第一話 忘れてませんか?
暫くほのぼの進みます。
28話の会話が不自然に感じたのでちょっと加筆しました。
36
クティノスの兄妹が帰国してから数ヶ月。サントアリオに夏が到来していた。蝉はその短い命を燃やすように求愛の歌を歌い、地面からは陽炎が立ち昇る。
「暑いですねぇ。」
「そうですか?私はこの日差し好きですよ?」
「うぅ~、シャマは繊細だからトドみたいに鈍感なオニキスちゃんと違って暑さには弱いんですぅ。」
「トドは寒さに強いだけで暑さには強くないですよ!?」
「……トドなのは認めてるのです?」
「っう……。」
サントアリオ学園の一角、大きな木の陰になっているベンチに気だるそうに座る銀髪の美少女は、その整った容姿と裏腹に、実にだらけた姿を晒していた。横には黒く艶やかな髪をした美少女が座っている。
「それはそうとオニキスちゃんは学園生活満喫しちゃってますよね~。」
「当たり前ですよ、気の合う学友とお互いを高め合い、色々な知識を学ぶ。
これほど素晴らしいことが他にありますか?」
「……本気なのです?」
「ん?」
何故か呆れきった目を向ける従者に、黒髪の美少女”オニキス”怪訝そうな顔を向けた。
「前に自分でも言ってましたけどオニキスちゃんって生粋のフェガリ人ですよねえ。」
「むむ!?どうしたのですかシャマ?貴方がそんな風に私を褒めてくれるなんて珍しいですね!
「突然ですが、此処でオニキスちゃんに問題です。」
「はい?」
「フェガリ王オニファス=アプ=フェガリ陛下は、何故聖サントアリオ学園に入学されたのでしょうか?」
「それは勿論、学友と親睦を深め、互いに切磋琢磨しつつ……あれ?」
何かを思い出し、ギギギっと油の切れたロボットのようにシャマの方を向くオニキス。
「……思い出しましたか?」
「シャマ……どうしましょう。私この学園に入ってから数ヶ月、
何一つサントアリオの動向を探っていませんでした……。」
流石に青ざめ震え始めるオニキス。
そう、実は彼は入学した当初、女装をして潜入するという羞恥から任務をすっかり忘れ、その後知り合った友人たちとの日々があまりに楽しかった為に、当初の目的である”サントアリオ聖王国の動向を探る”という目的をすっかり忘れていたのだった。
そんなオニキスを眺めつつふいにシャマが口を開いた。
『その後、何もせずに50年放置するのはありえない!
なんで有角族と言うのはこうも楽観的なんだ~!!』
『判ってはいた事だが我が国の国民は深刻な欠陥を持っているな~……。』
『これからサントアリオに 予、自ら潜入する~!』
無表情のままオニキスソックリの声で、嘗ての彼の台詞をさえずるシャマ。無表情で行われるそのモノマネクォリティは完璧過ぎた為、ゴリゴリとオニキスの精神を削っていった。
「シャマ!私の声真似で傷を抉るのは止めなさい!!て言うか、貴方私の声真似異様に上手いですね!!」
「シャマはオニキスちゃんだけを見つめていますからー……。」
「そんな素敵な言葉を聞かされたのに、欠片ほども嬉しさがこみ上げてこないとか逆に凄いですよシャマ!?」
「しかし、実際問題としてどうしますかオニキスちゃん?」
一転して真剣な表情になるシャマ。その雰囲気にオニキスもまた気持ちを切り替える。
「……正直な所、マリア=トライセンには驚きましたね。あれは正直、私が全力で当たったとして、必ず勝利できるとは言い難い存在かと……。シャマの奇襲を完全に防ぎきりましたからね、あそこまで見事な防御は、私でも無理です……。」
「あれは衝撃でしたねえ~。シャマの自信は粉々になっちゃいましたよ~。」
「パンツも見られてましたしね。」
「うぐぅ……。」
満面の笑みで先程の意趣返しをしたオニキスだったが、実際問題マリア=トライセンの武力は驚異的であった。シャマはオニキスに比べれば戦力的に多少劣るが、フェガリ全体でも五本の指に入るほどの強者なのである。
正直、サントアリオ聖王国全体の戦闘力は大したことはないとオニキスは思っていた。勇者や賢者の育成を目的とした名門校である聖サントアリオ学園ですら、オニキスから見て強者と呼べる存在は少ない。
だが、そんな中でマリアの力は明らかにフェガリ人と較べても異常なレベルだった。仮にサントアリオと戦争になった場合、彼女をオニキスが止められれば良いが、もしオニキスが敗北した場合、その戦闘のダメージがどれほどの物かにも依るが、恐らくマリアは単身でフェガリを滅ぼしうるとオニキスは感じていた。
「もし、サントアリオに不穏な動きがあった場合、彼女は私が倒すしか無いでしょうね……。」
「オニキスちゃん……。」
流石にそれは従者としては認めるわけにはいかないが、すでに一度良いようにあしらわれているため、シャマはそれに対して何も言うことが出来ない。そして、自分がまったく対抗できなかった以上、フェガリにいる誰が戦ってもマリアに対して対抗できるとは思えない。そう、それこそ魔王クラスでなければ、彼女と戦うことは出来ないと感じていた。
「とは言え、正直彼女が私たちに敵対してる雰囲気は一切ないのですよねえ~。」
「……確かに、それはシャマも感じていました、オニキスちゃんどうします?」
「む~。」
珍しく真剣な表情を浮かべるシャマ……。それだけ彼女を警戒しているのだろうと伺える。
「とりあえず……。」
「とりあえず?」
「ご飯を食べて午後の授業に向かいましょう……。」
「……オニキスちゃん~~~~……っ!!」
直後、オニキスに赤い風が襲いかかった。咄嗟に回避に成功するが、通り抜けていった赤い風には計り知れない怒気が含まれていた。
(あ、これマズイですね、心配してくれていたのを茶化したせいで本気で怒ってます!!)
「ひぇっあ、シャマ!怒らないで下さい!その剣は駄目です!NGです。」
シャマの手には赤い大剣が握られ、凄まじい速さでそれを振り回していた。しかもその速度は徐々に上がって行く……。更に恐ろしいことに、凄まじい速度で振られる大剣は出鱈目に振られているように見えるが、実は巧みなフェイントなどを織り交ぜつつ正確に死角からオニキスの急所を狙っていた。
「ちょ、シャマさん!?シャマさぁん!?殺意が、殺意が篭ってますよ!?」
「……。」
「やめて、無言で殺しにかかるのは本当に怖いからやめてくださいいい~!」
―――― (死ぬ気で20分逃げました……
「ぜぇ、ぜぇ……。」
「ハァハァ……やっと諦めてくれましたか……。」
流石に数十分全力で剣を振り回し、それを回避され続けていたのでシャマの息は大分乱れていた。炎天下で動き回ったせいでその汗の量は凄まじく、その表情は無表情ながらに少々恐ろしい……。
そんな壮絶な戦場と化した中庭に若干引きつった顔をした二人組が現れた。
いや、本当は少し前からその場に居たのだが、あまりにも凄まじい鬼ごっこを前に何も出来ずただ立ち尽くしていたのだ。
「ふ、二人で、何をしてるんですかぁ~?」
「む!?ピンク!それに王子。」
「ふぇぇぇぇ!?それまだ続いているんですかぁ?」
「おや、二人してどうしたのですか?」
「あ、やっと終わったのかい?」
涙目のリーベは放置したまま、やっと会話ができるようになったため、リコスが二人に近づいていく。
「実は週末にアルバイトしようかと思ってね、
面白そうな依頼があったからピンクと一緒に二人を誘いに来たんだ。」
そう言うとリコスは冒険者組合の依頼書を広げて見せてきた。その顔はいたずらをする少年の様に満面の笑顔だ。
「これ、一緒にやらないかい?盗賊退治さ。」
第二部もよろしくお願いします。
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