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第十三話 俺様はソレを破ってみせる!!

ホモィなBL展開はしませんのでご安心して下さい。

13





「惚れたぞ、オニキス=マティ!俺の嫁になれ!!」


 ――頭の悪い宣言が聞こえる気がする。


 あぁ、今日は天気が良いな。

 こういう日はピクニックに行くのが良い。

おにぎりも捨てがたいけど、こういうときはサンドイッチも捨てがたいよね。

 オニキスの目は、従者のそれとお揃いになっていた。


「オコトワリイタシマス。」


 思考は現実逃避をし、表情は固まる。

しかし口だけは重要なその言葉を何とか紡ぐことが出来た、自分を褒めてやりたい。


「グハッ、だが諦めるわけにはいかねえ!!この勝負、オレ様が勝ったら嫁になってもらうぜぇ!!」


 勝手なことをほざいている。


「オコトワリイタシマス コロシマス。」


 言えた。頑張ってるぞ、私!

 オニキスの脳死した体は、それでも重要な言葉だけは伝えることが出来ていた。


「オニ様!その男は危険です、葬ってくださいまし!!」


「オニキスちゃん、その男はもう手遅れ。苦しまず止めを刺すのが優しさ……。」


 外野から声援も聞こえてきた。

 その他の生徒からも


「ふざけるな!!姫はやらんぞ!」「お姉様逃げてぇ!その畜生は私達で殺します!」


 などと物騒な声援が飛ぶ。


 ……そうだ、目の前のコレを浄化してしまわなくては。


「く、なんでぇ月詠までそっちの味方になってんだぁ?

あれかぁ?お兄ちゃんが他の女に取られる的なやつかぁ?うおっ!?」


 突然無詠唱で風の魔法が放たれる。

先程までと違い威力と速度が格段に早い上に首を狙って来た。


「くっそ!本気になりやがったかぁ。おもしれぇぞぉ?

それでこそオレ様の嫁だぜぇ!!

この試合が終わったら街でデートすっぞオラァ!!」


 興奮のあまり、月詠の”オニ様”と言う言葉も今の大和には聞こえていないらしい。

 当の月詠は大和の吐いた言葉に怒りの抗議をしているようだが、

乱入は認められていないのでリコスに取り押さえられている。

 

「勝っても負けても貴方とお付き合いはしません!」


 意識が戻ってきたオニキスはもう一度しっかりと拒絶の言葉を伝える。


 しかし、興奮した大和にはその声は届かない。

 もともと獰猛なその顔を更に獰猛な笑顔に変え、先程まで以上の速度で間合いを詰める。


「遠距離からじゃぁ、お前の相手はしんどそうだからよぉぉ!」


 足元を狙って水面蹴りを放とうとする、

が、その攻撃にオニキスは即座に対応した。


「甘い、土よ土よ其は万物を貫く槍となる、土槍(エアデランツェ)!」


 一瞬で高速詠唱が完成し、その術式を展開する。

 低い姿勢で回る大和の体に地面から凄まじい数の土の槍が迫った。


 だが、体が回転している途中にも関わらず即座に体を反らせ、

無理やりバックステップでそれを回避する。

 

 しかし、その程度のことはやってのけるのを読みきったオニキスは即座に追撃を入れる。


ていきゅうまほう(プロミネンスジャベリン)!」


 青い炎の追撃が高速で迫るが、これを大和は紙一重でかわす。

無理な体制ではあったが大きく躱す事はせず、ギリギリで躱し即座に反撃の体勢を作ったのだ。


 しかし、その武道家としてのセンスがかえって仇になってしまった。


 プロミネンスジャベリンの青い炎の温度は通常の炎の魔法より遥かに高く、

躱したはずの大和の体を容赦なく焼いていく。


「うぉあ!なんだこの炎、めっちゃ熱ぃじゃねえかぁ?」


「うーん、適当に作ったのにこの”ていきゅうまほう”本当に使い勝手がいいですね……。」


 軽口を叩きつつも火傷を気にすることも無く大和が迫ってくる。


 正直、角の力を使わずに大和と戦うのは非常に辛い。

 そのすさまじい突進力は軽い魔法では止まらず、

更には接近された時の戦闘力はオニキスの遥か上を行くのだから。


「其は敵を阻む鉄壁 炎壁(フランメヴァント)


 大和との間に巨大な炎の壁を作り無理やり間を作り瞑想する。

体の中に流れる魔力の流れを掴み、それを体に張り巡らせていく。


 先日のスクデビア戦で編み出した疑似有角状態だ。


 薄く目を開き、静かに魔力の流れを操作する。


「廻れ廻れ……。」


「しゃらっくせぇ!!」


 大和が炎の壁を力ずくで抜け、凄まじい勢いで迫る。

 体の至る所が焼けていはいるがダメージはあまり感じられない、恐ろしいタフネスだった。


 オニキスは体に力が行き渡るのを感じ、ゆっくり目を開き、目の前の大和を見据えた。


魔力循環(アフィプニスィ)。」


「ッ!?」


 直後、オニキスの存在が大きく膨らむような錯覚を覚え、大和が距離を置いた。

しかしその速度にピタリと張り付きオニキスが間合いを詰め、釘バットを鋭く頭に振り下ろす。

 とっさに手甲でそれを受け止めた大和だったが、ふいにオニキスが微笑む。


雷魔力付与(エンチャントサンダー)


「なぁっ!?」


 手にした釘バットが火花を散らしながら凄まじい電流を大和に伝えてきた。

打撃の衝撃は受け止められるが流石に手甲で雷は受け止められず、

まともにダメージを負ってしまう。


 よし、当初の予定通り釘バットで雄々しく戦うチャンスだ。

 オニキスの顔が更に笑顔になる。

 満面の笑みで無骨な鈍器を振り回し相手に雷を叩き込む、

この姿を見せれば全校生徒の印象も180°変わるはず、

そんな確信を以てオニキスは一気に攻めに打って出る。


 実際にはひらひらの衣装を翻しながら可憐な笑みを浮かべ、

雷魔力付与のせいで美しく輝くクォータースタッフを以て、

華麗な戦闘を行う魔法少女の姿にしか見えていないのだが……。


「くっそ、可愛いじゃねぇかぁ!!」


 怖気の走るようなセリフを吐かれ、オニキスの全身の肌が粟立つ。


「うーん、なんだかオニキスちゃんの正体を知られたらどういう顔をするのか、

凄く楽しみになってきましたね。」


 外野からワクワクと期待が伝わる物騒な声も聞こえる。

 とりあえず正体バラそうとしたらあの従者は燃やそう、そうしよう。


「オニ様!あに様は足を止められることを嫌がります!

足元を重点的に攻めてくださいまし!

出来れば毒などで回復を阻害して確実にトドメを刺されませ!」


「お前ぇ、兄を殺すアドバイスってぇのは人としてどうなんだコラァ!?

ん?オニ様??オニ、ああ、オニキスだからオニ様かぁ?

オニファスのやろうと混同するなぁ?紛らわしいぜぇ!!」


 ナチュラルに正体をバラすのも止めてほしい。

大和が単細胞なのでその呼び名を聞いても気がついていないようだが、

こっちも後でちゃんと言い聞かせておかないと不味い。


 て言うか、シャマがこの場に居て”オニ様”なのに正体に気が付かないとか、

こんな奴が王位を継いだらクティノスは滅びるんじゃないか?


「しかし、呼び名だけじゃなく、強さまであの野郎と近ぇ。

ますます惚れたぜ!おぅ、赤ちゃんは何人欲しいですかぁ?」


 少しテレた顔で悍ましいことを宣いながら連撃を叩き込んでくる大和。

 心の底から恐ろしい。


「だから、お前と、子どもは、いろんな意味で作れません!!」


 頭はオカシイが攻撃は鋭い。

喋りながコレを捌くのはなかなかに骨が折れる。

思わずオニキスの喋り方も素の部分が見えてしまっていた。

魔力循環を使ってなお、近接戦闘能力は大和が遥かに上のようだ。


「土よ土よ、其は万物を刺し繋ぎ止める楔となれ土槍(エアデランツェ)


 再び先ほどと同じ土槍(エアデランツェ)を発動させる。

だが、その詠唱内容は微妙に異なり、先程より細く発動したそれにはかえし(・・・)がついており、

大和の足を貫いた後にその場に繋ぎ止めた。


 ――これに反応したのは客席に居たグレコだった。

 驚愕の表情を浮かべ、その魔法を凝視する。


「詠唱内容の変化?そんなことが可能なのか?」


 初日のテストで見せた謎の魔法、

あれも常軌を逸した物だったが、

プロミネンスジャベリンはグレコの知らない魔法であったため、

その異常性もまあ納得の行くものだった。


 いくら教師といえど全ての魔法を知っているわけではないからだ。


 しかし、今目の前で発動した土槍(エアデランツェ)はグレコも知っているポピュラーな魔法である。

 だが、その効果と使用法は正に異常。

 詠唱その物を変化させて魔法の結果を変化させるなど聞いたこともない。


 呪文詠唱というものは省略することは出来るという話だが、

その内容を変化させては、普通ならば発動すらしないはずなのだ。


「学園長もこの試合は見ているはずだよな……これは後で相談にいかねばならないかもしれんなぁ。

随分面倒くさい生徒をうけもっちまったな、まぁSクラスならたまにある話だな……。」


 優秀というにはあまりにも逸脱した才能を見せる生徒にグレコは頭を抱えるのだった。



 ――クラスの問題児に頭を抱える担任の苦悩をよそに、戦いは更に激化していった。

 交差する拳と鈍器。

 2つは直撃はしないものの、互いの体をかすめていく。

直撃すれば一撃で試合が終わりそうな威力を持っていることは傍から見てても明らかだった。


 足を縫い止められた大和は、

それを無理やり引き抜いたために機動力に陰りを落としていた。

 しかしそれでもオニキスの動きにはしっかりと反応をしてくる。

獣人のタフネスには心底驚かされるものがあった。


 跳躍し、回転をし、激しく動くオニキス。

そのスカートは短く、激しく動く度に、その形の良い白い太腿が目を奪う。


「なんで、なんで見えそうなのにギリギリみえないの!!」


 血の涙を流しそうな表情でリコスが叫ぶ。


「ふふ、見えそうで見えない鉄壁。あの服を作る時最もこだわった部分です。

シャマはずっとオニキスちゃんを見てますから、

オニキスちゃんの動きでギリギリ見えないラインを計算し尽くしてあるのです。」


「そなたの変質的な愛情には、妾、毎回ドン引き……

はぁ、でもオニ様は、どんな姿でも美しい……。」


 無表情にドヤ顔をキメるシャマにドン引きする月詠、

しかし彼女の目線はオニキスの太腿から外れない。

 月詠はオニキスに対してのみ、酷いムッツリスケベなのだ。


「そろそろ、決めさせてもらいます。覚悟は良いですか?」


「おう、その後デートだなぁ!楽しみだぜぇ!!」


「しませんよ!?」


 お互いそろそろ体力の限界を感じ、次の一撃で決める覚悟を固める。


「正直、ここまで楽しめるとは思わなかったぜぇ?お前ぇ大したもんだぜ。」


「その賞賛は素直に受け取りましょう。

……私も貴方がここ迄強くなっているのは予想外でしたよ。」


 後ろの方は小声でつぶやく。

 何だかんだライバル的な関係の男が、

予想を超えて強くなっていたことがオニキスには少し嬉しかったのだ。


今の私(・・・)が放つ最大魔法、受け止めてみなさい!大和!」


 目を閉じ高速詠唱を始める。

隙だらけの状態だが、これを攻撃するような事を大和はしない。


 大和は戦争に来ているわけではなく、力と力を比べ合いに来ているからだ。


 やがて巨大な魔力が術式を構築し、巨大な岩が空中に現れる。

その大きさは舞台を埋め尽くすほどであり、逃げ場はなかった。

 普通なら絶望に染まる場面だが、大和はその顔を凶悪な笑顔で歪める。


「うぉぉぉ上等だ!!これを破って今夜は子どもつくるぞ!オニキス!!!」


「出来ればこのまま潰れて死んでください!!岩葬潰(ロッシュクレマシオン)!」


 巨大な岩を回避できないと判断した大和は足を開き大きなスタンスを取る。

正面からこの巨岩を砕くべく全ての力を込め、大きく輝くその拳を叩きつけた!!


「うぉぉぉぉぉ!!この術破って、お前の膜も破る!!獅王天鳴拳!!」


 最低な掛け声で放たれた技だったがの威力は凄まじい。

高速で落下する巨大な岩、最早小山とも呼べそうなそれと大和の拳が拮抗していた。


 しかし、大和の方は生身の体である、毛細血管が次々破裂しその腕が悲鳴をあげる。

 凄まじい力が大和を襲った。

 普段の大和であればとうに力突きていたかも知れない状況だった、が、今の大和は愛の戦士。

 通常ではありえない執着により、限界を突破した力を発揮していた。


 ――しかし、この魔法、何処かで食らった覚えがある……。

 大和の中に何かが引っかかる。

 この魔法岩葬潰(ロッシュクレマシオン)は、たしか、”アイツ”が……。


 その時、大和の頭の中で何かが繋がっていく。

岩を拳で受けながら目の前の美しい少女を凝視する。


 髪型は変わり、眉毛は細くなり、顔には薄く化粧もしている、

だが、忘れもしない、その顔は……。


 そして場外に居るあの無表情鬼畜女に目を向ける。

 そこには、指で口角を釣り上げ満足そうに笑う死んだ魚の眼があった。


「うぉぉぉぉぉてめええええええ、オニファスじゃねえええええかあああぁぁぁぁぁ!!!」


 愛の力は霧散し、そのまま岩に押しつぶされる哀れな大和……。

 その瞬間、この激闘の勝者が決まった。


「勝者!オニキスちゃん!!流石僕のお姫様だ!」


「うぉおおおおぉぉぉ!!やったぁぁぁぁあ!!ヒーメ!ヒーメ!!」

「キィィヤァァァァァ!オネェサマアアァァァァァ!!」


 轟く轟音。会場内の全員が勝者に拍手を贈る。


 誰もがオニキスの勝利を祝福する中。

勝利の余韻も喜びもなく真っ青な顔色で脂汗を流す可憐な魔法少女と、

それを眺めながら心底嬉しそうな従者、

それを潤んだ瞳で見つめる狼耳の少女は、全く別のことを考えているのだった……。







 ――「あれは……オニファス?ふふ……相変わらず何やら面白いことをしているみたいだね。」


 会場から少し離れた部屋から、

嬉しそうに笑う女性が遠見の術でそれを眺めていた……。



当初オニキスが策を張り巡らして、

頑丈な大和を炎の魔法と結界で一酸化炭素中毒に誘導して勝利する話を5000字ほどで書いていたのですが、親善ののしの字もない展開と卑怯すぎる勝利に慌てて書き直しました……。

投稿遅れちゃったのはそんな理由です!!ゴメンナサイ。

あとキャラ紹介に月詠のイラストのせました。

よかったら御覧ください。

今回はラフじゃないです。

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