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第十四話 バレちゃった正体と美味しいお肉の幸せ

バトル続いちゃったので息抜き回です。

14





 ――疲れた。


 鳴り止まないの拍手の中オニキスは一人、低いテンションでそんなことを考えながら控室へと向かう。


 オニキスが控室に戻るとそこには、

笑顔の月詠と、仏頂面の大和と、無表情なシャマが待っていた。


「オニ様、とても素敵で御座いました。あに様如きでは相手にもなりませぬな。」


「月詠ぉ、居負けたばかりの兄貴の傷口に塩摺りこむみてえなのは人としてぇどうなんだぁ?」


 可愛らしい笑みを浮かべながら実の兄に暴言を吐く月詠。

この娘は普段は礼儀正しい良い子なのに、

何故、実の兄とシャマには当たりが強いのか……。


 当の大和はと言うと負けてはしまったものの然程ショックはないらしく、

表情は不貞腐れているようだが、意外とその態度は明るいものだった。


 オニキスとしては久しぶりの再会がこんな形になってしまったので非常に気まずい。

 と言うか、正直今すぐ消えて無くなってしまいたい気分なのである……。


「おめぇ、オニファスだよなぁ?」


 さすがの大和もここに至っては、

ほとんど確信を持っているが念のため確認をとる。

オニキスはその問に無言で頷くことで答えた。


「ぐぉぉぉ、やっぱりそうかぁ、実は双子の妹とかじゃねえのかぁ……。」


「故あってこんな形でサントアリオの学生をしているんです。

その、色々すいませんでした。」


「その口調もぉ、なんだかきもちわりぃなあ。まぁ、なんか理由があるならしかたねぇけどよぉ。」


 どことなくしょんぼりした感じの表情は恐らく奇妙な失恋のショックが未だに抜けないためであろう。

 これには流石にオニキスも自分の責任を感じずにはいられない。


「その、許してもらいたいからってわけではないのだけど、

今夜は私が奢りますので月詠も連れて晩御飯を食べにいきませんか?」


 ニコリと微笑みながら大和に話しかけるオニキス。

その可憐な笑顔に不覚にも大和の心が大きく弾んでしまう。


「ぐおぉぉおおぉぉ、りゃぁぁぁぁああぁぁ!!!」


 突然壁に向けて頭を叩きつける大和。

 突然の事に理解が追いつかない一同。

大和の頭部からは噴水のように血が吹き出していた。


「や、大和?大丈夫です……か?」


 突然乱心した友人を気遣ってオニキスが近寄ると、全力で距離を取る大和。


「な、なんでもねえ!!!慣れるまでぇはぁ、俺様に近寄るんじゃぁねぇ。」


「なるほど、確かに幼馴染の男がこんな格好していては気色悪くて慣れるまでは近づきたくないですね。」


「そ、そういうわけじゃぁねぇんだがなぁ。

しばらく寄らないでくれるとたすかるぜぇ……。」


 流石に友人にこんな態度を取られるのは傷つくが、この場合原因は自分にあるので仕方ない。

オニキスはそんなことを考えていたが、シャマだけは何かを察したらしく、

その目をキラキラとさせていた。


 もう遊び終わったと思った玩具が、思ったより長持ちしそうな事への喜びの気配を感じる。


「それでしたらあに様はお留守番をなさいませ。妾一人オニ様とお食事に行きます故。」


 いつの間にか横に来ていた月詠は自然な動作でオニキスの手を取りながらそんなことを言っていた。


「く、泥棒猫……犬?油断も隙もない、その手の速さは正に発情犬……。」


 シャマが悔しそうにしているような気がする。が、表情からは察せない……。


「とりあえず、ウチの学校の友人にも声を掛けるから、

夕方になったら正門前に集まろう。良い店があるんですよ。」


「オニ様のおすすめ……それはとても期待がもてまする!」


 月詠は嬉しそうにシッポを振りながら微笑んでいる。

大和は……まだボーっとしてるな。


「大和もよかったら是非来てくださいね。」


 大和に笑顔でそう言うと、目が合った瞬間に大和の頭から先が地面に埋まった。

自ら床に叩きつけたらしい。


 (大和!?試合中の打ちどころが悪かったのでしょうか?)


 流石に友人の奇行が心配になったが、

早く誘いにいかないとリコスとリーベに声をかけられないかも知れないので、

とりあえず放置して部屋を出ようとすると、控室の扉がノックされた。


「オニキスお姉様ぁ、いらっしゃいますかぁ?」


 間延びした声とともに扉を開けて顔を見せたのはリーベだった。


「あ、リーベ、丁度良かった。今貴方を呼びに行こうと……」


 言い終わる前に扉が大きく開かれ何かがオニキスに飛びかかってきた。


「うっひょぉぉぅ!!オニキスちゃぁぁぁん、さっきは凄かったよ。

あまりに凛々しくて、僕の乙女心が”じゅんっ”て濡れ濡れになっちゃったよぉ!!!」


 どうやらリコスの乙女心は世間一般とはちょっと違う仕様らしい。

 そのまま抱きついて顔中にキスをするリコス。

 慌ててそれを回避しようとするも、信じられない素早さと、

巧みなフェイント等によって全く回避できない。

 月詠が必死に引き離そうとしているが、これまた信じられない力で外せそうもない。

リコスの力は今、人間の限界を超えているようだ。


 結局リコスの気が収まるまでキスの嵐を受け続けるはめになってしまった。

 ジト目でツヤツヤの顔色になったリコスを睨むが、

彼女はまったく悪びれた風でもなく、


「ごちそうさま!」


と満足そうに微笑むのだった。


 その笑顔だけは実に爽やかで完璧な王子スマイルなのが腹立たしい。


 一応口にはキスせずに頬にしかしてこないのがリコスなりの気遣いであるらしい。

された方にとってはそんな事は全く関係ないわけなのだが。

 キスの嵐の精度の高さに関しては


「こう見えても僕は元Sクラスの剣士だったからね!」


 と、自信満々に胸を張られてしまった。

剣技とキスはあまり関係ないと思う……。


 リーベは突然の事態に頭がついていかず両手で手を覆っている。

が、その指の間からはしっかりと目の前で行われた情事を凝視していた。


 リコスを引剥し、むっつりなリーベにため息を突きつつ服装を整えたオニキスが二人に話しかける。


「と、とりあえず、これからここに居る天津國兄妹とリーベを誘ってご飯に行こうと思っていましたので、

呼びに行く手間が省けました。リーベ、この後の予定は大丈夫ですか?」


「はい、是非ご一緒させてくださいお姉様!」


「ちょ、ちょっとオニキスちゃん!?ボクを居ないものとして扱うのは止めてくれないかな?」


 リーベとオニキスの間にリコスは立っているのだが、

オニキスはそんなものは居ないとばかりに直接リーベに話しかける。


「わかったよ、悪かったてばぁ、ボクもちょっとやりすぎたよ。

だから無視するのはやめてくれよ~。」


「……ふぅ、わかりました。今回だけは許してあげます。

でも、次同じようなことをしたらもう許しませんからね。」


 しょうがない人だなと、笑顔で謝罪を受け入れてくれたオニキスに、

再び乙女心がじゅんっと大洪水になりかけたが、

これを理性で押し込め必殺王子様スマイルを浮かべる。


「それではお詫びとして、リコスさんにはまたおすすめのお店を紹介してもらいましょう。」


「まっかせてよ、クティノスからの可愛いお姫様に満足していただける最高の店にご招待するよ!」


 そう言いながら今度は月詠の手の甲に口づけをしようとするリコス。


「月詠、死なない程度になら燃やしちゃっていいですからね。」


「かしこまりましたオニ様。」


 ――……こんがりと焼かれたリコスをリーベが治癒し、一同は食事に向かうのだった。


 大和は先程のオニキスの笑顔を直視してしまったため今はまた頭を地面に埋めている……。




 ――――――




「それでは改めましてぇ、親善試合お疲れ様でしたオニキスお姉様。」


 ワインを片手にリーベが祝杯の音頭を取る。

カチンとグラスの触れ合う音のあと、目の前の料理へとフォークを運ぶ。

 皆が食べ始めるのを確認してからリコスが説明を始める。


「今日はクティノスからのお客様をお迎えしているからね、

正当なサントアリオ風のコース料理が美味しい店を選んでみたよ。」


 今回の食事会の会場は大通りに面した高級感のあるお店だった。

”鶫の止り木亭”とは違い、格式の高そうな店構えであり、

庶民がはいるには些か緊張しそうな店ではあったが、

今日のメンバーは聖女の娘、魔王、その従者、クティノス王子、王女、さらには謎の学園王子である。

 流石にこういった店だからと尻込みするものは居なかった。


 いや、約一名王子(ばんぞく)も居るので、マナーに関しては不安が残るが。


 心配になったので横を見ると、月詠は卒なくナイフとフォークを使いサラダを口に運んでいる。

オニキスの視線に気が付くとニコリと微笑みながら見つめ返してきた。


 ザワッ!!


 突然逆側の席から恐ろしい殺気があふれる。

 驚きそちらを見ると、

其処にはいつも通りの表情を浮かべたシャマがサラダをモクモクと咀嚼していた。


 何か凄まじい殺気を感じた気がするけど気のせいか?

オニキスが首をかしげるが、その横で月詠はシャマをジト目で睨んでいた。


 大和はそんな二人のやり取りに、ため息を付きつつ牡蠣にレモンを絞る。

口の中で十分に味わい飲み込んだ後に甘みの少ない白ワインを流し込む。

 意外にもその姿は洗練されており、普段の蛮族のような振舞いはなりを潜めていた。


「くっは、ダメだぁ、ワインは。

やっぱり生牡蠣にはクティノス酒のほうが合うなぁ?」


 前言撤回、やっぱり大和は大和だった。


「そう言えばお姉様、来週からはダンジョン講習も始まるのはご存知ですか?」


 剣呑とした空気を払うように笑顔で話しかけてくるリーベ。

しかし、その内容には聞き慣れない単語が含まれていた。


「ダンジョンというと、あのダンジョンですか?」


 ダンジョンとはこの世界に何箇所か存在する遺跡や洞窟などが、

長い年月を経てその内部に魔力を蓄積し、変質したものである。

 その内部は元々の地形からかけ離れ、内部には魔物が溢れ、場所によってはトラップなども発生する。

その代わりダンジョン内部にもともとあった物は、その濃厚な魔力を宿し、

大概はその性能を飛躍的に向上することになるため、

探索者と呼ばれる職業の者たちが一攫千金を求め、危険を顧みずダンジョンに潜っていく。

 遺跡がダンジョンであった場合はその遺物に魔力が宿り、

洞窟や鉱山などのダンジョンなら鉱石に魔力が宿るのが一般的だ。


 しかし、それら元々あったものが変質する以外にも、

ダンジョンには極稀に”ギフト”と呼ばれる箱が現れることがある。

 通路に突然現れたり、魔物が死んだ後、その死体から発見されたりするそれは、

そのダンジョンとは何の関係もない武器防具やアイテムが収納されている。


 このギフトに関しては諸説あり、

研究者が様々な議論をしているが、その発生の原因も、

中から出てくるアイテムの出処も全くの謎に包まれていた。


 ギフトから出現するアイテムの性能は大概が凄まじく、

これを手にすることが探索者たちの夢と言っても過言ではない。


 また、内部の魔物が増え過ぎたり、魔力が淀んで溜まり過ぎたりした場合、

強大な魔物が生み出され、ダンジョンから魔物が溢れてしまう事故が起きることがあるため、

冒険者にはダンジョン内の魔物討伐依頼が定期的に依頼される。

こうして入り口からの出入りと魔物の間引きにより、魔力の淀みは解消されるらしい。

これは冒険者の安定収入としてポピュラーなものなのである。


 今現在世界各所にダンジョンは存在するが、

殆どのダンジョンは最深部までの踏破はされておらず、

その最深部がどうなっているのかは謎が多い。


 謎も危険も多いダンジョンではあるが、その利益も非常に多く、

冒険者を目指すものにとっては馴染み深いものなのであった。


「はい、サントアリオの卒業生は、

殆どが騎士や宮廷魔術師などの所謂エリート階級の職業を目指しますが、

多くの生徒は最終的には冒険者などに就く場合が多いですからね。」


 なるほど、確かにそういうことであれば学生のうちにダンジョンの事を学ぶのは大切かもしれない。


「それで……そのぉ、お姉様さえよろしければ、

一緒にPTを組んでいただくことは出来ませんでしょうかぁ?」


 上目遣いでおどおどとPTの誘いをしてくるリーベ。

 前にも言っていたが、この娘はクラスで多少浮いてしまっている存在なので、

こういった誘いなどをするのは初めてなのだろう。


 オニキスはニコリと微笑むとその申し出を了承する。


「そうですね、リーベがそういうのでしたら是非一緒に行きましょう。」


 その返事を聞くとリーベの不安そうだった顔が花開くように明るい笑顔に変わる。


「はわぁ、感激です!あの、足を引っ張らないように頑張ります!

不束者ですが末永くお願いしましゅ……。」


 最後の方はなんだか嫁入りのような内容になっている上に舌を噛んでる。

落ち着いていれば聖女の名に恥じない見た目をしているのにもったいない……。

 オニキスがそんな失礼な評価を心の中で思っていると、

ふいに横から月詠が声を上げた。


「オニ様、妾たちも交流のためにこちらの授業を1ヶ月ほど受ける予定で御座います。

もし宜しければ妾もそのダンジョンにご一緒させていただきとう御座います。」


「そういうことでしたらシャマもご同行致します。

暗がりに乙女を野獣と一緒に放り込むわけにはいかないですから。」


 再び剣呑な雰囲気で見つめ合う二人。

一体何故ここまで合わないのか……。


「リーベ、人数は何人まで一緒に行けるのですか?」


「一応ダンジョン探索の授業は2~6人が推奨のはずですぅ。

もしよろしければここにいる皆さん全員で参加するというのはどうでしょうかぁ?」


 その言葉に月詠はニコニコ微笑みシャマは無表情に頷く。

 リコスは涼しい顔で微笑んでいる

が、そろそろ判るようになってきた、あれは情欲にまみれた目だ。

 ダンジョンでは気をつけよう……。


 大和は特に意見は無いようで、

運ばれてきたメインディッシュの牛フィレステーキに舌鼓を打っていた。


「それじゃあ来週は皆でダンジョン講習をしましょう。楽しみですね!」


 今までにない大人数での実践訓練に嬉しさで顔が緩むリーベを見て、

オニキスも来週が楽しみになってきた。


 ここの所なんだか疲れることが連続で起きていたので、

こういう緩やかな空気は楽しいなと思いながらステーキを噛みしめるオニキス


「あ、これしゅごいおいしぃ……。」


 ステーキを頬張ったオニキスの顔はリーベ以上に緩んでいくのだった……。




実際日常とバトルってどっちが読んでて楽しいものなんですかね?


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