第二十話 奈落の洞
沖縄旅行をしていたため更新遅れて申し訳有りませんでした!!!
見捨てないでください!なんでもしますから!!
今回微グロ(?)ありかもです。
注意するほどでもないかも?
前回のあらすじ
神凪がウザかった。
20
昼休みも終わり、生徒たちが午後の授業の移動を始める中、
すれ違う生徒たちの視線を一身に集めながら、刀を抱いた少女が歩いていた。
若干猫背になりつつ刀を強く抱きしめるように歩く様は、
まるで刀泥棒でもしているかの如く怪しいものであったが、
彼女の容姿はその怪しさを払拭していた。
「うう、確かに昨日は少しやり過ぎましたが、何もこんな持ち方させなくても……。」
――――ッッッ!!
「わかりました、解りましたから。頭のなかでシャウト気味に喚くのは止めて下さい!」
『主様は某の傷ついた心を癒やす義務があると思うでござる!!
昨夜は某のガラスのような心がどれだけ気がついた事か!!』
「ガラスの心だからって、そんなガラス引っ掻いたような声で喚かなくても……。」
――――ッッッ!!!
「あー解りましたよ!昨日は私が悪かったですから大人しくして下さい。」
大声を上げたことにより周りの視線が更にオニキスに集中する。
「あ、あうあ、あうあう。」
羞恥に顔を染めた彼女はそのまま全力逃走したかったが、
ここは廊下なので走るわけも行かず、羞恥に耐えつつ早歩きで逃げていった。
魔王様は王様なので遵法精神が強いのだ。
――――――
オニキスがダンジョン前に着くとそこには既に月詠達が待っており、
オニキスの姿を見つけると手を振って挨拶をしてきた。
本日もディアマンテの見た目は凄まじい。
南国の鳥を思わせるカラーリングに、やはり下半身には白いタイツ、
更にその顔には巨大なクチバシを装備していた。
その為、前回は見ることができなかった美しく整った目元を見ることが出来る。
やはり、リコスの兄と言うだけあって彼の顔も整った造形をしているのだろう。
――惜しむらくは、前回はその目元を珍妙な仮面で隠し、
今回はその顔の下半分が巨大なクチバシで見ることが出来ないことだろうか。
ファッションセンスさえまともなら優秀な美形の剣士だと言うのに……。
「……違う……、こいつの残念な部分は頭の中身だ……。」
唖然とディアマンテを眺めるオニキスの心中を察したようにヴィゴーレが呟く。
「やぁ、オニキス君!今日もご機嫌うるわし……くは無いようだね?」
軽い感じでオニキスに挨拶しようとするも、
既に戦地で死闘を繰り広げてきたような疲労感を漂わせるオニキスに言葉が詰まる。
「オニ様、おはようございます。何やらお疲れのご様子で……あ!」
一瞬心配そうにオニキスの顔をみた月詠だったが、
その胸に抱かれている刀と腰の釘バットを見て大体の事情を察した。
「あー成程、神凪のあれで御座いますか……。オニ様お疲れ様で御座います……。」
「はい、まあ自業自得なので今日はこの子を使って戦います。」
「あーっはぁ?今日はその刀を使うのかい?
君の剣技の腕は妹から聞いているかなねぇ、見るのがたのしみだなぁ。
それなら今日は君が前衛をする感じで行くかい~?」
「はい、それでお願いします。」
こうして簡単な打ち合わせを終え、オニキス達のダンジョン講習二回目が開始された。
―――――― 数十分後、初心者ダンジョン奈落の洞第9階層にて。
ここでは先程から、何かを叩きつける音と、何かが破裂する音が断続的に鳴り響いていた。
――「ふっ。」
裂帛の気合と共にオニキスの手から魔力を帯びた神凪が投げつけられ、
襲い来るゴブリンの頭部が弾け飛ぶ。
投げつけられた神凪は、
括り付けた紐を引かれ即座にオニキスの手元に戻り、再び投擲される。
「そりゃあっ!!」
再び目の前のゴブリンの頭部がはじけ飛ぶ。
「オニキス君?その使い方は剣士としてどうなのかぁね?」
神凪の刀身を鞘から抜くこともせず、
ただただ魔力を込め神凪を振り回すオニキスを、
呆れた目で見つめるパーティメンバー達であったが、
オニキスはそんな仲間の視線には構わず神凪を投擲武器として投げつける。
「オニ様、なんとなく気持ちは解るのですが神凪はそれで満足しておられるので?」
「はい、この子は自分以外の武器が使用されてることに嫉妬しているだけなので、
これで何の問題もありません!」
「問題大有のような気がするがねぇ。」
「問題ありません!!」
「ア、ハイ」
何かよくわからないが、オニキスがこの刀をまともに使うつもりがないのだけは伝わったので、
これ以上のツッコミは止めておく。
しかもその殲滅力は凄まじく、
既に9層を走り抜け、10層への入り口前の広場まで到着していた。
「しかし、こんな使い方してるのに十分過ぎるほどの戦力だぁね。
ゴブリンの討伐証明部位とかはほとんどはじけ飛んでるけど。
オニキス君の実力は交流試合で見せてもらったけど、改めて規格外過ぎて驚くよ~……。」
「如何にも左様で御座います。
オニ様の実力であれば、武器等どんな使い方をしても最高の武器となるのです。
……とは言え、オニ様!そろそろ憂さ晴らしは終えて休憩にいたしましょう。」
――どっせい!などと叫びながら神凪投げを続けるオニキスだったが、
月詠の声に多少頭が冷えたのか、素直に仲間の元へ戻ってきた。
「取り敢えず、これで第9層突破だぁね、
10層辺りからは冒険者の狩場としても使われるらしいから、
ここからはモンスターと間違って冒険者に誤爆とかも気をつけないとだね。」
「確かに、ここまではスムーズに進んできましたから、
生徒たちで同じ階層に居る人はあまりいないでしょうね。」
「爆発音と奇声が聞こえませぬので、
少なくともあに様はこの階層には来ておりませぬ。
恐らくは見かけた魔物を殲滅することに集中して目的を忘れておられるのでしょうな。」
オニキスもそれには頷く。
恐らく大和リーベ組がこの階層に居たのなら、
大和の怒声と破壊音、それに加えてリーベの悲鳴と泣き声が聞こえるはずである。
「オラァァァァ!!すっぞラァァァァ!!」
「ひえ!ひぇぇぇぇぇっ!!」
あ、ちょっと想像しただけでありありとその情景が浮かぶ……。
「リコスとシャマは普通に怠けてゆっくり進んでいそうですし……。」
「確かに、あのお二人が勤勉に動く様子は想像がつきませぬ……。」
「あー、確かにリコスはツッコミ不在なら怠けるだろうねぇ~。」
その他の生徒たちでは実力的にここまでの攻略スピードは出せないだろう。
「……さて、それではそろそろ10階層に降りるとしましょう。
ここからは私も慎重に動こうと思います。」
「「「はい。」」」
オニキスは一回手を鳴らし、皆を促して10階層へと下りていった。
しかし、下りた先ですぐに彼らの足は止まってしまう。
10階層に下った彼らの眼前に今までとは違う光景が広がっていた為である。
今までの階層は、モンスターの気配はあったが、
あくまで普通の洞窟と言った空気であった。
しかし、この10階層は空気は淀み、
呼吸をするたび不快な息苦しさをもたらしてくる。
まるで生きとし生けるものを拒絶するかのような不快感であった。
更には何かの動物の死骸が腐ったような匂いが充満しており、
まともな整備もされず放置された墓所のような禍々しさを放っていた。
「あっはぁ~、これはまた何とも禍々しい。
月詠君、オニキス君。怖くなったら僕の手を握ってくれてかまわなぁいよ♪」
「……。」
直後、ディアマンテの手はゴツく大きい手にガッシリと掴まれる。
「……あっはぁー?その……ヴィゴーレ君?
男同士の友情も美しいとは思うがね。
思うにこう言うスキンシップは、
あまり友情のスキンシップとしては適当ではないと思うんだがね?」
「……。」
しかしヴィゴーレはディアマンテの腕を掴んだまま離す気配が無い。
心なしかその込められる握力が上がっていくようにすら感じる。
「……!!もしやヴィゴーレ殿は亡霊や武器な場所が苦手なので御座いましょうか?」
コクリと手を握ったまま無言で頷く巨漢。
「なるほど、それではディアマンテさん、
ヴィゴーレさんお事はおまかせいたします。
道は私と月詠で切り開きます。」
「えぇ~、ここは美しい女性たちに囲まれて、
キャーキャー言われる美味しい場面じゃないのかい!?
……っていててて!
ヴィゴーレ君!!力があ、ツヨスギィ!!あ、あ!!」
「……問題ない。俺は治癒が出来る……。」
「っちょ、人の腕握りつぶしながら治癒術かけるの止めてもらえないかね?」
どうやらディアマンテの腕の骨は断続的に骨折と治癒を繰り返しているらしい。
明日には超回復で骨太になった、
シオマネキの様なディアマンテが出来上がるかもしれない。
オニキスと月詠は申し訳ないと思いつつも、
あれの矛先がこっちをむいては堪らないと、先を急ぐ。
――少し進むと、オニキスたちを包む淀んだ空気に更に強い腐臭が混ざり始めた。
「不死者の気配、オニ様来まする。」
獣人の鋭敏な嗅覚を持つ月詠に促され戦闘準備を始める一同。
男性陣の手はつながれたままである。
そして、通路の奥からそれが姿を現す。
千切れかけた手足を引きずり、喉の奥より生者を妬む怨嗟の声を発し、
眼球を失い空洞となった眼窩にて生きとし生けるものを呪いながら睨みつける。
更に、その腐れ落ちた肉は腐臭を放ち、見たもの全てに恐怖と嫌悪を与える者……。
「ゾンビだぁね……。」
「ゴブリンが主だって出現していたダンジョンでゾンビ……?
何か違和感がありますね……。」
オニキスとディアマンテが、眉をひそめつつゾンビを確認した瞬間……。
「キィヤァァァァァァァ!!!!」
辺りに野太い悲鳴がこだました!
「いや、ちょっ待って!?ヴィゴーレ君!?千切れる!!
千切れちゃう!!なんか腕から出ちゃいけないものが出て来ちゃうよ!?」
悲鳴を上げつつディアマンテに縋り付くヴィゴーレ。
その腕をつかむ力は最早尋常ではなく、
捻りあげるその力はディアマンテに死を予感させていた。
「あぁぁぁー、やばい!!やばいよ!!なっちゃいけない音がするよ!?」
「……ディアマンテ……離さない……。」
「それ、君に言われても嬉しくないよ!?」
――取り敢えずオニキス達女性陣(?)は、いちゃつく男性陣を尻目にゾンビに切迫する。
「火剋金!」
月詠の符がゾンビに触れ、一瞬でそれを燃やし尽くす。
続けて現れた後続のゾンビも一瞬でその首を神凪に切断され宙を舞う。
完全にゾンビが無力されたのを確認し漸く緊張が説かれる、
と思ったが、ヴィゴーレの拘束は解かれない……。
「……すまん、それも燃やしてくれ……。」
……どうやら首を落とされ無力化しただけでは駄目らしい……。
――!?
その時月詠の耳がピクピクと動いた。
即座にオニキスの妹センサーが反応し、その姿を目ざとく捉える。
……カワイイ……。
「……ではなくて、月詠?何か聞こえたのですか?」
「オニ様、……多分人の悲鳴で御座います。
ッ……!また、あちらの方角から聞こえまする、
人数は一人……どうやら殿方のようで御座いますね。
かなり焦ってこちらに向かっているようです。」
「どうやら助けが必要な状況のようですね。
ヴィゴールさん、ディアマンテさん、動けますか?」
二人は一転真面目な表情で頷く。
あれだけ怯えていたヴィゴールも今は力強く頷いている。
流石Sクラス治癒術士生、非常時にはどんな心境でもすぐさま立ち直れるのは素晴らしい。
ディアマンテの服の裾を少しだけつまんでいるのは……まあご愛嬌ということで……。
「こちらです。」
月詠はすぐに駆け出し、その後を3人が追う。
徐々に声が大きくなり、月詠以外にも悲鳴が聞こえるようになった時、
目の前の路地から冒険者風の男が踊りだした。
「は、た、助けてくれ!!いきなりゾンビが。
……畜生、仲間が皆やられちまった!!」
男の背後からは複数のゾンビが、
そのうちの何体かはまだ新しく、冒険者の服装をしている。
恐らくこの男の仲間だったのだろう。
「……月詠、どうやらこの方のお仲間も混じっているようです、
燃やさずに鎮圧します、彼のお仲間は私に任せて下さい!」
「承知いたしました!」
男とすれ違いざまに神凪を抜き放つ、
そのままゾンビの首を居合で一閃し、
返す刀でもう一体の首を宙に斬り飛ばす。
後続のゾンビは、
破損具合から男の仲間の死体では無いと判断し、
後ろから月詠の符が焼き尽くした。
――「うわぁぁぁぁ、ヘレナ!!ロバート!!!」
戦闘が終了し、その場に転がる男の仲間の体に先程の男が泣き縋っていた。
何があったのかを聞きたかったが、仲間の死体にすがって泣き続ける男に、
そのような質問をする事は出来ず、そのまま暫くそっとしておくことにした。
「畜生。なんで奈落の洞にアンデットが湧いてやがるんだ!!
ここはゴブリンしか出ないはずなのに!!」
「……!? それはどういうことですか?」
男が落ち着いてこちらに話しかけてくるまで、
そっとして置くつもりだったが、
聞き捨てならない情報が耳に入り、思わず声をあげてしまった。
「あ、す、すまない、助けてくれてありがとう。
仲間が殺されてしまって気が動転していたんだ。
礼も言わずこんな姿を……申し訳ない。」
声をかけられたことでオニキス達の存在を思い出し、
男は慌てて謝辞を述べてきた。
「いえ、当然のことをした迄です。お仲間の事は大変ご愁傷様でした。」
「いや、ありがとう。
君たちのお陰で、少なくともこいつらを弔ってやることが出来るよ。
俺の名前はミルコ、この二人とPTを組んでいたレンジャーだ。」
「私はサントアリオ学園の生徒でオニキス=マティと申します。
ミルコさんの御心中察するに余りありますが、
今仰っていったお話を詳しくお聞きしてもよろしいですか?」
ミルコはオニキスの言葉を聞き、即座に冒険者の顔になる。
これにオニキスは少し驚き、そして感心した。
流石プロの冒険者である、たとえ下級冒険者と言えど、
こういった場合は即座に気持ちを切り替え、冒険者として使命を全うするのだなと。
常に死の危険と隣り合わせの彼らにとって、
危険地帯での情報共有は何よりも重要であり、
彼は今仲間の死よりもその氏名を優先させているのだ。
「学生さんか……と、言うことは、
時期的に考えて君たちはまだダンジョンに潜るのは数回目と言う所かな?」
「はい……。」
「まあ、それでも聞いたことはあると思うんだが、
基本的にダンジョンという物はそこに生息するモンスターに一貫性があるものなんだ。
奈落の洞の場合はゴブリンなどの亜人種だな。
そもそも学園の授業で使われるようなダンジョンに、
アンデットなんかが出現するわけがないんだ。
奴らは強さだけならゴブリン並だが、
噛み傷を負った状態で絶命したものは皆アンデットになってしまう。
死んだ仲間がそのまま敵の勢力になるのだから、
その危険度は新米冒険者や学生には手に余る……。」
全員が頷く。
「確かに10階層以降の階層は奈落の洞と言えどそれなりに危険も増す。
と、言っても、ここはあくまで初心者向けと言われてるダンジョンなんだ。
少なくとも15階層までに危険なモンスターは居ない。
俺たちも今日は小遣い稼ぎにゴブリンを狩りにここに来ていただけなんだが……。」
「……何故か10階層がこのような状況になっていたと……?」
「……そうだ……くそう、ツイてねえ。
……ロバート……ヘレナ……。」
ミルコは頷き力が抜けたように座り込んでしまった。
「取り敢えずこれは異常事態と言うやつだねぇ。
僕はここで撤退するのが良いと思うよーお?」
「妾もそれが良いと思いまする。
他の生徒がこの層に入るのも危険と思います故、
このまま引き返して後続にこの事を伝えるべきかと思いまする。」
「では、私達と一緒に5層の転移門から脱出しましょう。
ミルコさん、よろしいですか?」
「ありがとう、恩にきるよ。
あと、すまないんだが仲間の遺体を持ち帰ってあげたいんで、手伝ってもらえるかな?」
「ディアマンテさんとレンジャーのミルコさんがいざという時動けないのは困りますね、
ヴィゴーレさんは……あー流石に可哀想ですね。
それでは私がお一人運びますので、もう一人は大変かもしれませんが月詠、
お願いして良いでしょうか?」
「月詠におまかせ下さいオニ様。
妾こう見えて中々に体力があるのですよ。
それに、妾とオニ様であれば両手が塞がっていても対処が容易いですからね。」
ヴィゴーレは心底申し訳無さそうに謝り、
ミルコは感謝の言葉を並べ、全員でダンジョンの脱出準備に入る。
オニキスはロバートの遺体を背負い中衛を、
月詠はヘレナを背負いオニキスの横につき
ヴィゴーレ、ディアマンテは前衛を、
殿にはミルコの並びで脱出を始める。
9層への階段までは特に何もなく、安全に9層に戻ることが出来た。
警戒しきっていた一同は取り敢えず安堵のため息をつきながら、
一応の警戒を解くことが出来た。
「良かった、どうやら異常があるのは10階層以下だけのようですね。
このまま5階層まで向かいましょう。」
「ええ、良かった。
この分なら何の問題も無さそうですね。」
「……本当によかったッスよ……。」
そう言いながらミルコの口が三日月の形に割れるのだった……。
お詫びというわけではございませんが何時もよりほんのちょっと長めで御座います。
なるべく更新頻度もあげたいのと思っていますのでこれからもよろしくおねがいします。
今回後半ちょっと暗いかなとおもったので前半はバカどもがバカやっておりますです。




