第二十三話 うちのカワイイ妹がビクンビクンして大変なんです!!
風邪を引いておりました。
更新遅れて申し訳ございません。
今回はちょっとだけグロじゃない方向にR-15です。
23
――奈落の底。
「随分落ちた気もしますが、余り衝撃のようなものはなかったですね。」
月詠を抱きかかえつつ、オニキスは自分が落下してきた上方を見上げる。
「転移……ですね。見た目と違って上層と空間がつながっていない。」
「ん、うぅ……。」
「月詠、目が覚めましたか?」
「オニ……様……?ッ……。」
「いけない!!月詠、即座に魔力を完全に切って下さい。」
目を覚まし状況の確認が出来ていなかった為、
いつもの癖で魔力を練り始めてしまった月詠の腕を魔力侵食毒が一気に這い上がる。
「月詠!!大丈夫ですか!?」
「ハッハッ……クゥッン……。」
月詠は苦しそうに顔を歪める、
だが、頭は冷静なようで即座に自らの魔力を遮断する。
しかし、その一瞬の魔力だけでも魔力侵食毒の侵食は目に見えて進んでしまっていた。
即座に魔力を切ったお陰で取り敢えず侵食は止まった様だ、
が、腕を蝕む激痛の強さは月詠の表情が物語っている。
「無理はしないで下さいね、
魔力侵食毒は即効性はないですが、
下手をすれば命に関わる毒ですから。」
「オニ様……はい、足を引っ張ってしまい申し訳ありませ……「こらっ!」……キャンッ!」
しょげる月詠にオニキスのチョップが飛んだ。
何事かと涙目で見上げる。
「まったく何を言ってるんですか、足を引っ張ったのは私の方でしょう。
――月詠、私を守ってくれてありがとうございます。
貴方が謝ることなど何もありませんよ。」
「は、はい……。」
(はわ、オニ様、顔近っ、微笑みが天使のよう……て、あれ?
妾、今なんでチョップされて……ふぁっ!?)
「歩くのは辛いでしょうからしっかり掴まっていて下さいね。」
「あわ、あわわわわ……。」
そう言うとオニキスは、
左手で月詠を抱きかかえ右手に神凪を構える。
体の小さな月詠はスッポリとオニキスの腕の中に収まった。
必然的に近づいた顔は月詠の冷静な思考を奪い去り、
先程の理不尽なチョップの事など綺麗に記憶から消し去っていく。
「さて、奈落の底ですか……入り口は複数で転移先はランダムと言ってましたね、
取り敢えずボス部屋までいかないと流石に見つけられませんかね。」
「……?オニ様?」
「……何でもありません。
さて月詠、しっかり掴まっていて下さい。
一気に走り抜けますよ。」
「ひゃ、ひゃい。」
言われるままにオニキスに密着すると、
月詠の鋭敏な嗅覚はオニキスの香りを至近距離で吸い込んでしまう。
獣人族は、野生の獣に近い感覚をしており、
人種などより遥かに鋭い五感を持っている。
また、鋭い嗅覚の他に異性の持つフェロモンに敏感であった為、
不意に近距離でそれを胸いっぱいに吸い込んだ月詠はパニック状態になってしまっていた。
(こ、こんな、オニしゃまの、香りが……はふぅ……。)
右手を襲う激痛も、奈落の底の魔物達も、月詠の頭から一瞬で霧散して行く。
最早ここが危険なダンジョンであるという判断すらつかなくなっていたが、
魔物たちは容赦なく侵入者であるオニキス達の元へ殺到してきた。
通路を塞ぐ黒い狼のような魔物が次々オニキスに襲いかかった、
巨体に似合わない素早さは、
上層の魔物とは比べ物にもならず、
流石は上級ダンジョンと思わせる凶悪なものであった。
が、オニキスはこれを難なく片手で斬り伏せて行く。
抱えている月詠に負担をかけないように、
なるべく動きを抑えつつ魔物の動きに合わせカウンター気味に刃を添える、
すると刀の撫でた軌跡はそのまま魔物の体に刻まれていく。
「ふむ、確かに力が上層の魔物とは段違いですが、知能は低そうですね。
これならカウンターを合わせるのもたやすいですかね……。
月詠、体は大丈夫ですか?」
「フー……フー……。」
「月詠?」
「ひゃ、ひゃいっ!」
顔を胸元に埋めたまま息を荒げている月詠は、
顔も上気しており焦点も合っていなかった。
「ッ、大分辛そうですね。もう少しの辛抱です!」
「こ、これは違……ひゃぅぅっ!!」
オニキスは月詠を抱き直すと、
更に密着させる体勢に持ち替えた。
「ちが、これは、香りが、あひゅっクンカクンカ。」
最早何を言ってるのかわからなくなった月詠、
更に密着した上に度重なる戦闘によって僅かに汗ばむ体に顔を押し付けらる。
その思考は白濁とし、オニキスの事以外何も考えられない状態になっていた。
その御蔭で魔力侵食毒の激痛すらも感じなくなっていたのは、行幸と言えたかもしれない。
「そこを退きなさい!!」
オニキスの剣閃が煌めく!!
「ガッ!!」
魔物の断末魔が響きその体を沈めていく。
「はヒュウックンカクンカ……あふっ……。」
顔を埋めた月詠が発情する。
奈落の底にて魔王と魔物と獣の混沌とした戦いが繰り広げられていた。
(だめ、駄目、死ぬ、しんでしまいましゅ……。)
約一名別次元の戦いのようではあるが……。
――――――
そのまま特に問題もなく、オニキスと月詠は奈落の底を進んでいた。
その時、
最早何匹目かも解らぬ巨大な狼が、通路の死角から唸り声を上げつつ襲いかかる。
かなりの速度と重量であったが、オニキスはこれを容易く躱し、
すれ違い際にその首をなで斬りにする。
更にそのまま歩を進めつつ後から襲いかかる魔物に同じ動作を繰り返す。
本来であればもう少し慎重に進みたいところではあるが、
先程から月詠の様子がおかしい。
魔力侵食毒の症状とは違う気がするが、
怪しげな男の使用した毒である。
これが通常の魔力侵食毒ではない可能性を考えると、
一刻も早く地上に戻りたいとオニキスは考えていた。
「フー……、フー……。」
月詠はよほど苦しいのか、顔を赤くしながら呼吸も荒く、
体を強ばらせながらしきりに足を内股気味にもぞもぞ動かしている。
痛みの為なのか、時々ピクンピクンと体を痙攣させている様が痛ましい。
「月詠大丈夫ですか?」
「ンッ……ふぁっ……だ、大丈……ひ、んうっ……大丈夫でしゅ……。」
呂律も上手く回らなくなっている月詠の姿に、
いよいよオニキスは焦り始め、その歩を更に早めていく。
表情からオニキスが何を考えているのかを察した月詠は、
何とか自分が本当に大丈夫だということを伝えたかったが、
この天国のような地獄のような、やっぱり天国のような状況を、
上手くオニキスに伝えることが出来るわけもない。
申し訳ない気持ちになりつつもこの状況を享受する事にした。
(地上に出たらオニ様に謝らねばなりませぬ……しかし何と言えば良いのか……。)
「妾、オニ様の体臭に包まれて発情しておりました!」
……などと言えるわけもない。
何と言い訳をしたものかと頭を悩ませている間にも、
オニキスはその歩をどんどん進めていく。
抑え気味の魔力循環しか使っていないはずなのに、
上級ダンジョンである奈落の底を何の苦もなく進むオニキスの実力に月詠は改めて瞠目する。
(流石というか何と言いますか、
たとえ”角”を出していない状態でも、僅かの魔力循環を使用しただけで、
オニ様の力は通常のフェガリ人の力を遥かに凌ぐのですね……。)
一般的な有角人ですら人族と比べれば遥かに強靭であり、
その強さはクティノスの獣人達ですら同数であれば確実に敗北する程である。
しかし、”角”をしまった状態では話は大きく変わる。
基本的には有角人は”角”を仕舞った状態では人族と殆ど同じ戦闘力となる。
いや、日頃”角”を利用した魔力循環に頼っているために、
通常の人族にすら劣る程度の戦闘力になってしまうのが普通であった。
オニキスもその例に漏れず、
”角”のない状態では一般的な人族の女性以下の膂力しか持ち合わせては居なかった。
しかし、彼はその後魔力循環と言う魔法を即座に創作してみせたのだ。
……これこそがオニキスの最も異常な才能であった。
――魔法の創作。
これは本来、何年も、
いや、場合によっては数十年、数百年もの時間をかけ、
専門家が研究に研究を重ね行う事である。
しかし、オニキスはそれを苦もなくやってのけるのだ。
本人はその異常性には余り気がついて居らず、
必要な時に必要な魔法を当たり前のように作り出し、そして行使する。
――オニキス曰く。
「皆は予が魔法を生み出す事に、驚きと賞賛を贈ってくれるがな。
魔法式は目に見えて展開されるのだから、それを読み解けば応用は容易い。
むしろ偉大なのは、その魔法式を開発した先人達であろうよ。」
その言葉を聞いた時は流石に、
豪快なことで知られる先代フェガリ王ですら唖然としていた。
曰く、人生で最も驚き、呆れた瞬間だったとのこと。
――しかし、その直後オニキスが行った非常識な行為のせいで、
その人生最大の驚愕はあっさりと塗り替えられたのだが……。
そう言えばオニキス様がとんでもない行動を取ると、
何故かあの駄目イドがドヤ顔をしていた。
オニキスの勇姿を見るのは月詠の何よりの楽しみであったが、
その都度あのドヤ顔を見せられる為、折角の幸福が逃げて行く様に思われ、
あの駄目イドに怒りが湧いたのをよく覚えている。
そんなことを考えていると、
月詠の顔にオニキスの汗が一滴落ちてきた。
よく見れば、流石のオニキスにも疲労の色が見て取れた。
無理もない、
幾らオニキスが規格外の存在とは言え、
この状況で月詠を抱えてダンジョンを走って来たのだから、
その疲労も当たり前のことだろう。
むしろ、これまで歩を緩めることもなく真っ直ぐ進んでいることが異常なのである。
「オニ様、少し休憩を致しましょう、
毒の進行は今は止まっております故。」
「本当ですか?
……月詠はすぐに無理をしますからね。
よく顔を見せて下さい。」
至近距離で顔を見られ思わず心臓が破裂しそうに跳ね上がる、
しかし、ここで息を乱したりすれば、
確実にオニキスは強行軍を続けてしまうだろう、
それ故に月詠は全神経を動員して冷静に努めていた。
「ほら、大丈夫でございます。」
限界まで取り澄まし、冷静な声をあげる。
オニキスの真っ黒な瞳が射抜くように月詠を見ている。
(あわぁわわわ、オニ様!近い!!近すぎまするぅぅぅぅ……。)
顔から湯気が出そうだが、出すわけにはいかない。
ある意味月詠にとって、本日一番の修羅場と言えた。
「ふむ、顔が少し赤い気がしますが、本当に大丈夫そうですね。
月詠もずっと抱えられていては疲れたでしょうから、
ここで休憩をしましょう。」
ポケット取り出したハンカチを地面に敷き、
その上に月詠を下ろす。
「オニ様、これではオニ様が休めておりませぬ!」
月詠を座らせておきながら、自分は立って休もうとするオニキスに抗議の声をあげる。
「幸い、妾の懐中には便利なものがございまする。」
ドヤ顔で胸元から風呂敷を取り出す月詠。
何故こんなものを胸元に入れているのかは解からない。
月詠のささやかな胸が、
ささやかを通り越して絶壁になったように見えるがオニキスは何も気が付かない。
……気がついてはいけないのだ。
オニキスは月詠の好意に甘える事にして、
ほのかに体温の残る風呂敷に腰を下ろした。
「ありがとう御座います月詠。
……しかし残念ですね、こんな状況でなければ、
二人でこうして風呂敷の上でのんびりするのも良い物だったでしょうに。」
「くふふ、オニ様はすっかりその話し方が板について居られますな。」
「むむ、変ですか?」
「いえ、ただあまりにも可憐すぎて、
妾ですら偶さかオニ様が男性であることを忘れてしまいまする。」
「むー、それは兄としては由々しき事態ですね。
む、むー、よ、予はオニファスであるぞ!!」
無理やり元に戻ろうとしたオニキスの不自然さに思わず月詠が吹き出す。
「く、くふ、くふふ、何故元々の口調が胡散臭くなられて、
あ、駄目、くふふふ……お腹痛い。」
「む、笑いすぎであるぞ!ぞ?
笑い過ぎで……ござる……?」
「プ、アハハハ、オニ様、妾を笑い殺す気でございますか。」
『主様、ござるは某の専売特許でござるよ!』
何か聞こえてきた気もするが華麗にスルーをする。
「久しぶりすぎて調子が出なかっただけだ。
笑い過ぎであるぞ……月詠。」
「はー、申し訳ございませぬ。
オニ様はどんな口調でもオニ様ですからお気になさらず。」
「ふむ、しかしこの口調であれば以前と変わらぬであろう?
嘗てのように予を兄上と呼ぶが良いぞ。」
「くふふ、妾はオニ様を兄上と思ったことは御座いませぬ。」
「ぬぅ……。」
ニコニコ笑う月詠とションボリするオニキス、
無視をされてキーキー騒ぐ無機物。
最悪の状況ではあるが、オニキスの横であれば何の不安もない。
月詠は心の底からの安心感を持ってオニキスを見つめる。
奈落の底に落ちてしまい、毒にも冒されてしまったが、
今置かれているこの状況は悪くない。
久方ぶりにオニキスと再会をし、
邪魔者もなく二人きりで過ごせる時間。
危険なダンジョン内ではある、
しかし不謹慎と思いつつも、
この時間が少しでも長く続けばと思ってしまう。
「オニ様、こんな時では御座いますが、妾――。」
「――や、こんなところに居たッスか。
落ちた先も一緒とはご縁があるかもッスね。」
「ッ……!!」
何の気配も感じなかった。
しかし、暗い通路の先に、
その男は朗らかに笑いながら立っていた。
「ボス部屋までいかないと会えないと思ってたッスから、これは運がいいッスね。」
朗らかな笑みとは裏腹に空気がネットリと重くなるような感覚。
「さて、オニキスちゃん、お姫ちゃん。俺とあっそびましょ♪」
――悪意の塊がそこに立っていた。
こういうシーンは余り入れないほうが良いですかね?
お色気は線引きが難しい。
ご感想いつでも歓迎でございます、
下さいぷりいず!٩( 'ω' )و




