第二話 ワイルドオニキスちゃん
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―― side ???
才能があるのか否か、人によりいろいろな意見があるかもしれないが、結果だけで物を見るのであれば、俺は盗賊団の団長の才能というもがあったんだろう……。確かにうちよりも規模が大きい盗賊団は幾らでもある、うちよりも稼いでいる盗賊団もある。そんなものは世の中見渡せば幾らでも居るもんだ。
だが……。
――奴らは常にリスクを抱えている。
俺に言わせればそんなのはただの博打だ。稼ぎってのは多ければいいってものじゃない。多すぎる稼ぎは冒険者や騎士を動かす口実になっちまう。部下だってそうさ、多くなればなるだけ、その舵取りは難しくなる。騎士や兵隊じゃねえんだ、盗賊ってのは量より質だ。
「さて、今日も通行税ケチって街道から外れてるアホどもから給料いただくかねぇ。」
今日も美味しいカモがネギ背負ってやってくる時間だ……。
――――――
「それで……リコスさん、リーベさん。盗賊退治っていうのは何ですか?」
突然現れたリコスたちをみて不思議そうな表情をしているオニキスに、ニンマリと笑いながらリコスは勿体つけるように人差し指を左右に揺らす。ニヤニヤと笑うリコスと対照的に、リーベは何やらやる気満々と言った表情を浮かべていた。こちらも何か変なテンションである。
「あのですね~。最近王都に向かう商人さん達がですね~。盗賊団に襲われる被害がおきてまして~。
規模は大きくないんですが~、討伐依頼が冒険者ギルドに張り出されていまして~。このままだと皆さんが困ってしまうそうなんですぅ。」
のんびりとリーベが説明を始めたが、そこに被せるように興奮したリコスが補足をする。
「そうなんだよ!罪の無い沢山の商人達が困っているらしいのさ。ボクはこう言う困っている人たちを放って置く事が出来ない質でね!今回の事はとても見過ごすことは出来ないんだ。盗賊退治はお金を稼ぎつつ人にも感謝されて、且つ、正義を成す素晴らしいものだよオニキスちゃん!僕達はこれからパーティを組んで冒険者ギルドの依頼で盗賊を退治して皆を救うのさ。なぁに、ボクとオニキスちゃんとリーベちゃんとシャマちゃんの4人でかかれば物の数分で解決できるような簡単な案件さ!……あ、ひょっとして盗賊団が怖いかい?大丈夫さ!調べてみたけど相手はかなり人数も少ない盗賊団みたいだし、何より、盗賊団ごときが僕らに勝てるわけがないよ!いざっていう時にはボクが身を挺してでもオニキスちゃんたちには指一本触れさせない覚悟もあるしね……たぶん!」
流れるように勧誘を始めるリコス。その姿はなんとも胡散臭さを感じさせる。
訝しげな顔を見せるオニキスにシャマがそっと耳打ちをする。
「オニキスちゃん、王子の狙いは単純にお金です。彼女は常にクラスメイトの女子と遊び歩いてますから。常に金欠なのですよ。」
「え、えぇ、ち、違うよぉ、ボクはこれでも貴族だからね~。お金で困るなんてアリエナイヨ~?」
シャマの告発に露骨に目を泳がせるリコス。その態度だけでもすでに状況証拠としては十分だったが、そこに外部からの更なる追撃が。
「あ~っは~。リコスは以前から金遣いがひどすぎてねぇ、実家からの仕送りはかなり制限がかけられているんだよ。だから貴族令嬢としてありえないほどに万年金欠状態なんだよぉ。」
「いきなり出てきて何言いだすんですかね、この馬鹿兄上は!!」
「ふええぇぇぇ、リコスさん!?お金が目当てだったんですか?」
「ち、違うよ!?お金も確かにちょ~っと欲しいけど、人助けになるっていう部分は本当だよ」
「――とりあえず、盗賊は放っておけないですから私も協力しますよ、私、丁度今いい作戦を思いつきましたから!」
何かを閃き、やる気を見せるオニキス。しかし、彼と付き合いの長い従者はその表情から何かを即座に見抜いた……。
「あ、これポンコツな時のオニキスちゃんの顔ですね……ワクワクします……。」
「ふぇぇ、お姉さまが碌でもない事思いついた顔してますぅ……。」
「これはボクもフォローできないなあ……。」
「えぇ……。」
あまりにも低い自分の評価に愕然とした表情を浮かべるオニキス。その顔を見て笑いながらディアマンテは用事があるからと立ち去っていった。今日もタイツを履いた彼の腰には立派な尾羽根が揺れていた。
「ま、まあ気を取り直しまして。皆さん早速ギルドに向かいましょう!」
「オニキスちゃん、行くのは週末です、今日は授業ですよ……。」
「あうう……。」
うなだれるオニキスの様子を見て、これは既にサントアリオ潜伏の理由もマリアの事もすっかり忘れているなと確信するシャマだった……。彼はどこまでも純粋にフェガリ人なのだ。
――――閑話休題
その日、オニキスたちの姿は小高い丘の上にあった。眼下には森が広がり、木々に遮られた森は昼であるにも関わらずほとんど日光が届いておらず、視界がほとんど確保できないほどの闇に包まれていた。盗賊団のアジトはこの森に打ち捨てられた古い砦の廃墟であるらしい。
「リコスさん、この森の奥に盗賊団のアジトがあるんですか?」
「う、うん、そうなんだけど、一ついいかな?オニキスちゃん。」
「?」
「君のその服装は一体どういうことなんだい?」
「ふふふ、気がついてしまいましたか。これこそ、私が思いついた作戦ですよ。」
「えぇ……。」
やや引き気味のリコスの目の前にはドヤ顔のオニキスが立っていた。普段、綺麗に編み込まれている髪の毛は解かれ、後ろで大雑把にまとめられている。そして注目すべきはその服装、今日の彼女はスカートでは無くパンツルックだった、それも野暮ったいデザインのいかにも安物と言った感じの服装だった。その上から大分傷んだレザーアーマーを装備し、腰からはこれまたいかにも安物と言った鋳造品の片手剣を差している。
(ふふふ、皆さん私の盗賊ルックがあまりにも似合いすぎて驚いているようですね。そうです、女学生に扮装している普段はともかく、私は元々男なのですから、こういう格好をしたらどう見ても盗賊にしか見えなくなるのです。しかも、こういった格好をすることによって、普段可憐だのなんだのと不名誉な表現をされる私の、本来の男らしさを自然にアピールできる。これはまさに一石二鳥の妙案。)
「うーん何というか、多分オニキスちゃんのやりたいことは解るんだ……でも、これはどう見ても……。」
「――没落した元名家のお嬢様って感じですかね……髪の毛とか乱暴に結ってるだけなのにキューティクル輝いてますし……まだ奴隷落ちはしてないけど路銀は尽きて冒険者家業に堕ちたって所ですか……。」
「むしろ、こういった格好をすることで盗賊になるどころか、お姉さまの可憐さが一層際立ってしまっているような~……。」
「なん……ですと……?」
思いもしなかった評価に唖然とするオニキス、これだけワイルドな服装をしたにも関わらずまったく変わらない評価。正体を知っているはずのシャマからもお嬢様評価を受けてしまった。
「そ、それはみなさんが私の普段の姿に引っ張られているだけです。初対面の盗賊たちならきっと判ってくれるはずです!!私は先行しますので皆さんは彼らが混乱している所に攻め込んで下さい。」
「盗賊ならわかってくれるって……あー、オニキスちゃん!?」
「ダメですよお姉さま~、そもそも盗賊に見えても仲間かどうかなんてひと目でわかると思います~!!」
呆れるリコス達の視線に居た堪れなくなりずんずん森の中を進むオニキス。慌てて追いかけるが森を進むオニキスの足は異常に早い。リコス達が見つけた時には既にオニキスは盗賊団の見張りの前に堂々と姿を見せ、何やら親しげに挨拶をしていた。
「あー、オニキスちゃん普通に盗賊団に挨拶してるよ!?」
「ふ、ふふふ、流石オニキスちゃんです、ポンコツな時は本当に予想の斜め上を行きますね。ふふふ……。」
「シャ、シャマちゃん何でそんなに嬉しそうなんですかぁ!?」
「あ、あー、オニキスちゃんが攫われた!!何か喚いてるよ!?」
「まぁ、何があってもオニキスちゃんなら大丈夫でしょうから、私たちはちゃんと隠れて潜入しましょう。」
「ふえぇぇぇ、お姉さまを助けないんですかぁ!?」
あっさりオニキスを見捨てた二人にリーベが声を上げたが二人はそんなリーベに声をハモらせて答えた。
「「このままの方が面白そうだから放置で!」」
「ふえぇぇぇ!?」




