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魔王で♂ですが、JKやってます。  作者: ドブロッキィ
第二部 学生満喫編
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第六話 お昼ごはんと慟哭と羅刹

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 ――盗賊砦地下遺跡。


 今この場所には遺跡の雰囲気にそぐわぬ鼻歌が流れていた。


「今日はそれほど遠くに遠征するつもりではなかったので材料が非常食しか無いですが、ありあわせの材料で即席のスープでも作りましょうかね。」


 そんなことを言いながらオニキスは手荷物から干し野菜や干し肉を取り出し始める。


「んー、スープを作るとなると出汁を取りたいところですよねー……あ、丁度良いです。これを試してみましょう。」


 鍋に水を張り、火をおこすとオニキスは徐に立ち上がり、山のように積まれたスケルトンの残骸を拾い集め始めた。


「お、おい、嬢ちゃん。まさかと思うけどよ……一応何をしようとしてるのか聞いてもいいか?」


「え?骨を煮込んで出汁を取ろうかと……。」


「ッ!?いや、いやいやいや……何言ってんだ!?」


 さも当然と言った顔で恐ろしいことを言い出すオニキスに、その場にいる全員が青ざめつつ異を唱える。


「いくらなんでも、人骨出汁とか笑えねえよ嬢ちゃん!?」


「えぇ、人骨じゃないですよ?スケルトンは魔法生物ですから”人骨によく似た形状をした魔物”です。」


 やばい、これは本気の目だ……やると言ったらやる。そういう目をしていると、スミスは察した。そしてなんとか止めないとこのまま人骨スープなどという魔女の鍋のようなものを食わされてしまう。オニキスは既に骨の回収作業に戻ってしまっている。


「やろう共ォ!!この状況なんとかしろぉぉぉぉっ!!!」


「サ、サーイエッサー!!!」


 ある意味で先程よりも危機的状況、男達は円陣を組み、作戦を練り始める。


「……んで頭、具体的にどうすりゃいいんですかね?」


「俺に聞くんじゃねえ。急いで頭動かせ。お嬢はこのまま放っておいたら間違いなく骨ぶっこむぞ。」


「うわぁ、あの娘ものすごくいい笑顔で骨拾ってますぜ。」


「やばいやばい、もう時間があまりねえぞ。」


 ニコニコしながら大きめの骨を拾い集めるオニキス。彼女が鍋に向かったときがタイムアップ。それまでに彼女に骨スープを考え直させ、諦めさせなくてはならない。何か無いか、縋るような気持ちで足元の骨を拾い上げ、それをジックリ観察する……そしてスミスの脳裏に電流が走った。


 これだ!


「お嬢!!この骨はダメだぁ!中身が空っぽだ。骨髄の無い骨、いくら煮込んでも出汁なんか出ねえぞ……多分!!」


「ッ!!」


 この世の終わりのような顔をして骨を取りこぼすオニキス。静まり返った室内にカラカラと乾いた音が鳴り響いた。


「やった、止まったぞ。……なんでモンスター退治し終わった後にこんなピンチ迎えてんだ俺達ぁ……。」


「ていうかモンスター退治したのもあの娘ですけどね、しかもあの顔……なんだか心が痛むッス……。」


「だなあ……。」



 ――なんとか呪いの魔女鍋を回避した一同はホッとしながらオニキスの調理を眺めていた。


 一度は絶望のどん底に叩き込まれたオニキスであったが、無いものは仕方ないと諦め、前向きに今ある材料で調理を開始していた。どんな絶望の底にあっても人は前に進まなくてはならない。魔王オニキスは心が強いのである。(本人談)


 立ち直ったオニキスは、干し肉と干し野菜をジックリ水から煮込み、浮いてきたアクを丁寧に取っていく。なかなかに手際が良く、様になっている。オニキスの料理をする姿に男達は目を奪われ、だらしない笑みを浮かべていた。オニキスも先程までこの世の終わりのような顔をしていたが、スープの完成が近づくに連れて徐々に機嫌も回復していた。それを見た男達はほっと胸をなでおろす。


「ふふふ、骨が使い物にならず、一時はどうなるかと思いましたが、干し肉と野菜だけでも中々に良い香りがするものですねえ、ワクワクしてきました。でも、次からは干し貝柱も携帯することにしましょう。」


「わざわざ出汁を持ち歩く冒険者とか聞いたことねえがなあ……。」


 強い決意を固めるオニキスを全員が呆れた顔で見つめていた。どうにもこのお嬢ちゃんは常識の範疇にはない冒険者であるらしい、と。


 ……カツンッ!


「そろそろ食べごろですね。皆さんご飯にしましょう!」


 鍋を火から下ろし、昼食の準備をすすめるオニキス。その意識は最早完全にスープに注がれており、周りが見えていない、普段であればこのポンコツモードのオニキスの事はシャマがフォローするのだが、今日はシャマもポンコツになっているためこの場には居ない。



 ……カツンッ!パラパラ……。



 故に、周りで起きている異変に、オニキスは気がつくことができなかった。



「ん?嬢ちゃん何か音がしねえか?」


「え?」



 この油断はオニキスを再び絶望に叩き込む事となる。




 パラ、パラパラパラ……ドボドボドボッ!!




「な、なんだぁ!?」


「うわああああ!?」


 頭上より落下する大量の石、咄嗟に天井をを見上げた一同の目に、信じられない光景が飛び込んできた。天井に開いた亀裂より見えるのは骨、骨、骨。先ほどと同様に隙間を埋め尽くすスケルトンの群れだった。


「な、なんで……こんな……。」


 さすがのオニキスも顔色を蒼白に染める。彼女ほどの冒険者がこのような緊張した顔色をする事態、スミス達に緊張が走った。


「何で……うわぁぁぁぁぁ、お昼ごはんがぁぁぁぁぁっ!!」


「「「そっちの心配かよ!?」」」


 遂に石だけでなく犇めくスケルトン達も落下を始める、落下の衝撃に耐えきれず次々に崩れるスケルトン。しかしそれが積もり積もって衝撃を吸収する緩衝材ようになり、遂には万全の状態での落下を可能とした。先ほどとは違い、通路から来るのではなく天井より降り注ぐスケルトンを相手に隊列を組むことも出来ず、混乱するスミスたちの背を冷たいものが走った。


 ――……直後、彼らは意識を失いそうな程の悍ましいプレッシャーを背後に感じた。


 (……この上更に何かが湧いたのか!? 冗談きついぜ!!)


 恐ろしい殺気に慄き、振り向いたスミス達は”それ”を見た。





 そこには一匹の”羅刹(オニキス)”が居た。





「……出汁を取ることも出来ぬ身で……私のお昼ごはんを台無しにするか……骨共……。」


 底冷えするような声……地獄の底より響く亡者の怨嗟の如き、聞くものの魂を掴みその熱を奪うかのような恨みの篭った声……。


「……この罪、万死に値する!!」


 直後、スミス達の目の前で羅刹による蹂躙が開始された。先程のような効率的な戦闘ではない。彼女の振るう剣には魔力が篭り、触れたスケルトンを粉々に粉砕する。当然、そのような無茶をすれば、彼女の持つその粗雑な剣はあっと言う間に限界を迎える。が、次々砕かれるスケルトンはその武器を次々に床に散らばらせており、オニキスは手に持った武器が寿命を迎えた瞬間に足でそれらを弾き、空中で掴むと、即、魔力を流しそれを振り回す。


 止まる事無く行われる蹂躙。先程までとは比べ物にならないほどの暴風が吹き荒れていた。悲しき羅刹の雄叫びは、数分間部屋の中にこだました……。



 ……――――



 やがて全てのスケルトンを粉々にし、その中央で悲しげに鍋を見つめる羅刹。その背中は見る者の胸を締め付けるほど悲げであった。あまりの悲壮感に、それを見るスミス達の表情も思わず歪む……。


「――マジかよ……昼飯台無しになっただけでどれだけ悲しむんだこの嬢ちゃんは……。」


「頭ぁ、おれ、なんだか悲し過ぎてて見てられねえっすよ……。」


「アーネストよぉ、なんとかならねえかあれ……。」


「えぇ、どうにかって言われましても……おおっ!?」


 ポケットを弄ったアーネストの表情が変わる。


「嬢ちゃん!オニキス嬢ちゃん!!」


「……。」


 表情を失い死んだ魚のような目をしたオニキスが振り向く。しかし、その表情は抜け落ち、先程までと同じ人物とは思えないほどの悲壮感を漂わせている。が、近寄るアーネストを視界に入れるとその表情に変化が現れた。視線の先にあるアーネストの手には、小さな正方形の物体が握られてる。


「そ、それは……まさか。」


「おぅ、キャラメルだぜ。食うの忘れて一個だけ持ち歩いてたみてえだ。」


「ッッ!ま、まさかアーネストさん……。」


「こんなの一つじゃ何も変わんねえだろうけどやるよ。悪いが腹の足しにはならねえだろうけどよ。」


「うぅ、アーネストさぁん……。」


「うおぁっ!?」


 アーネストの両手が突然温かく柔らかい物に包まれる。オニキスの両手に握られてると理解すると、無精髭まみれの中年男の顔は赤く染まっていった。


「ありがとうございます!ありがとうございます!!」


 目に涙を浮かべながら礼を言うオニキス。そこまでの事かと思わなくもないが、機嫌が治ったようで何よりだった。正直先程までの彼女は恐ろしすぎる。いそいそとキャラメルの包み紙を剥がし、幸せそうに頬張る姿は天使のような可憐さであったが、同時にどうしようもなく残念な姿でもあった。


「何ていうか、色々残念な嬢ちゃんだな……強いけど……。」


「めちゃくちゃ残念な娘ッスねえ……可愛いけど……。」


「とは言え、これからどうするかね……。」


 とりあえず当面の危機は去ったが、先程から襲ってくるスケルトンは明らかに異常だった。古代遺跡には魔物が住み着いていることは良くあるが、魔法生物であるスケルトンがこれほど大量に自然発生することは有り得ない。おそらくはこの遺跡に何かがあるのだ。


「とりあえず嬢ちゃんが食べ終わったら、奥に進んでみるとしようか。脱出するにしてもこの部屋が元の場所に戻る気配はないみたいだしな。」


 普通ではない量のスケルトンが犇めく遺跡。本来であれば奥になど進みたくはないが、目の前でキャラメルを舐める少女を見ているとまあなんとかなるかと楽観的な考えが浮かぶ。




「……まったく変な事になっちまったもんだぜ。」




第二部 学園生活編……学園とは一体……。

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