第三話 囚われのオニキスちゃん
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―― side ???
「何考えてやがるバカ野郎ども!!」
適当に戦利品を持ってアジトに戻った瞬間、俺の目に信じられないものが飛び込んできた。目の前に間抜けな顔を並べているのは見慣れた馬鹿面が三人。こいつらには留守番を任せていたのだから、今ここに居るのは当然だ、何もおかしな事はない。
――だが……
「お前ら俺がいつも言っていることを軽く考えてやがったのか!?どうなってやがるコイツは!!」
俺の怒声に震える馬鹿共は、なるべく俺と目線を合わせないように俯いてやがる。その後ろにはロープでぐるぐる巻きになり目隠しをされ猿ぐつわを噛まされた冒険者風の人間が一人。最悪だ、誘拐なんて言うものは俺達がいつもやっている軽い追い剥ぎなどとはまったく罪の重さが違う。殺人もしていない追い剥ぎなどは、仮に捕まったとしても精々が炭鉱などの強制労働を数年って所が相場だ。だが、誘拐や殺人が追加されれば話が変わる。良くて死罪……そう、即座に処刑されるならまだマシ、最悪の場合片腕を落とされた上で隷属魔法を施され、死ぬまで強制労働。これはただ死ぬより辛い、隷属魔法で自殺も出来ず死にたい死にたいと願いながら、日々過酷な労働を強いられる。
「違うんですよ頭ぁ、俺たちゃ別にこのお嬢ちゃんを攫って来た訳じゃねえんですよ。」
「――あ?嬢ちゃん?」
服装が服装だったので気が付かなかった、確かに言われてみれば華奢な体に長い髪……服装は男物だが、よく見れば確かに女に見える。
「だったらこんな扱いしちゃ可哀想だろうがよぉ……。」
徐にお嬢ちゃんの猿ぐつわと目隠しを外してやった。その顔を見た瞬間、思わず心臓が止まるかと思ったぜ……。世の中にこんな綺麗な造形の人間なんて居るもんかね……あまり見た事がない黒い色をした髪は柔らかで艶があり、無造作に結われているにも関わらずどこか気品を感じさせる。目隠しを外されたことによって開かれた瞳は髪と同く吸い込まれるような美しい黒。思わず見とれて動きが止まっちまった。
「って、こいつぁ……。」
マズイ、これは想像以上にマズイ。こんな整った容姿をしたお嬢ちゃんが、どんな出生の人物かなんて考えるまでもなく解る。この嬢ちゃんは間違いなく貴族の出だ。この美しさってのは相当な良い家じゃねえと育たねえ。ただ単純に顔が良いとかそういう次元の美しさじゃねえ。何でこんな嬢ちゃんが冒険者みたいなことやってやがるんだ、貴族の道楽か?ふざけやがって。おかげで俺達に死神様が微笑みを向けてくださってるじゃねえか。
「ど、どうしたんですかい頭ぁ……?」
「うるせえ、ちょっと黙ってろ!!」
「ひぇっ!?」
馬鹿どもが、自分たちのやらかしたことが判ってねえ……優秀な部下を揃えたつもりだったが、こういうことには疎いな~こいつら、まあ、育ちは悪いからなあ……。とは言え、これだけの上玉捕まえて何も危害を加えていないのは流石だ。これならお嬢ちゃんを街に逃がせばなんとかなるか?
いや、ダメだ危険すぎる。そもそも嬢ちゃんは見た感じ冒険者の依頼でここに潜入しに来たって感じだからな、逃してもまたやってくる可能性が高い。しかも今度はしっかりとした戦力を揃えてだ。そうなってしまえば俺達の未来は無い。強制労働で済めばマシだが、嬢ちゃんが俺たちに攫われた一言言えば俺達のクビが飛ぶ。
……――いっそ殺しちまうか……。
最低最悪の選択だが、これなら嬢ちゃんの死体が見つかるまでは時間が稼げるかもだ。なんとか国境超えてクティノスにでも逃げ延びればチャンスがあるかもしれねえ……。
嗚呼、すまねえなお嬢ちゃん。申し訳ないが、もう俺達の生き残る手段はこれしかねえ。そもそも道楽でこんな危ない遊びをしたお嬢ちゃんが悪いんだぜ?俺だってこんな可愛いお嬢ちゃん殺すのは本当に気乗りしねえ、って言うか俺は盗みはしても、殺しと犯しはしねえと決めてたんだ。盗みにしたって、そいつらが破滅するような量は盗ったことがない。俺は俺なりの美学を持って盗賊をやってたんだ。そんな物に価値なんかないのは解ってるけどな。それなのに、こんな小さな矜持すら……恨むぜ、お嬢ちゃん。こんな馬鹿共でも俺は頭としてできるだけ守らなきゃならねえんだ……。
俺は剣を抜き放ち、覚悟を決めてお嬢ちゃんの前に立った……。
お嬢ちゃんは相変わらず何も言わずにこっちを見つめている。
「……すまねえお嬢ちゃん。なるべく痛くは無いようにするから、俺達のために死んでくれや……。」
俺は初めて人を殺すために剣を振り上げた。
……――――
「オニキスちゃん、抵抗せずに思いっきり捕まってますね……何故か泣きそうな顔してますよ、あー、あれは変装が通じなかったショックで動けなくなっている感じですね。何故かオニキスちゃん今回の男装作戦は自信あったみたいですからねえ。凄いションボリ顔です、良い顔です、良い顔ですよ!!ゾクゾクします。」
「うーん、さっきまで楽しんでおいて何だけどあれって大丈夫なのかい?」
「は、早く、早く助けないとお姉さまが~!!」
「大丈夫ですよ。あの程度の男たちでは両手両足使えなくてもオニキスちゃんは負けません。」
明らかにピンチのオニキスが目の前に居るのだが、シャマはいつもの無表情を崩さない。流石にいつもは色々いたずら好きのリコスですら焦り始めるこの状況、なぜシャマが落ち着いているのかリーベ達には理解ができなかった。しかも、そんなリーベ達を他所にシャマはオニキス観察を切り上げ、しきりに周りの壁などを調べ始めていた。
「――そんなことよりですね、このアジト……何かおかしく無いですか?これって確か大戦が終わってから打ち捨てられた砦のはずですよね?」
「うん?そうだよ、昔フェガリとかの外国と戦争していた時代に作られた砦だね。」
「外側からみた時は確かにそんな感じに見えて違和感もなかったんですけどね……中に入ると違和感が凄いんですよねぇ、この床とか奥の方の壁とか、どう考えてももっと古い物ですよねぇ?奥の壁も年季を感じる石壁ですし。何より……。」
足早に奥に進み徐に壁を撫で始めるシャマ。暫く壁を撫でると何かに合点が行ったという様に頷く。
「やっぱり、この砦なにかの遺跡の上に建てられてますよ。ここ、隠蔽魔法がかけられてますねぇ。よっ……と。」
魔力を込めつつ壁のレンガの一つを引き出す、すると鍵が開いたような音が鳴り、何の変哲もなかった石壁が観音開きのように開いた。
「ふえぇぇ、シャマちゃん?なんかお姉さまのほうが~それどころじゃないみたいなんですけどぉ~。」
「これは……ふむ……これをこうして……。」
「シャマちゃぁぁぁん!?」
騒ぐ二人を完全に無視しつつ壁をこねくり回すシャマ。彼女は基本的に自分の興味があるものに集中すると、周りを一切見なくなってしまう。しかもこの状態の彼女は大概致命的なトラブルを引き寄せるため、オニキスにとっての恐怖の対象となっている。
「お、動きました!!起動しますよ!きっとお宝です、お宝が出現しますよ……多分!!」
直後、地面が激しく鳴動を始める。
「うわわ、シャマちゃん何してんのさ!?」
「ふぇぇぇぇ!?」
直後、背後でオニキスたちのいる部屋のドアがしまっていくのが見えた……。
「ん、間違ったかな?」
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