラリとした長身は引き締まっており、鍛え抜かれている印象を受けるが、
その胸元には凶悪なほどの膨らみが見て取れた。
そう、彼女は男子の制服を身に着けているが女性なのであった。
「やあ、はじめまして。キミは新入生ちゃんだね?
僕はリコス=エヴィエニス。クラス分け試験見ていたよ。すごい魔法だったね。」
爽やかな笑顔には思わず見とれてしまい何故か顔が赤くなる。
「は、はじめまして、オニキス=マティです。
えっと……確かに私は新入生ですが貴方も同じクラスなら新入生なのでは?」
リコスと名乗った少女は少し不思議そうにした後何かに思い至り、
ああ、そうかと説明を始めてくれた。
「ん?ああ、キミはSクラスのシステムをあまり知らないんだね?
Sクラスっていうのは特別なクラスだからね。
試験を受ければ他の科からの移動もできるのさ。
授業内容が特殊だから、学年とかはあまり関係なくて、
希望者が移動してくるって感じなんだよ。
ボクもこう見えてキミより2年年上なんだよ。」
なるほど、Sクラスというのは勇者などのエリートを育成するクラスであり、
そもそも一般の生徒とはその育成の目的が異なるため、
システムその物に違いがあるのか。
このあたりの情報をきちんと調べていなかったのは迂闊だった。
が、怪しまれるほどのことでは無かったのは幸いだったとオニキスは安堵する。
「なるほど、先輩はどこか他の科から移動されてきたのですね?」
「はは、先輩は止めてくれよ。ボクたちはクラスメイトなんだからリコスって呼んでほしいな。
ボクは去年までは戦士科に所属していたんだけど、剣術の授業はもう全て修めてしまってね。
せっかくだから魔法の方も習っておこうと思ってこちらに移動してきたのさ。」
Sクラスの剣士が魔法科のSクラスに合格する。
それだけでこの人物が如何に優れた人物か想像できる。
しかし、そんなエリートがこちらに何の用事があるのか?
オニキスとシャマに表情に警戒の色が浮かぶ。
「あ、そんな顔しないで、別に何か企んで近づいた訳じゃないんだよ。
いや、目的はあるにはあるんだけど……。」
こちらの警戒に気がついて慌ててフォローを始める姿からは、
あまり敵対する者の雰囲気は感じない。
シャマは少し警戒を解いた様だが、オニキスは警戒したまま尋ねる。
「……それはなんでしょうか?」
「いやあ、ボクは男女関係なく可愛い子が好きでね。
この間の試験で見た君のことが忘れられなかったんだよ。
キミのような可憐な少女があんな魔法を放つなんて。
しかも無詠唱!ボクは一瞬女神様が降臨なさったのかと思ったほどさ!
あ、もちろんシャマちゃんの事も大好きさ。
見た目が可愛らしいのはもちろんとして、
あまり表情を見せないけどオニキスちゃんのことを大好きなのが伝わってきて
実に可愛らしい。正直になれないもどかしさとかが、あぁ……。」
一気にまくし立てながら感極まったような声を上げながらこちらを見つめるリコス。
――怪しい。
シャマが可愛いのは解る。
正直性格に難があり、表情も無く、死んだ魚のような目をしているし、
従者のくせに口は悪く、気を抜くとすぐに騙してくる危険人物であるが、
シャマは正真正銘の美少女だからだ。
しかし、元々男性である上、
有角族最強の一角である自分を指して”可愛い”、
これはあまりに不自然である。
オニキスはより一層警戒を強めた。
「あ、あれ?オニキスちゃんに凄く警戒されている気がする……。
えーと、シャ、シャマちゃんは大丈夫かな?
あの、ちょっと誤解があると思うんだけど。
どうしたのかな~?」
慌て始めるリコス。
警戒を強めるオニキス。
すべてを把握したシャマ。
少し考えた後、これはいい機会と主人に驚愕の事実を伝える。
「オニキスちゃん……恐らくオニキスちゃんは大きな勘違いをしています。
この先その認識では色々問題が起きかねませんので、ここで周囲との齟齬を無くしておくとしましょう。」
「シャマさん、それは今この場所でする必要があることですか?」
「はい、非常に重要です。」
シャマは真剣な雰囲気でそう伝えてくる。
真剣な雰囲気……だよな?
多分真面目な話だ。
オニキスは警戒を続けつつシャマの方に耳を傾けた。
「良いですかオニキスちゃん。」
「はい……。」
息を呑む。
「オニキスちゃんは……」
ゴクリ……。
「美少女です。」
……は?
いきなり何を言い出すのか?
聞き間違いかも知れない、確認をしよう。
「シャマさん?言っている意味が判りません……。
もう一回言ってみて下さい。」
「ですから、オニキスちゃんは美少女です。それもとびきりのです……。」
何を言っているのかコイツは。
予は魔王オニファス=アプ=フェガリである。
その力は屈強な有角族の中でも群を抜き、
先代魔王以外には相手になるものすらいない正真正銘の魔王。
それが魔王オニファスという存在である。
「オニキスちゃんが何を考えているか、シャマにはよくわかります。
しかし、ここでハッキリと申し上げます。
オニキスちゃんは昔から、自分が逞しく猛々しい姿であると思っておられるようですが、
残念ながら貴方は可愛いのです……むしろ可憐と言うしか無い姿です。」
信じられない、という面持ちでオニキスは周りを見渡す。
周りの人々は正気のはずだ。
自分の雄々しい姿を判っていてくれるはずだ。
そう信じて周りを見回した……が。
周りの人間の反応はシャマを肯定していた。
リコスに至ってはものすごい勢いで首を縦に振っている。
――オニファス=アプ=フェガリと言う人物は強さに憧れていた。
それ故いつでも鍛錬を怠らなかった。
溢れる才能を持ちながら慢心することもなく、その鍛錬は壮絶なものであった。
結果、彼は自分は誰よりも屈強な男であるという自負を持っていた。
事実、同族の戦士の誰よりも、彼は強くなっていたのだから。
悲劇は彼の種族が有角族であったということだろう。
有角族は基本的には鍛えれば鍛えるほど角から送られる魔力循環が強化されていく。
筋力も多少はついていくものだが、それよりも魔力が育っていってしまう。
それが有角族の特徴だった。
それ故前衛職につく戦士でも見た目にはそれほどゴツくはならないのだ。
シャマのように角を収納した上で筋肉を鍛えれば単純な筋力増強も可能ではあるが、
そんなことをする変人は有角族の中では稀な存在である。
そのことを知らないオニキスは、今、始めて自分の姿というものを客観的に見ることが出来た。
たしかに、屈強とは言い難い……腕は細く胸板は薄い。足はスラリと細長く。それでいて適度な肉付き。
女性と言われても違和感のない体であった……。
あまりの衝撃に、思わずポロポロと涙がこぼれだしてしまった。
それほどオニキスの容姿は本人の理想とかけ離れていることに今更気がついたのである。
普段自分の容姿などあまり気にも止めず、鏡などを眺める習慣がなかった故の悲劇であった。
「うわぁぁぁぁん」
居たたまれなくなったオニキスはその場から全力で逃亡した。
残された人々は何が起こったのか判らず混乱する。
「これは……刺激が強すぎました。まずいですね……。」
まさか泣くほどのショックをうけるとは……。
しかも、可愛いと言ったら泣き出して逃げてしまったオニキスの不自然さは、
流石にフォローが必要だとシャマは考える。
その時、シャマに天啓が舞い降りた。
――これしかない。
唖然とする生徒たちに向けてシャマはオニキスの悩みと
コンプレックスを説明し始めるのだった。
――――――15分後――――――
冷静になったオニキスは気まずく思いながらも教室に戻ってきた。
突然泣き出して逃げた自分を周りはどう思っただろうか。
そう思いながら教室の扉を開くとそこには優しい笑みを浮かべたリコスが待っていた。
「オニキスちゃん!!」
ガバっと突然抱きしめられる。
「オニキスちゃん、今まで辛かったんだね!
大丈夫、キミはとっても可愛いよ!自信を持って良いんだ。」
なんだ?何を言ってるのか??
ふとシャマの方を見ると親指を立ててドヤ顔をしている……。
そうか、シャマが上手くここで誤解を解いてくれたわけだな?
なるほど、流石魔王の従者は仕事が早い。
「君が貧乳だから自分を醜いと思っていたなんて!!
だから可愛いと言われて感極まってしまったんだね。
シャマちゃんに聞いたよ。
大丈夫、これからはボクが毎日君のことを可愛いと言ってあげるからね!!
なんなら毎日揉みしだいて大きく育て上げてあげるさ!!
もちろん小さいおっぱいというのもそれはそれで素晴らしいものだし、
君が自信を持てるまでボクが小さいおっぱいを愛で続けてあげるさ!!」
哀れみと情欲と愛情に満ちた目で一気にまくし立てるリコル。
そうか、シャマが上手くここで誤解を深めてくれたわけだな?
なるほどさすがの駄目従者、この空気……どうしてくれるのか。
――生暖かいクラスメイトたちの視線を浴びながら、
このどうしようもない空気に包まれ、さっきとは違う理由で泣きたくなリながら、
何とか貧乳の悩みという不名誉な誤解をといていると扉の開く音と、
聞き覚えのある衝撃波が響き渡った。
パァン!!パァンッッ!!!
「お前ら、静かにしろー。そろそろ授業を始めるぞ!」
グレコ先生の登場によってクラスの空気が変わる。
このあたりは流石にSクラスである。
ていうかグレコ先生、担任だったのか……。
「今日は初日だが授業は厳し目にいくぞ。
モンスター討伐だ。」
こうして貧乳騒ぎは沈静化し、いよいよSクラス授業が始まる。
Sクラスのモンター討伐……ここで結果を見せつけて、
自らの男らしさを証明してみせよう。
目立たず諜報という当初の目的はすでに薄れ、
女っぽいと言う不名誉を返上することが目的になりつつあるオニキス。
――もともと脳天気な有角族に諜報活動など無理だったのだ。
そして授業の内容が発表された。
ここ迄読んでいただきありがとうございました。
今回はリコルのか顔見せと授業の予定だったのですが
調子に乗って1話まるまる使ってしまいました。
話の構成って難しい。
次回はちゃんと授業と次の話などにつながるようにしたいと思いますので
見捨てないでやってつかぁさい……。
感想などお待ちしております。