第三十ニ話 デート 退廃編
更新止まっててごめんなさい。
また3月くらいまでは週2~3ペースでやっていきたいと思いますので見捨てないで下さいませ。
次の失踪予定は4月頃の例大祭原稿の時期になります!
32
――……やってしまった。
オニキスを侮辱され、目の前が真っ赤に染まり、
そのまま感情に任せ男たちを血祭りに上げてしまった。
月詠としてはこれでもまだ生ぬるい制裁であるとは思うが、
少なくともこれは意中の相手とのデートでするべき行為ではない。
一応途中で正気に戻り、
慌てて男たちには治癒術を施したものの……後の祭りである。
男たちは顔を真っ青に染め、
頼んでもいないのに金品を置いて全力で逃げていってしまった。
「オ、オニ様……。」
恐る恐るオニキスの方を見ると若干引きつった笑顔を浮かべていた。
「と、とても強くなりましたね。流石は月詠です……。」
「――――……ッッッ!!!」
言葉を選び、なんとか場を繕おうとするオニキスの気遣いが却って月詠の羞恥心を刺激する。
若干涙目になりつつ、なんとか言い訳をしようとするが、
頭が混乱して何も言葉が出てこない……。
「あ、あの、オニ様……。」
月詠はピンと尖った耳をぺたんと伏せ尻尾を足の間に挟み、
僅かに震えながらうつむいてしまう。
その姿は宛ら捨てられた子犬のようで、
見るものの庇護欲をかき立てるものがあったが、
当人はそれどころではない。
(オニ様の前でなんとはしたない!
数分前の妾を殴り倒して燃やしてしまいたい……!!)
今更後悔しても遅いが、
それでも後悔せずにはいられない。
「月詠、そんな顔をしなくていいですよ。
少し驚きましたが、私のために怒ってくれた貴方にそんな顔をさせてしまっては、
私のほうがいたたまれなくなります。」
突然温かいものに包まれ、驚いて顔をあげると間近にオニキスの顔があった。
オニキスは月詠を優しく抱きしめ耳の付け根あたりを優しく撫でつける。
「お、オニ様……!?」
「覚えていて下さい月詠、
たとえ貴方がどの様に成長しようとも、
貴方が私の最愛の妹であることには変わりがないのです。」
「……妾、オニ様の妹ではございませぬ。」
「む、今なら行けると思ったのに意外と強情ですね月詠は……。」
隙あらば兄ポジションに収まろうとするオニキスに苦笑いを浮かべつつも、
オニキスが撫で付けると月詠は心地よさげに目を細め、
尻尾をブンブン振る。
(しかしオニ様……あまりにもお姉様ムーブが板につきすぎているような……。
よもや国に帰ってもこのままという事は……いえ、
それでも妾の気持ちは変わりませぬが……しかし~……。)
不安そうにじっと見つめる月詠に、オニキスは小首をかしげて微笑む。
あまりに可憐なその笑顔に月詠の胸は一気に早鐘を打ち始めた。
(あわ、あわわわ……だ、駄目でございます!!
何やら禁断の門が開きそう……ん?
オニ様相手でございますから禁断ではない……?
いや、しかし、このドキドキは、なんとも退廃的な……
いけませぬ、いけませぬ!!)
「月詠?」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
「どうかしましたか?」
「い、いえ……なんでもありませぬ。」
月詠は慌ててオニキスの腕から離れると、
真っ赤になった顔を、持っていた鉄扇でパタパタ煽り始める。
あたふたしつつ鉄扇で顔を仰ぐその動作は一見すると実に可愛らしいのだが、
鉄扇には先程殴りつけたチンピラの返り血がついており、非常に猟奇的である。
そのあまりのギャップにオニキスは微妙な気持ちになり苦笑いを浮かべる。
「……そ、そうです月詠、
この後もう少し時間はありますか?」
「はい?モチロン大丈夫でございますが、どうしたのですか?」
「月詠に見せたいものがあるんです、ついてきて下さい。うふふ……。」
オニキスはにこりと笑うと、くるりと後ろを向き歩き始める。
その際スカートがふわりと膨らみ、艶やかな黒髪が流れるように風に舞い、
その可憐な所作に月詠の目は完全に奪われた。
(……いやいやいやいや!オニ様!?
ちょっと乙女になり過ぎではございませぬか?
妾の中でちょっと本気で心配になる心と、
こんなオニ様も可憐で非常に良いと思う邪心とがせめぎ合って、
思わず何かに目覚めてしまいそうでございますよ!?)
胸のドキドキが止まらない……。
そのドキドキは最早どういった感情に起因する物なのか月詠本人すら判らなくなり、
放心状態になりながらも、とりあえずオニキスの後ろをついて行くのだった。
――――――……
「……つきましたよ月詠。」
混乱のあまりドキドキしすぎて何も考えず黙って後をついていった月詠は、
自分を呼ぶ声でハッとなり、オニキスの方へ目を向けた。
「……ふわぁ……。」
その光景を目の当たりにした月詠の口から思わずため息が漏れる。
そこは少し大通りから離れた小高い丘の上、
今まさに沈まんとする夕日に照らされて、
サントアリオの街が茜色一色に染まっている。
屋根や窓に反射した夕日はキラキラと輝き、
実に幻想的な光景を目の前に作り出していた。
「ふふふ、どうですか?
ここは私が発見した、最高の夕日スポットなんですよ。」
自慢げにしているオニキスを見て思わず顔がほころぶ。
超常の力を持ち、
常に楚々とした印象を受けるオニキスであるが、
実は彼は気心の知れた友人には時折とても幼い面を見せることがある。
月詠にはオニキスが自分にそう言う顔を見せてくれる事がたまらなく嬉しく、
また、それがどうしようもないほどに愛おしく感じられた。
「くふふ、夕日スポットとは何でございますか?
しかし、とても美しゅうございます。」
「それは良かった。
ここは私の秘密のスポットなので、
教えて上げたのは月詠、貴方が初めてなのですよ?」
「オニ様……。」
夕日に照らされて微笑むオニキスを見ていると、再び月詠の胸は高鳴る。
今度は先程とは違い、どういった理由から高鳴っているのかが解った。
「オニ様、妾はオニ様に伝えておきたいことがございます。」
「ん?」
「……オニ様、何故妾がオニ様をお兄様と呼ばないか、
その理由を知りたくはありませぬか?」
「……?」
月詠はオニキスの顔を見つめながら静かにオニキスの手をとり、自分の頬に触れさせる。
見つめるその瞳は何かを決意したような強さと、
相反する不安さを綯い交ぜにしたような光をたたえていた。
「オニ様、妾がオニ様を兄様と認めない理由は簡単な理由なのです。」
「つ、月詠?」
月詠はオニキスの手に添えていた手を離し、
今度はオニキスの頬に自分の手を添えゆっくりとオニキスに近づいていった。
そして潤んだ瞳の月詠の顔が近づき、その唇がオニキスの唇に……。
「さぁぁぁぁせるかああああああああ!!!!」
「きゃぁぁぁぁぁあ!?」
「!?」
突然茂みから襲いかかった影が月詠を吹き飛ばす。
恐ろしい速さで突っ込んできたその影は、
肩で息をしながら大声で何かを喚き散らしていた。
「この、発情犬!!やはり目を話した隙に本性を現しましたね!!」
無表情でありながら、不思議な事に憤怒の気配を漂わせる銀髪の少女。
その頭部には赤い角が顕現しており、
右手には彼女の愛剣”フレイムタイラント”が握られている。
「このシャマの目が黒いうちはお前の好きにはさせません!
それに、オニキスちゃんの初めては全てこのシャマがいただくと……アイタッ!!」
状況がいまいち飲み込めないオニキスは、
とりあえず全力戦闘装備で突っ込んできた駄メイドの頭を全力で叩く事にした。
「なにをするんですか!!
シャマはオニキスちゃんの危機を救いに参上したと言うのに!!」
「何を言ってるんですか、このおバカ。
とりあえず角と炎剣をしまいなさい。」
「しかし、オニキスちゃん、
このままではオニキスちゃんの貞操が危険で危ないのですよ!?
……あ痛っ、またぶちましたね!」
「誰かにその姿を見られたらどうするんですか……それに。」
「はい?」
呆れた声色から一転、
オニキスの目が座り剣呑な雰囲気が醸される……。
「今気が付きましたが、
シャマ……貴方いつから大道芸のアルバイトを始めたのですか?」
「ッッ……!?」
「そのあたり詳しくお話しましょう。」
「ヤダナアー、オニキスチャン。
シャマナンノコトカワカラナイナー。
とうっ!!」
「!?」
一瞬の隙をつき、シャマが地面に煙幕玉を投げつける。
「それではシャマは用事を思い出したので退散します!!
オニキスちゃん、お夕飯までには帰るのですよ!」
「あ、コラ!まちなさい!!
まったく……月詠、大丈夫ですか?」
信じられない素早さで逃走する駄メイドは後でこってり説教するとして、
今は吹き飛ばされた月詠の安否を確かめる。
幸い彼女は大したダメージは無い様で、すでに自力で立ち上がっていた。
が、
その表情は非常に暗い……。
「と、とりあえず帰りましょうか。」
「はい……。」
先程までの高揚は消え失せ、
二人は微妙な気持ちで帰路につくのだった……。
「駄メイド……何時か殺してやります……。」
隣から物騒なつぶやきが聞こえるのをスルーしながら……。
シャマが表情出しすぎちゃってる気がする……。
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