第零話 プロローグ
はじめまして、ドブロッキィと申します。
普段は漫画描きなのですが、
なろうが楽しくて楽しくて生まれて初めて小説書いてしまいました。
初心者ですのでお見苦しい文章とは思いますが、
読んでいただければ幸いです。
聖サントアリオ学園。
サントアリオ聖王国最大の学び舎にして、隣接する各国の魔王に対する切り札、
”賢者”や”聖女”更には”勇者”などを多く排出した名門校である。
春の到来を告げる花、桜の薄紅色の花吹雪の中、
すれ違うものすべてが目を引かれるほどの美少女が佇んでいた。
「ふぅ……。」
黒曜石を思わせる黒い瞳、濡羽色の黒髪は彼女の動きに合わせ柔らかに揺れる。
整った目鼻立ち、まさに完成された”美”その物とも言える美少女。
しかしその顔にはありありと憂鬱な色が浮かび、本日何度目とも解からないため息を吐く。
「なんでこんなことに……。」
新入生らしい真っさらな女生徒の服を着た”彼”は、
そう呟きながら校門の前で、再び溜息を吐くのだった。
その憂いの原因は1年前に遡る――。
**********
サントアリオ聖王国の西、川を挟み対岸にそびえる白亜の城、
魔王城フェガリカステロ。
魔王城なのに白亜、違和感を大きく感じる建物ではあるが、
そもそもこの世界においての魔王とは
人族の支配地域であるサントアリオ聖王国を除く国の王のことを指す。
つまり人族から見た異種族の王すべてが魔王であり、
その者が邪悪の化身かと言うと全くそのようなことはない。
しかし、それぞれの国が友好的なのかというと
その呼び名から想像できる通りあまり良好とはいえない。
サントアリオ聖王国を中心に、北に獣人の国クティノス。南に竜人の国レピ。
東には大森林が広がり、大森林を超えた先に鳥人の国フテロマ。
そして西に有角族の国フェガリがある。
中でもフェガリとサントアリオは50年前、先代魔王の時代に直接戦争を起こしているため、
今も国民の中には互いに対する敵対心が少なからず残っていた。
フェガリカステロの最奥、玉座の間。
そこに座す黒髪の少年。
フェガリカステロの城主、魔王 オニファス=アプ=フェガリである。
「……由々しき事態だ……。」
オニファスは誰にともなくそうつぶやき、横に控えているメイドを見つめる。
整ってはいるが感情の感じられない赤い目。
美しい銀髪をシニョンに結い上げメイド服をまとった女性。
年齢は10代といった感じだ。
「何を悩んでおいでなのですか?」
メイドは抑揚のない声で答えつつ小首を傾げる。
小首をかしげる仕草は可愛らしいが、表情に全く変化はない。
「サントアリオとの交易がほぼ途絶えてから早50年。
先の戦争にて互いに疲弊した後、
相互不可侵の条約を結び一応は終結したように見えるが終戦の宣言はしておらぬ。」
「それがどうかなさいましたか?」
「終戦をしていないのだから、
不可侵条約があるとは言え我が国と彼の国は今だ戦時中であるわけだ。」
「確かに、形式上は戦時中と言えなくもありません。
ですが先の戦争より50年、サントアリオの研究なども進んでいるのでは?」
「それがな、戴冠式の後に父上に現在のサントアリオの状況をお聞きしたのだが……。」
「はい。」
「面倒くさいので諜報など諸々後回しにしてたら50年経っておった。許せ!
まあ、あの勇者とその一味が攻めて来おったら脅威ではあるがのう、
50年も経っておればあやつももうババァじゃろうて、気にするでない。
また来たところで返り討ちにすれば良い。」
「……との返事を頂いたのだ……。」
ガハハと豪快に笑いながらとんでもないカミングアウトをされたのだ。
「わぉ……。」
今までは国家機密であるためにサントアリオの情勢や国力と言った話をしないのかと思っていた。
しかし、
戴冠を終え話を聞いてみると話をしないのでは無く話すほど調べていないだけということが発覚した。
確かに有角族の戦闘能力は他種族と比べて強力である。
その理由は彼らの角にあった。
彼らの角は魔力を全身に巡らせ筋力にそのまま上乗せすることができるのだ。
更に有角族の内包する魔力は他種族より圧倒的に膨大であり、
個人の戦闘力において有角族に勝てる種族などは居ない。
しかし有角族は基本的に警戒心というものが薄く、勤勉さに欠ける。
良く言えば……
非常~~~に良く言えば、平和を好むのどかな民族であった。
――悪意に満ちた言葉で彼らを評すれば、
楽観的な怠け者。
付け入る隙が多いカモ。
となる。
先の戦争はまさにそこを突かれサントアリオが攻めてきたのだ。
それを無策に無理やり力づくで押し返し、そのまま強引に本土まで攻め入り、
そのまま攻め滅ぼすでも征服するでもなく不可侵条約を結ばせたのだ。
まぁ、そこまでは良い……とオニファスは溜息を吐く。
「その後、何もせずに50年放置するのはありえない!
なんで有角族と言うのはこうも楽観的なんだ!!」
「陛下、陛下も有角族です。ほら、笑って。朗らかに。」
そう言いながら指を自分の両頬に添え、グイッと口の端を上に持ち上げる。
……笑顔のつもりだろうか?
「万年無表情のお前に言われたくないよ!」
「陛下……怒りの表情……遺憾……。」
ガッカリと、口に出して落ち込む。
表情は相変わらず無表情である、表情筋が死んでいるのだろうか?
「とにかく、このまま何もしないのは不味い。
早速間者をサントアリオに送り込むぞ。
シャマ!早速人選を頼む。」
「え?間者と言われましても……今から育成するとなると10年以上はかかるかと。」
シャマと呼ばれた無表情なメイドは、
何を言ってるんだこの人は?と言った 表情でこちらを見る。
「はっ?」
「ですから、間者の育成となりますと……」
「いやいやいやいや!!」
「わが国の間者を送りこめと言ったのだが?」
「そのような者はおりませんので、育成から始める必要があるのは当然かと思うのですが?」
……。
ある程度ヒドイ予想はしていたがこれほどとは……。
今まで国の政事には一切触れさせてもらえなかった。
それはひとえに国家機密であるからだと思っていた。
いや、本当は薄々オカシイとは思っていたのだ……。
いくら何でも、もう間もなく戴冠というタイミングになっても、
国の運営や国王のあり方やその他もろもろの教育が成されなかったのだから。
それでも何かしきたりや考えがあっての事なのだと、
何か故あって父上はあえて私に何も教えてくださらなかったのだと思っていた。
いや、思いたいと思っていた……が……
今、完全に悟った。
あのオヤジは息子に知られたら叱られると思っていたのだ。
その証拠に戴冠式の翌日から父上の姿を誰も見ていない。
仕事を臣下に丸投げして姿をくらましたのだ。
「……我が国の戦力はどのような状態なのだ……?」
こめかみを抑えながらシャマに尋ねる。
「ご安心ください、我軍には鍛え抜かれし屈強な魔法戦士が大量におります。」
魔法戦士……有角族の特性に最も合った優秀な戦士。
それが大量にとは少し心強い。
「他は?他にはいかなる戦力がいるのだ?」
少し光が見えたので心が軽くなった。
魔法戦士は戦士と言うだけあって戦うことに特化しているが、
戦場においての汎用性は高い。
他のクラスと連携をすれば国防に於いては非常に頼もしい存在である。
「大量の魔法戦士です。」
「いや、魔法戦士はわかった。他の戦力はどんなかんじなのだ?」
「おりません。」
「は?」
「魔法戦士のみです。我が国民にもっとも適性があるのは魔法戦士ですので、
当然みな魔法戦士になりますね。」
なぜかちょっと誇らしげだ。
普段ほとんど表情なんか無いくせに何故かわかる。
この無表情はコイツのドヤ顔だ。
つまり、我が臣民達は適正を活かす方向に全力で突き進んでいるということか。
言い方を変えるなら、向いてることなら楽に習得できるのでそれ以外の道を選ぶ
理由は無いということだ。
気持ちは解るが……国民全員がその発想というのは些か恐ろしい。
いや……大変恐ろしい。
それでもこの国が滅んでいないのは単に個人の戦闘力の高さ。
この一事に尽きる。
「判ってはいた事だが我が国の国民は深刻な欠陥を持っているな……。」
お花畑の頭脳に強靭な戦闘力。
ある意味これはこれでいいのかもしれない。
しかし、サントアリオは我が国とは違う。
彼らは神の名のもとにすべての国の平定を最終目標と掲げている。
つまり彼らは立ち止まらない。
努力を怠らない。
目的に向かって躊躇わない。
50年の歳月。
これはひょっとするとすでに致命的なのかもしれない。
オニファスの背筋を冷たいものが流れた。
だからといって有角族のこれまでの行動を批難するつもりはない。
偉そうな事を言っても、
生まれてこの方ただの一度もこの問題に真面目に取り組まなかったのは自分も一緒なのだから。
「予も生粋の有角族であるのだよなあ……。」
できることなら争いなどせず、酒や茶などを楽しみながら
のんびり生きていきたいと、心の底から思う。
「だがそうも言ってられない状況だよなぁ……シャマ!」
「はいー。」
「これからサントアリオに 予、自ら潜入する。
相手の国力を図るのに良い施設の選別と、そこへの潜入方法をお前に任せたい。」
「おぉー、陛下やる気なのですねぇ。」
なんとも緊張感のない返事をしつつパチパチと手をたたく。
しかしシャマはこう見えて代々王家に仕える一族であり大変有能であるのだ。
「でもですね~、陛下自らが潜入というのは……あ、
いえ、素晴らしいお考えです。良い作戦だと思います。」
この時、一瞬何かを言いかけて急に肯定したシャマの企みに気がついていれば
後の悲劇は回避出来たかもしれない。
「陛下、潜入なさるなら是非聖サントアリオ学園にいたしましょう。」
シャマは満面の笑みでそう告げるのだった……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ご感想などございましたらいただけるとうれしいです。
書き溜めとかはしてないのでゆるゆる更新していくと思いますので、
気長にお付き合いください。