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第三十三話 蛮族襲来

たまにご飯書きたくなるんです。

でも不評だったら我慢します……。

33




 月詠とのデートを終え、駄メイドをこっぴどく絞ったその夜。

 そろそろ夕餉の支度をしようという時に、

オニキスの部屋の扉を叩く音がした。


「……ノックですかね?これ……。」


 ノックと呼ぶにはあまりにも衝撃的な音であるが、

叩いた回数などは確かにノックであるような気もする。


 それ以前に今のノック、

完全に殺気が篭っていたようなきがするのは気のせいだろうかと、

オニキスは警戒心を高めた。


「……。」


 再び響き渡るノック音(だげきおん)

蝶番が緩んでいくのが見える。


「オラァ、オニファスてめぇ。

いるのはわかってんだぁ。さっさと開けやがれぇ。

おうコラァ!」


 今度こそオニキスは確信した。

これはノックではない。

 すでに蹴りも入れているらしく、その激しい光景は、

借金の取り立てのような様相になっている。


暴風障壁(インパクトゲイル)……」


「オラァ、ん!?グエッ!!」


 聞き覚えのある声をした王子(ばんぞく)に扉を破壊されては敵わないので、

わりと強めの攻性防壁を扉に展開する。


 直後勢い良く吹き飛ぶ音と、

蛮族の悲鳴が聞こえたのを確認してから、

オニキスはゆっくりと扉を開いた。


「……こんな時間に何の用ですか、大和……。」


「テメェ、訪ねてきた他国の王族にこんなもてなししやがってぇ。

国際問題だろがよぅ、これはぁ?」


「他国の国王の部屋のドアを破壊しようとしてる方が

よっぽど深刻な国際問題ですよ……っと?


――……いらっしゃい大和、貴方を歓迎しますよ。」


 廊下に転がり足を上にしながらこちらを見ている大和に、

冷たい視線を浴びせていたオニキスであったが、

大和が手にする”物”を見た瞬間、その態度を豹変させた。


 そのままオニキスは満面の笑みを浮かべ部屋へ大和を迎え入れる。


 オニキス軟化の理由は、

偏に(ひとえに)大和の右手に握られていた”物”に集約される。


「この野郎ぉ、まぁた露骨に態度変えやがったなぁ。

まぁ、良いけどよぉ。」


「何を言っているのですか、

私は親友である貴方が訪ねてくれたことを素直に喜んでいるんですよ。」


 ……そう言いつつもオニキスの目は大和の右手に釘付けになっている。

大和の手にはクティノス銘酒 ”純米大吟醸 菊翁 白狼姫”が握られていた。


「すぐに何か作りますので待っていて下さい菊翁(やまと)

丁度今日は月詠と街に出ていたので色々良い物を買ってあるんですよ。」


「お前ぇ~、人と話す時は相手の目を見ろや。

何で酒に話しかけてやがるんだぁ……。」


 そう言いつつも大和は、

鼻歌混じりにエプロンをつけて料理を始めるオニキスに思わず目を奪われ、

嘗ての黒歴史が大和の脳裏に浮かび顔をしかめる。


 完全に正体を知った今でも、

女装をしたオニキスの見た目は完全に好みどストライクの姿をしており、

こいつの正体が己の親友(♂)だと解っていても、

一瞬目を奪われてしまう。


 この事実が留学中、余り大和がオニキスに近づかなかった理由でもあった。


(あまりに女が板についてるからよぉ、

正体知った今だと、うっかりぶっ殺したい気持ちになっちまうからなぁ……。)


 嘗て男に求愛してしまった事実と、

もともとオニキスに持っていた感情のせいで、

今のオニキスを見ると無性にぶん殴りたくなってしまう。


 実際にはそうせずに今まで過ごしてきた大和は、

案外周りが言うより思慮深い男なのかもしれない……。


「お前ぇ~、その気持ち悪い喋り方ぁ。

俺ん前ではやめろやぁ、調子が狂うからよぉ。

あとそのエプロンはなんだぁ?」


「ふむ、菊翁(やまと)がそう言うなら素で話しましょうか……

えーっと……あー、あ?あれ?えっと……?」


「おまえカマ生活に馴染み過ぎで言葉忘れてるじゃねえかぁ……。」


「カ、カマ!?

それは流石に許しませ、せん、そん?

ぬう?ゆ、許さぬ……のじゃ~?」


「お前そんな語尾じゃなかっただろうがよぉ……。」


 キッチンに立ち「のじゃ?」とか「ありんす?」などと言っている宿敵、

大和はその様を見ていると何やら涙が出そうになってきた……。





 ……――やがて幾つかの料理を手に持ちドヤ顔のオニキスがやってきた。




「さあ、待たせたな菊翁(やまと)よ!

予。手ずから料理をしてやったぞ!

有難く食すが良い!!」


「お前ぇ……言葉遣いに気を取られて台詞が芝居がかって変な事になってるじゃあねぇかぁ……。

あと、お前ぇよ、さっきから酒に向かって話しかけるのやめろやぁ……。」


「ん、お、おう?

おお、大和ではないか!

ささ、早速その酒をやろうではないか?」


「お前ぇ、学園ではアイドル見てぇに言われてっけどよぉ、

食が絡むと本当に禄でも無ぇよなぁ……。」


「まあ、怒るな怒るな、

まずは前菜でいっぱいやろうではないか。」


 最早エサのお預けを貰った犬のような状態のオニキスには何を言っても無駄のようで、

何を話しかけても菊翁から目を離さない。


 大和はまともに相手をすることを早々に諦めると、

オニキスの持ってきた白身魚のヌタに手を伸ばす。


 小鉢の中には皮を湯霜にし、細いアスパラを添え、

上から酢味噌がかけてある白身魚のヌタが入っていた。


 箸でつまみ口に含むと、

まずはアスパラのサクリとした食感が前歯を震わせる。

次に酢味噌の甘辛さが口の中に広がっていった。


 うっすら感じる辛子の風味が実に良い。


 そのまま奥歯で噛みしめると、

徐々にアスパラの甘みで酢味噌の強い味が薄れていき、

やがてその奥からは旨味をたっぷり含んだ白身魚が自己主張を始める。


 味の淡いはずの白身魚に酢味噌という強烈な調味料がかかっているはずなのに、

不思議と旨味を味わう邪魔をしない。

酢味噌というのはなんとも変わった調味料である。


 ここでよく冷えた菊翁を流し込めば、

口の中を程よくキリっと締め、後には魚の脂の旨味だけが口の中に残るのだから、

魚と米の酒を言うものは、格別な組み合わせであると言える。


「ぬぅ、……これうめぇな。

この魚は鯛かぁ?春先の鯛ってのもうめぇもんだなぁ?

こういう魚は冬が旬かと思ってたぞぉ?」


「この時期の鯛は卵や白子を抱え始める時期だがな、

まだまだ冬の間に溜めた脂が乗っていて美味いのだよ。

むしろ脂肪を蓄え始めた冬より脂の乗りが良いほどだな。

脂肪があれば美味いというわけではないが、この時期の鯛は美味い。

いわゆる桜鯛と言うやつだな……む?

……素晴らしいなこの酒は!!!」


 幸せそうに菊翁を煽るその姿は、

完全に記憶にある友人のものであるが、

やはりその格好でやられると違和感が半端ではない。


「こっちのは何だぁ?」


 ヌタの横には何かの揚げ物が並んでいたが、

何を揚げたものなのかが今一わからない……。


「これは今食べた鯛の頭だな。

梨割りにして塩を振って臭みを取った後、

粉を打ってごま油でじっくり揚げた物だ。」


「頭ぁ?食えるのかそんな物?」


「まあ、騙されたと思ってやって見るが良いぞ?」


「う、お……これは……良いな……。」


 見た感じ薄く平べったい鯛の頭であるが、

意外に身が多く詰まっており、何よりその旨味が濃い。


 軽い塩味が鯛の旨味を引き上げており、

幾らでも食べられそうな後を引く美味さである。


「こいつは、量が少ねえのが残念な美味さだなぁ?」


「そうか?ではコレも食べるが良いぞ。

鱗付きの皮と尻尾を揚げたものだ。

本当は最後に出そうかと思ったおまけだったんだがな。」


 そう言うとオニキスはキッチンから別の揚げ物と刺し身を一緒に持ってきた。


「こっちの刺し身は昆布締めだ。

さっきのヌタとは違って皮を引いて昆布で締めてある。

夕方に締め始めたものだからまだ味が染みきっていないと思うが、

それでもさっきの湯霜とは違った旨味があると思うぞ。」


「こっちもいいなぁ。

お前ぇなんで王族のくせにこんなに料理できるんだぁ?」


「予は生きるために食うのではなく、

食うために生きておるからな。

城の料理人が作れるものは大体作れる程度には教えを受けているのだ。」


 ドヤ顔で良いことを言ったとばかりに胸を張るオニキスに心底呆れた目を向けるが、

実際その奇行のお陰で旨い肴にありつけたので何も言わないことにしておく。


「……時に大和よ、

お主今日は一体何をしに来たのだ?

ただ酒盛りをしに来たとも思えぬが。」


 腹も人心地付き、ほのかに酔いが回って来た為、

オニキスの思考は正常なものへと戻っていた。


「おぅ、やっとコミュニケーション可能になりやがったかぁ?

お前ぇは昔っから空腹時は殆ど人類じゃなくなるからなぁ?」


「無礼なやつだ、予はこれでもフェガリの賢王と名高いのだぞ。」


「お気楽極楽の穀潰し有角人の賢王だからなぁ、

程度も知れるってもんだぁ?」


「ぬう、貴様、喧嘩を売りに来たのか?」


 オニキスは冗談目かしくこの言葉を吐いたが、

その言葉を聞いた大和の笑みは剣呑なものへと変わっていった。

 二人の事を知らぬものが見たら、

その場で腰を抜かしそうなほど獰猛な笑みである。


「そう、それよぉ。

この間の勝負なぁ、あれについてお前ぇはどう思うよ?」


「……ふむ、お互い立場があったからな。

全力でやりあうわけにも行かぬ故、

あのような形式なってしまったが……正直あれを勝負とは言い難いな。」


「それよ、お前ぇとせっかく会えたんだからよぉ。

今の自分の全力を試してぇってのは、

俺だけの意見じゃねえんじゃねえかと思ってぇな……。」


「ああ、なんだ、そうか……そうか……。」


 オニキスもまた、大和が言わんとする事を理解する。


「つまりあれだ、

貴様、久しぶりに予と喧嘩(あそび)たかったのか。」


 オニキスの顔にも獰猛な笑みが浮かぶ。


 この二人、国が違うために滅多に会うことは無いが、

お互いにお互いを、得難い稀有な存在として認識している。


 全力を出しても壊れない親友(しゅくてき)として。


「昼の間にいい場所見つけておいたからよぉ。

早速行くぜぇ?オニファス!!」


「あ、ちょっと待て、ちゃんと食べ終わってからやるぞ。

封を開けたら酒は味が落ちてしまうからな。」


「……おめぇのそういう所、俺様は超嫌いだわ……。

本当に超嫌いだわぁ……熱燗できるか?」


「うむ、任せよ。この酒のポテンシャルを最大限に引き出して進ぜようぞ!!」




 ――――……




 二人は暫く料理と酒に舌鼓を打った後、

夜の闇に連れ立って歩いていった。


 その様はまるで、はしご酒で別の店に向かうようであったと、

後に全てを覗いていた出歯亀駄メイドは語っていた……。




この二人の口調で会話されると時代劇みたいになっちゃいますね……。

なんか落語でも始まりそう。


感想お待ちしております!!

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