第十五話 新生○○少女
今回も日常回です。
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翌日の放課後、オニキスの姿は被服室にあった。
先日の魔法少女衣装を何とか改造しようと試みているのだ。
ありえないほどのロリロリしたそれは、
普段着としては論外ではあるのだが、これが困ったことに性能的には素晴らしい。
正直な所、角を出さずに大和と互角に渡り合えたのはこの服の力が大きい。
「とりあえずこのリボンはありえませんね……。」
一人ごちりながら魔法衣に大量にあしらわれているリボンをいじる。
あまり裁縫の類はやったことはないオニキスであったが一応の知識は持っている。
なのでやってやれない事は無かろうと思って被服室に来てみたものの……
「……全くやり方がわからない。」
少し泣きそうになりながらも何とかならないかと服を弄っていると、
オニキスの背後に人だかりが出来ていた。
「あ、あの、姫様?」
おずおずと一人の女生徒がオニキスに話しかける。
しかし、聞きなれない呼び名に当の本人は全く気が付かずに唸っているだけだった。
気がついてもらえないことに少し泣きそうになりながらも、めげずに女性とはもう一度話しかける。
「あ、あの、オニキス姫様。」
「え?あ、はい?え、姫???」
名前を呼ばれ振り向くと、
そこには、茶色い髪をお下げにし、ソバカスのある地味めな顔立ちのメガネの女の子が立っていた。
「その、オニキスは私ですが、その……姫様というのはなんでしょうか?」
一瞬、自分の正体がバレたのかと身構えてしまったが、
よくよく考えてみたら自分は王であって姫ではなかった。
ではなぜ姫なのかと頭を捻ってみると、
先日の模擬戦の折、観客席から響いていた歓声を思い出す。
「うぉおおおおぉぉぉ!!やったぁぁぁぁあ!!ヒーメ!ヒーメ!!」
「キィィヤァァァァァ!オネェサマアアァァァァァ!!」
あ、あれか……。
リーベもオニキスの事をお姉様と呼ぶが、
どうやら他の生徒達には姫様扱いを受けているらしい。
釘バットで筋肉ダルマをボコボコにしたと言うのに何故……。
軽いめまいを覚えつつ自然と彼女を無視する形になってしまったことを謝罪する。
「ごめんなさい、そう言う呼ばれ方をしたことがないので気が付きませんでした。
どうか気を悪くなさらないで下さい。」
「あ、あわわわわ、そんな、姫様!頭を上げて下さい。
私達が勝手にお呼びしているだけなのです。
姫様は何も悪くはないのです!!」
わたわたと手を振りながらもどうやら許してくれたらしいことにオニキスは胸をなでおろす。
「それで、何か私にご用でしょうか?えっと……。」
「あ、わ、私、Bクラス1年のヴェスティ=クライドゥングっていいましゅっ。」
勢い良く舌を噛むヴェスティ。
なんだかよく見る光景な気がする、頭をよぎる金髪巨乳の聖女見習いを振り払いつつ彼女の言葉を待つ。
「ご、ごめんなしゃい。姫様とお話できるのが嬉しすぎて噛んでしまいました。
ごめんなさい、ごめんなさい。」
ブンブンと激しく頭を振るヴェスティ。
傍から見たらいじめの現場に見えるのではないかと不安になってくる光景である。
慌てて周りの様子を伺うが既に周りにいた生徒は全員こちらに注目してしまっている。
「ちょ、ちょっと、ヴェスティさん、落ち着いて下さい。」
「うわわわわわ、ごめんなさいいいいい。」
更にパニックになる彼女を宥めつつ周りに誤解されてないかと気が気でないオニキスだったが、
周りに居た生徒は皆ヴェスティの知人であるようだ。
その為、
「ああ、またヴェスティか……。」
程度にしか思われていないのだが、
その辺が解からないオニキスは訳が解らないこの状況に泣きたい気分だった。
――
「すいませんでした、私パニックになっちゃうと何もわからなくなっちゃって。」
「いえ、大丈夫ですよ。ところで私に何か用ですか?」
「はわ、そうでした!!あの、姫様がその魔法衣を前に悩んで居られましたので、
何かお手伝いが出来ればと、あの、あの……。」
「お、落ち着いて下さい~。
あと、その姫っていうのは出来れば止めて下さい。」
「あ、すいません。私なんかが……ご不快でしたか?ごめんなさい。
あの、私。魔法とかそういうのはあまり得意ではないんですけど、
裁縫とかは得意ですので、もしよければご相談にのりたいとおもいまして。」
「いえ、不快と言う訳ではないのですが。
私は平民の出ですので姫と呼ばれるのは些か気恥ずかしいのです。」
引きつった笑みで答えるオニキス、これは本当に恥ずかしい。
「はぅ、姫様……。」
どうやらこの謎の呼名の変更は受け付けてもらえないらしい。
しかもなぜか変な顔をして息を乱している……。
流石に今の引きつった笑顔は印象が悪かっただろうか。
仕方ないのでそこは放置しつつ本題に入る事にする。
態々話しかけてくれた以上、彼女は恐らく裁縫に自信があるに違いない、
こういうものは優秀な人物に押し付けてしまうに限るのだ。
「それは態々ありがとうございます。
実はこの服なんですが、私が着るには少々可愛らしすぎると言いますか……。
正直派手すぎるので何とかしたいと思いまして。」
「そ、そんな。とてもお似合いでした!
ポーズもとても可憐で、素敵で。
私、あの姿を見た瞬間、失神してしまうところでした!!」
(やめてください、あのポーズは私の意思じゃないんです……。)
居た堪れない気持ちになりつつもヴェスティに服のデザインを変えたい旨を伝える。
「わかりました!姫様はリボンでフリフリの可愛らしいこの服をなんとかしたいとお考えなのですね。
おまかせ下さい、私が姫様にピッタリの服に仕立て直してみせます。
……それにしてもこの服、すごい力を秘めていますね。流石姫様の魔法衣です!」
この服の潜在能力を認識しているあたり、やはり彼女は優秀な人物であるらしい。
「本当にお願いしていいのですか?貴方も色々忙しいのではありませんか?」
オニキスの本音としては是非ともお願いしたいが、
見ず知らずの少女に丸投げというのも気がひけるため、一応の確認を取る。
――どうか断らないでくださいと全力の祈りを込めながら……。
「大丈夫です。
お裁縫は私の趣味ですし、部活も裁縫部なんです私。
姫様のお召しになる服をいじれるなんて、幸せすぎてどうにかなってしまいそうなくらいなんですよ。」
キラキラした目で服を抱きながらこっちを見つめてくるヴェスティ。
周りで遠巻きに見ている彼女の友人たちと思われる女生徒達を見ると、
彼女たちも興奮した様な笑顔で頷いている。
どうやら彼女達は本当にこの服をなんとかしてくれるつもりらしい。
「それではお願いしてもよろしいでしょうか?
来週のダンジョン探索授業までに仕上げていただけると助かります。
その代わりと言っては何ですが、私に出来ることでしたら何でもお礼いたしますので。」
「な、なんでも……!?」
ボヒュっと湯気を発したと錯覚するような勢いでヴェスティの顔が赤く染まる。
「で、できるだけ姫しゃまの魅力を引き出しつちゅ、少女趣味になりゃないように頑張りまひゅ!!」
すごい勢いで舌を噛みつつ作業にはいるヴェスティ。
周りに居た女生徒達も一斉にその作業のサポートを始める。
目に宿る熱が怖い!
呆気に取られていたオニキスではあったが、
ここに居ても作業の邪魔になってしまうので外に出て差し入れを買ってくることにする。
しかし、戻ってきた時には出来上がりを秘密にしたいとの事で入室はさせてもらえなかった。
オニキスは彼女たちのテンションに一抹の不安を抱えつつも、
自らの従者のような事にはなるまいと彼女たちに全てを任せて完成を待つことにした。
後にこの判断を後悔することになるのをオニキスはまだ知らない……。
――ダンジョン講習当日。
講習初日は校舎裏にある疑似ダンジョンでの講習とのことで、
今オニキスは更衣室にいた。
先日、魔法衣がついに完成したとヴェスティからの連絡があり、
オニキスは内心ワクワクしながら今日という日を待っていたのだ。
昨夜はそのせいで少し寝不足気味になってしまっているあたり、
魔王というより遠足前の小学生と呼ぶにふさわしい状態である。
「今日のオニキスちゃんは少し不気味。」
朝からニマニマしているオニキスを訝しげに見つめるシャマ。
そんな声が聞こえているのか聞こえていないのか、
鼻歌交じりに軽やかな足取りで更衣室に向かうオニキスは、
寝不足にも関わらず普段の3割増しの魅力を振りまいていた。
しばらく更衣室で待っていると、不意に更衣室のドアが開いた。
これ以上無いほど目をキラキラさせてドアを開けた人物を見つめる。
「オニキス姫様!お待たせしました。」
元気な声が更衣室に響き渡った。
声は元気だが目の下には隈が出来ている。
しかしその顔はやり遂げたものだけが持つ、強い輝きを放っていた。
周りを取り囲む女生徒達も押し並べて目の下に隈を作っている。
いったい何が彼女たちをそこまで駆り立てたのだろう。
ありがたいが少し怖い……。
「ヴェスティ、みなさん、おはようございます。
そんなに隈を作ってまで頑張ってくださったのですね。
ありがとうございます。」
自分のためにこんなに頑張ってくれた彼女たちに感謝しつつ品物を受け取る。
「性能は落とさず少女趣味ではないデザイン、
且つ、姫様の魅力を最大限に活かすように改造いたしました!
どうぞお収め下さい!」
シャマの眉がピクリと動く。
オニキスの性格上、ダンジョンに向かうからにはあの服を使う可能性は高いと睨んでいた。
魔王である以上超常の戦闘能力を誇る彼だがその性格は慎重なため、
戦いの場に赴くときは出来る範囲で最高の防具を持っていく傾向があるためだ。
故にこれからは度々キュートなフリフリリボンのオニキスちゃんを堪能できる!
そう思っていたのに、魔改造?冗談ではない!
「それではシャマ、私ちょっと着替えてきますね。」
勝ち誇った笑みを浮かべ個室へはいるオニキス、
無表情ながら僅かに悔しげにそれを見つめるシャマ、
個室のカーテンを閉めたオニキスは、
悠々とその魔法衣を身にまとうべくそれを取り出した……。
(――な、なんじゃこりゃぁ……。)
服を広げその威容を目の当たりにし絶句する。
確かに、以前の如何にも少女じみたフリフリリボンは取り外され、
黒を基調とした落ち着いた色をしている。
どうやら魔法で染色も行ったらしい。
しかし、そのデザインが問題だった。
黒を基調としたドレス型の魔法衣には、ふんだんにレースを誂えており、
全体に受ける印象はむしろ以前より派手な意匠となっている。
所謂ゴスロリである……。
しかも肝心のデザインのコンセプト自体は曲げておらず、
あくまでシックな感じになっただけの魔法少女衣装であった。
着たくない、心底着たくない……。
服を手に持ったまま葛藤する。
しかし、これを着ないというのは、
目に隈を作ってまで頑張ってくれた彼女たちにあまりにも失礼に当たる。
しかし、これは……。
動けずにいると物音一つしないオニキスを気遣って外からヴェスティが声をかけてきた。
「姫様、ひょっとして着付けの仕方がわからないですか?宜しければ私がお手伝いしましょうか?」
……とんでもない言葉が聞こえる。
服を脱いだ状態を見られては流石に誤魔化せない、
最早自分でこの服を着る以外に道はないようだ……。
「だ、だだ、大丈夫です。じ、自分で着でます。」
仕方なく覚悟を決めて袖を通す。
うう、髪飾りまで追加されている
……コレもつけないとヴェスティが悲しい顔をしそうだなあ……。
色々なものを諦め、開き直ってどんどん装飾品も装備していく。
目の前の姿見鏡には完全武装の女装男が映っていた。
オニキスの心が恐怖と羞恥で震える。
(ど、どうしてこんなことに……。)
泣きそうになったが、ここでうずくまっていても仕方がない。
怖気づくな、魔王だろ!!
「予は、誇り高き魔王。この程度の事でへこたれはせぬ。」
鏡の自分を見つめ、暗示をかける。
強き意志が瞳に宿った。
強い眼差しで自らを見つめ、その心を奮い立たせる。
よし!駄目だ、へこたれそうだ、うん。
さっさと出よう、出て楽になってしまおう。
(さあ笑え!このフリフリ魔法少女の予を笑うが良い!!)
あまりの恥辱に久しぶりに心の中では素に戻りつつドアを開け放つ。
まず目に入ったのは無表情に拍手をするシャマの姿。
個室に入ったときと違って今の表情はキラキラと華やいでいる
次に見えたのはオニキスを見て固まる女生徒達の姿だった。
……わかっていたがこの反応は辛い。
「それではダンジョン研修に参りましょう。」
開き直ったオニキスは凛とした声でそう言うと、
真っ直ぐ足早に部屋を出ていった。
一刻も早く皆の前から消えてしまいたい。
そう思っての逃避であるが、その姿は一見堂々としていた。
道すがら、すれ違う生徒たちが全員驚いたような顔をしてオニキスを見つめている。
恥ずかしがってももう遅い。
こうなった以上堂々とこの姿で練り歩き早く見慣れてもらおう、
そうして自分の事は日常に居る変なやつとして忘れてほしい。
そう祈りながら早足に歩くオニキスだった……。
次回も日常回ですが、
その次はいよいよダンジョンに潜ります。
ここからいろんな事件が起こせればなと思っておりますので、
見捨てないで下さい!!
あと初の感想頂きました!!
嬉しくて失神しそうでした。
凄く励みになりましたので今日も行きていけます。٩( 'ω' )و




