第一話 ていきゅうまほう
前話読んでくださった方、ありがとうございます。
ブックマーク貼ってくださった方もいらっしゃって感激でございます。
拙い文章ですがより楽しんでいただけるようこれからも頑張っていきますので、
お付き合いください。
1
「……一応どういう事か説明してもらおう。」
「説明?ですか……?」
「予はこの学園が女子校であることを聞いていなかったのだが?」
「あ、なるほど。確かに女子校であるとは言ってないですね。
あと、ご自分のことを予などとおっしゃられては身分がバレてしまいますよ?
オニキス=マティちゃん。」
桜の花びらが舞う中、二人の美少女?が立ち止まっていた。
「それに言葉遣いもそんな事ですと、幾らオニキスちゃんといえど
男性とバレてしまうかもしれませんよ?」
「それはもう手遅れであろう。さっきから視線を集めているようだからな。」
黒髪の少女が陽炎のような怒気を纏いながら銀髪の少女に近づく。
「で、説明をしてもらえるかな?」
きれいなストレートの髪を風に踊らせながら目の笑っていない笑顔の少女。
そう、有角族魔王オニファス=アプ=フェガリである。
「説明も何も思い出してください陛下、
歴代勇者の性別はご存知ですか?賢者は?聖女は?そう。すべて女性です。」
「ぐぬ……。」
確かに歴代の勇者達が尽く女性であるのは知っていた。
そしてこのシャマという人物があんなにも乗り気で仕事をこなしていたこと。
当然この事態は想像出来たのだ。
今のこの状況は自分のミスであるとオニキスは思っていた。
「そして国を憂いての行動でございますから、
この程度のことは我慢していただきませんと困ります。」
「うぐぐ……。」
「王たるものすべからく国事を第一とすべし。で御座います陛下。
サントアリオの秘密を知るためでございます。
女装ごときなんですか。
決して私が趣味で陛下を女装させているわけではございません。
ええ、趣味ではないのです。
ですから明日からはニーソックスも着用いたしましょう。」
いつもの無表情だが息が荒い。
どう考えても何かがオカシイ。
「まぁ良い。どうせすぐに男とバレて退学になるだろうからな。
もし予が退学になったら、シャマには単身スパイ活動に勤しんでもらうことになるぞ。
覚悟しておくといい。」
「陛下、言葉遣いはお気をつけください。
貴方は今、魔王オニファス陛下ではなく、
聖サントアリオ学園ピッカピカの一年生オニキス=マティちゃんなのですから。」
「ぐぎぎ、シャマさん。これでよろしいでしょうか?」
「素晴らしい、完璧ですオニキスちゃん。この調子で行きましょう。
できれば語尾にニャアとつけましょう!
ささ、今日はクラス分け魔法テストですよ。
会場に向かいましょう。」
死んだ魚のような目をしているくせに機嫌の良さが伝わってくる。
と言うか彼女の両手は絶えず両頬に添えられ、
指で口角を持ち上げて全力のスマイルを表現している。
一体何が彼女をそんなに喜ばせているのか全くわからない。
「さあ、いきますよ。」
「む、語尾が普通……遺憾だにゃあ。」
文句を言いつつ二人並んで魔術訓練場へと足をむけるのだった。
―――――
訓練場の門を開くとそこにはすでに数名の生徒と教師が揃っていた。
まだ試験の開始までは時間があるようで、
生徒たちは何人かのグループに別れて雑談などをしていた。
「失礼します。」
ざわつく場内に通りの良い声が響き全員に視線がそちらに向く。
――瞬間、場内が静まり返り視線は声の主に集中した。
「……え?」
何が起きたのか?
訓練場に入って挨拶をしただけなのにそこに居た人間全員がこちらを見つめている。
「え、あれ?……まさか角が!?」
慌てて頭をまさぐる……角は……ちゃんと収納されてる。
とりあえず胸をなでおろす。
では何故この場にいる人間全員がこちらを見て固まっているのか……
……て、当たり前だった!!!
学校に突然女の格好をした男が入ってきたらそりゃ固まる!!
ヤバイヤバイヤバイヤバイ。
早く隅に寄って目立たないようにしなくては。
顔が真っ赤になる。
恥ずかしい!!死にたい!!!
しかし、男とバレるのはもっと最悪だ、
静かに目立たずひっそりと、隅の方にいるゴツイ女と思われなくてはいけない……。
とりあえず醜いだけの女と思われておけば最悪の事態だけは避けられる。
「シャマさん、端の方に行きましょう。女装を疑われています……
目立ってしまうのは非常に不味い。」
オニキスはシャマの手を引き部屋の隅にうずくまり、
なるべく体を小さくすることにしてこの窮地を脱することに決めたのだった。
「ときにシャマさんや……。」
「はい、なんでしょうかオニさんや。」
「どう見ても生徒と思われる人々に男性がいるのは予の見間違いかね?」
「いえ、学園ですし。男子生徒がいるのは至極普通のことではないかと。
あと言葉遣いがブレてますよオニキスちゃん。」
しばし流れる沈黙……。
――意を決して尋ねる。
「つまりここは女子校ではないと言うことかしら?」
「シャマは一度もここが女子校であると言った覚えはありませんが?」
目の前の能面女が心底不思議そうな顔をしている。
不思議だ、なんでコイツはこの状況でこんな不思議そうな顔ができるのか……。
「なんで男子のいる学校なのに女子で登録したのですか。言え!」
シャマの顔を掴んで前後に振る。
興奮のあまり少し男の地が出てしまっている。
「それはもちろんとてもお似合いになると思……ゴホン。
もちろん、より正体を判らなくするための変装でございます。
名前を変え、性別も偽れば陛下の正体はより判らなくなるはずです。
そろそろこの脳みそを破壊するような行為をおやめください。」
「思いっきり男だと疑われて怪しまれているではないですか。」
いっそう力を込めて揺する。
「ごごごあんあんあん安心くだくだ下さい……。
あの視線はそのような理由ではごごごごござざざざいません。
それより今まさに注目を集めておりますよよよよよ……。」
揺れながらも器用に喋るシャマからゆっくりと手を離し周りを見る。
確かに全員がこちらに注目していた。
恥ずかしい、顔から火が出そうだ。
こんな辱めを受けるぐらいなら、
父上のようにサントアリオなど放置しておけばよかったのだ……。
オニキスは再び顔を膝にうずめると、
今度こそは自分を背景に溶け込ませるように最大限の努力をするのだった。
――――とある女生徒視点――――
正直、私は今までそれなりに自分の容姿には自信があったし、
自分よりきれいな女の子が居たとしてもそんなに気にすることもなかったわ。
その時もいつもみたいに友達と話してたの。
そしたらドアの開く音と妙に通りの良いきれいな声がしたのよね。
だからそっちに目を向けたんだけど、
「失礼します。」
「しまー。」
ドアの前に立っていたのは、
銀髪シニョンで赤い目をした綺麗だけどなんとなく死んだ魚のような目をしたな女の子。
それともう一人……
艶やかな黒髪、黒髪と同じ美しい黒い瞳。
透き通るような白い肌に薄い紅色をした唇。
一見儚げに見えるのに、
少しだけつり上がった目は気高さと意志の強さを感じさせる。
銀髪の少女もかなりの美少女だったけどこっちの黒髪の娘……。
美少女なんて言葉では片付かない程の美少女がそこにいたの。
……何を言ってるのか自分でもわかりませんです、ハイ。
とにかく私は生まれて初めて同性の美しさから目を離せなかったわけ。
どれだけ凄い美少女かわかるでしょ?
あ、黒髪の娘がわたわたしてる。
頭触ったりしてる……なにしてるんだろう?
今度は顔が真っ青に……あ、今度は赤くなった。
そのまま銀髪の娘の手を引いて壁の方に行っちゃった。
あー、驚いた。
世の中あんなに綺麗な娘っているんだねえ。
あ、なんか銀髪の娘が頭掴まれてものすごい勢いでシェイクされてる……。
ものすごいガクンガクンしてるけど大丈夫かな?菩薩○みたいになってるけど。
あ、もうすぐテスト始まりそう。
ここにいるってことはあの娘も魔法科志望なんだろうな。
一緒のクラスになれたら良いなあ。
――――――――
――さて、そろそろテストが始まるようであるが、
ここでオニキスは自分がサントアリオの魔法文化を全く知らないことに気がついた。
「シャマさんはこのテストがどういったものか知っているの?」
「はい、基本的には魔法の力を見せるという内容になってます。
訓練場の壁は強固な結界が張ってある上、
テスト生一人一人にも教師が結界を張るそうなので、
遠慮なく攻撃魔法でも撃てば良いんじゃないですかね?」
「どの程度の魔法を使えば良いの?
まあ他の生徒の動向を見て考えればいいのかな……?」
二人でこんな会話をしているうちに教師の一人が壇上に上がった。
魔法科の試験だと言うのに筋肉に覆われたクマのような男性教師だ。
魔法科のテストとは言っても教師が魔法使いというわけではないんだろうか?
それともこの筋肉で覆われた熊のような男性が魔法使いなのだろうか……?
髪は黒く、毛量は未来を見なければ今のところ問題はないと言ったところ。
あと、4~5年は周りの人が気を使ってあげれば彼の心は大丈夫なはずだ。
タレ気味の目は人の良さを感じさせ、その恐ろしい肉体とは裏腹に非常に優しげな印象をうける。
どうやら彼からテストの説明があるらしい。
「はい、みんな注目!!」
パンッッッ!!パァァァァンッッッ!!!!
キィィィィィン
耳が痛い……。
注目を集める為に手を叩いているようだが力が強すぎて破壊力を伴っている。
明らかに人間業ではない。
声もやたらデカイ。
「はい、これから魔法科のクラス分けテストを行う。
俺の名前はサム・グレコ。
魔法科の教師だ!得意魔法は水魔法と治癒魔法だ!
体調崩したやつは何時でも言え!一瞬でやっつけてやる!!」
どうやらこの熊男の得意分野は見た目によらずヒーラー系であるらしい。
術を極めて勇者パーティに入るとしたら、
彼の職業は”聖女”になるのだろうか……。
いや、流石に男性なら他の呼び名があるに違いない。
が、体の不調を”やっつける”とはいったいなんなんだろう……殴るのだろうか?
などとオニキスがくだらない考えに意識を持っていかれている時、
聞き捨てならない一言が彼の口から語られる。
「さて、お前らも知っての通りこのテストの結果で
お前たちは C B A S クラスに振り分けが行われるぞ!
当然魔法科なので最低でも”ていきゅう魔法”位は発動できると期待してるぞぉ。。
それができなかった方は他学科に移動して戦士になって再テストをするか、
最悪の場合退学もあるから頑張れよー。」
「「「はい」」」
生徒たちが気合の入った返事をする中、
冷や汗を流しながら表情を引きつらせた生徒が一人……。
噂の美少女()オニキスである。
「てい……きゅう……?」
「聞いたことのない言葉ですね、これは盲点です。
サントアリオの魔法は、どうやらその強さによってクラス分けが成されているようですね。」
「これはまいりましたね。”ていきゅう” 恐らく低級魔法でしょうか?」
「オニキスちゃん、ちがうと思うわ。
ここは勇者や賢者を輩出する名門校よ?
低級の魔法が最低限のハードルというだけならわかるけど、
それすら使えない生徒がいるとは思えないわ。」
「確かに、しかしそうなると”ていきゅう”魔法とはなにかしら?」
「……おそらく”帝級”かと……どの程度のものかは判りませんが、
全力で臨むべきかと思います。」
「帝……級……まさかそんな妙な名前の魔法が?
いや、まだ焦るべきじゃないですね。
とりあえず他の生徒の魔法を見よう……。」
常識で考えれば低級魔法だろう。
しかし、シャマの言うことも的を射ている気がする。
まあとりあえず様子見だ。
その上で目立たないようにSクラス入を目指すのは骨が折れそうだ。
「それじゃあ、早速呼んだものから試験開始だ。
最初はオニキス=マティ前へ来い!!」
「はい。」
全生徒の視線を集める美少女は、凛とした声で返事をし立ち上がる。
その所作一つ一つが洗練されており、
生徒たちは喋るのもやめて、
その歩く姿に見惚れてしまった。
彼女はそのまま真っ直ぐに試験場に向かう。
その表情とは裏腹に手にびっしょり汗をかき、
心臓をバクバクさせながら……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
初小説なので色々考えてしまい、どう思われているのかとガクガクしながら投稿しております。
指摘 感想など頂きますと喜びますのでどんどんいただければと思います。
それではまた、第二話 ていきゅう誤法 でお会いいたしましょう。