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第三十一話 デート-3

第一部長くなっちゃってごめんなさい。

本当はこのデート一話で終わる予定だったのです……。

31




「オニ様、そろそろお腹がすきませぬか?」


 しばらく広場で大道芸を堪能していると、

気がつけばそれなりの時間が過ぎており、

言われてみれば確かにオニキスは空腹を感じていた。


「そうですね、そろそろ昼食にしましょうか。」


 来た!!


 月詠は密かにほくそ笑む。

この日のためのデートプランその1、

広場で大道芸見物はスムーズに(?)進んだ。

お次は第二弾、

お洒落なお店でランチ作戦!


(ここで妾が甲斐甲斐しくサラダを取り分けたりと、

女子力をアピールして、オニ様の心臓を鷲掴みに!!!) 


 昨晩寝ずに調べ上げたこの周辺のデートスポット。

 リコスに賄賂(おひるごはん)を渡してまで聞き出した必殺のプラン。

このプランの前には、いかな朴念仁のオニキスとてひとたまりもない。


 月詠の目が狼らしい野生の輝きを宿す。


 人生初デートの素人であるにも関わらず、

彼女の心は自信で満たされていた。


(今日の妾に一切の隙は御座いませぬ。)


 しかし、次の瞬間月詠は己の浅慮を悔い、

自分の相手がいかなる存在であったかを思い知らされる。


「ふふふ、月詠。

ここで私の手荷物、このバスケットが何か明かす時が来たようですね。」


「へっ?」


 呆気にとられた月詠に、

オニキスが満面の笑みで振り返る。


「ジャーン!」


 間の抜けた効果音を口にしながら、

満面の笑みでオニキスは持っていたバスケットを開く。

バスケットの中には簡単に摘めるおかずとおにぎりが詰まっていた。


 オニキスのバスケットを開く動作には、

最早かつての魔王前とした重厚感はなく、

ただただ可憐な少女オニキスちゃんがそこに居た。


 本人は無意識だろうが、

確実に心身ともに少女としてどんどん成長を遂げているオニキスに、

月詠はとてつもない不安を感じる……。


「月詠が来た時丁度朝餉の用意をしていましたので、

今日は折角の休日ですし、

貴方を誘って散歩でもしようかと思ってお弁当を作っておいたのですよ♪

びっくりしましたか?ふふふ……。」


「ッッ!?」


(な、手作りのお弁当!?オ、オニ様……女子歴1年目にして何たる女子力……

笑い方も可憐過ぎで御座いましょう……女である妾がドキっとしてしまいましたぞ。

あ、オニ様にドキッとするのは正常で御座いますね。

ですよね!?

……それはさて置き、オニ様の女子力ポテンシャルは化物で御座いますかッッ!!)


「それではどこか座れる所に行きましょう。」


 そう言いながらオニキスは自然と月詠の手を握る。


 手を握られた月詠は、

計画の頓挫と手から伝わる幸福感との板挟みで最早パニックである。


「はぅあ~。」


 一分の隙もないと豪語した少女は、

為す術無く連れ去られて行くのだった……。




 ――――……




 「ご馳走様。」


「ご、ご馳走様です。」


 衝撃の昼食だった、

オニキスの料理はどれもシンプルながら美味であり。

明らかに月詠よりも料理の腕前が上であった。


 もともと月詠は王族なので、

料理をする機会も少ないのだ。


 が、それでも彼女は何時か花嫁になった時、

自分の旦那様(オニキス)に喜んでもらう為だけに、

プロの料理人に師事し、

それなりの腕前を手にしている。


 しかし、目の前の食欲魔神は、

その可憐な見た目と裏腹に、

己の食欲を満たすという欲求の為だけに、

必死に修行した自分の腕前を超えていたのだ。


「……こ、これは国に帰ったら猛特訓をせねば……。」


「ん?何か言いましたか月詠?」


「い、いえ、なんでも御座いませぬ。

大変美味しゅうございました。

月詠は五国一の果報者に御座いまする。」


 実際、オニキスの手料理は大変美味しく、

月詠は複雑な心境ではあったが幸せな昼食を堪能できた。

 こうなったらこれはこれと割り切って、

デートを全力で楽しみ、最後は……。



「おぅ、お姉ちゃん達可愛いねえ。」



 月詠が幸せな妄想に浸ろうとした瞬間、

その幸せは下卑た男の声によって途切れさせられてしまった。


 見れば、いつの間にか月詠とオニキスの周りには、

どこから見ても育ちの良くなさそうな男が数人で取り囲んでいた。


「お、俺達と良い事するといいんだな?」


「女の子二人で遊ぶより、楽しいと思うぜぇ?」


 実に野暮な、まるで己の兄が大量発生したような不快感。

いや、兄はここまで下卑た笑いは浮かべないし、

こんなデリカシーの欠片もない口説き方などするはずが……。




 ――「うぉぉぉ上等だ!!これを破って今夜は子どもつくるぞ!オニキス!!!」――



 ――「うぉぉぉぉぉ!!この術破って、お前の膜も破る!!獅王天鳴拳!!」――




 ……デリカシーの欠片もない、あの兄はこんな連中よりよっぽど下卑ていた……。


「黙ってねえでなんとか言ってくれよ姉ちゃんよぉ。」


「貴様……。」


 相変わらず下卑た笑いを浮かべたままオニキスに触れようとする男を、

月詠は殺気を込めて睨みつける。


が、月詠が男を止めるまでもなくオニキスはその手をするりとすり抜けた。


「失礼、私たちは今日は二人きりで過ごす予定ですのでお構いなく。

あと、私は貴方のお姉ちゃんではありませんよ?」


「な、てめぇ、今何をしやがった!?」


 あまりに見事な体術で躱されたため、

男は何故自分がオニキスを触れなかったのかが理解できない。


「それでは御機嫌よう。」


 ニコリと微笑みながら会釈し、その場を後にするオニキス。


 本人は普通に退散しようとしたのだが、

オニキスのような美少女に良いようにあしらわれた男は、

羞恥と怒りが綯い交ぜになり、その矛先をオニキスへと向けた。


「おい、”ごきげんよう”じゃねえんだよ。

こっち見ろやコラァ!」


「ア、アニキ舐めてると、ゆ、ゆるさないんだな!」


 常に暴力を使いワガママを通してきた男達だ、

すでにその怒りは彼らの中では正当化されており、

最早彼らの頭にはオニキスたちを穏便に遊びに誘うなどという気持ちは、

欠片ほども残されていなかった。


 月詠はそんな男達を興味なさげに少し眺めていたが、

オニキスが彼らを無視するつもりの様だったので、

それに倣い、自分もその場を去ろうとした。


が、 


次の一言で事態は大きく変化する。


「おい、無視するなよ、

自分が可愛いとでも思ってんのか?

この”勘違い黒髪ブス”がよぉ!!」


「あっ?」


 瞬間、その場の空気が凍った。


 月詠にとって、男たちが絡んでくるのは構わない、取るに足らない些事である。

仮に彼らが暴力を振ろうとしたとしても、

月詠とオニキスであれば何の問題もなく穏便に済ますことができるからだ。


 ――だが、コイツは今何と言った?


 月詠の思考が怒りで塗りつぶされていく。


「……訂正しろ、いや、

訂正したとて許されぬ……。」


「あん?なにぼそぼそ言ってるんだ?

怖くなって改心したのか?

だったら獣人の姉ちゃんでもいいぜ?

俺らと良いことしようぜ。」


「ア、アニキ。

お、俺はむしろこっちの娘のほうが、

耳とか可愛くて好きなんだな。」


「げはは、それじゃあこの獣人女に俺たち全員の相手をしてもら、ガフッ!!」


 男が言葉を言い切る前に、

月詠の握った鉄扇が男の顎をカチ上げる。


 派手に血を吹き出しているので、

歯が数本折れたか、或いは舌を少し噛み切ったかもしれない。


「おのれ等……妾の至福の一時を邪魔しただけでは飽き足らず……

言うに事欠いて……オニ様に向かってなんと言った?」


 幽鬼のような気配を漂わせ月詠が男たちのことを睨む。


「祈るが良いぞ下郎……。

これより先、少しでも気を抜いたらお前の無価値なその命


……取りこぼしてしまうぞ。」






 ――天津國 月詠


 普段は温厚で真面目な人物である。

 が、彼女の前で決してやってはいけないことがあった。

 それを男たちはこの後、骨の髄まで思い知らされることとなる。


 ついでにそれを見ていた黒髪の少女にもその恐怖は刻まれることになった……。



もうすぐ、もうすぐ1部終わります。

本当です!!

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