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第十一話 模擬戦前日 食堂にて

キャララフを徐々に描いていっております。

こちらはTwitterなどで告知いたしますのでよろしければ御覧ください。

全員のラフ描いたらフルカラーでちゃんとしたものも描いてみたいな。

11




 月詠との再会を果たした翌朝、明らかに寝不足の顔をしながら、

お稲荷さん仮面ことオニキス=マティは朝食を取っていた。

 昨日、知人に女装姿を見られるという最悪の事態に混乱し、

一晩中布団の上でゴロゴロとベッドで悶ていたためだ。


 置き去りにしてしまったリーベにも後で謝罪しなければ。


 それにしても久しぶりに二人を見たな。

前に会ったのは4年前にクティノスで舞踏会をした時だったか……。


 ふたりとも随分大きくなっていたな、

いや、大和はでかくなりすぎだな……。


 ――クティノス獣人国

 極寒の北地、白銀の国などと称される北の大地にある巨大国家である。

 その厳しい大地に鍛え抜かれたクティノス人は、押し並べて強靭な体をしており、

魔法に頼らずともその体一つで厳しい大自然と渡り合う。

まさに野生の獣の様な強靭さを持った人々の国であった。


 隣接するサントアリオ聖王国、フェガリ王国との国交はそれなりに上手く行っており、

サントアリオ聖王国が唯一、多少なりと言え国交を持つ珍しい国である。


 フェガリ王国に関しては更に繋がりが強い。

特に、この二国の王家の関係は非常に親密であり、

決して切れない絆で結ばれていると両国王が言うほどだった。


 大和、月詠の兄妹も第一王子とともに度々フェガリカステロを訪れており、

オニファスやシャマとも頻繁に遊ぶ仲であった。

 第二王子の大和は同年代の子どもがクティノス王家や貴族に居なかったこともあり、

オニファスには特別な意識を持っていた。

 そして、事あるごとに勝負を挑んでは大抵無視をされ、

怒りで冷静さを失いそのまま返り討ちにあうといったことを繰り返していた。

 オニファスも同年代の同性は大和くらいしか居なかったので、

特別な友情を感じていた。


 オニファスとしては、勝負などせずに普通に過ごしたいと思っているので、

二人の間にはどうにも埋まらない温度差が存在しているのが悲しいところだ。


 月詠はそんな二人の後をいつも追いかけてきては、

男の遊びに女が混じるなと、大和に追い返されて泣かされていた。

 そういった時は、必ずオニファスが庇い一緒に遊ぶことになる、

泣いた月詠を泣き止ませるのは何時でもオニファスの役目であった。


 ちなみにシャマは気がつくといつの間にかそこにおり、

大和に追い返させる隙を一切見せずに、

いつの間にか遊びに混ざる特技を習得していた……。


 謎の従者である。


 その従者が今食堂にて、オニキスの目の前の席に座りきつねうどんを啜っている。

 しかも、何故かお揚げマシマシ増量である。


「おはようございます、シャマさん……。」


「おはようございます、オニキス仮面ちゃ……オニキスちゃん。」


 お稲荷、お稲荷、コンコンコンなどと適当な歌を口ずさみなが、

これ見よがしにお揚げを頬張るシャマ……。

 ……コイツ、見てやがったか。


「――正体を見られる訳にはいかなかったので仕方なくの作戦ですよ。

何も好き好んであんな恥ずかしい格好をしていたわけではありません。」


 少し不機嫌そうに朝食のフレンチトーストにナイフを通す。

 学園の食堂の人気朝食フレンチトースト。

表面はカリッと焼けており、パンの中までたっぷりと玉子が染みている。

牛乳の他に少量の生クリームを入れてあるので非常に濃厚なコクがあり、

口に含むととフワっとした食感のあとにフルフルと心地良い舌触りを感じさせてくれる。

 口に広がるコクのある甘みと、バターの香りが寝ぼけた頭に心地よい。


 サラダとフレンチトーストを味わいつつ、濃いめに入れた深入りのコーヒーを口に含む。

これぞ朝食、と言った完璧な献立である。


「優雅に取り繕っていますが、あんな面白恥ずかしい仮装を披露したにも関わらず、

即、正体を見破られていましたよね?」


「うぐっ……。」


 居た堪れない気持ちになり、食事の手が止まる。


「あのメス犬は放って置いてもどうせすぐに大和が助けに来るのですから、

見て見ぬふりをして捨て置けば良かったのです。」


「メ、メス犬って……。」


 シャマの毒舌に思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 普段、めったに他人に対して暴言を吐かないシャマであるが、

どういうわけか月詠に対してのみ常に刺々しい敵対心を見せるのだ。

 大和に対してはもう少し柔らかく暴言を吐く……。


 月詠も月詠でシャマに対して普段の通り丁寧で穏やかな物腰で話すのだが、

どういう事か普段と同じ言葉であるにも関わらず、何か剣呑な空気が流れるのだ。


 シャマと月詠、幼少の頃より常に一緒に遊んできた二人であるが、

その様は正に水と油、決して交わることのない敵対関係であった。


 その原因は脳筋の大和ですら察しているのだが、

原因(オニキス)だけは全く理解できておらず、

常に首を傾げては、

空気を読まない行動を取る事によって大和の寿命と精神をゴリゴリ削っていくのだった……。


 大和がオニキスに勝負を挑み続ける原因はここにもあるのかもしれない。


「そもそもあのメス犬は、

オニキスちゃんが如何なる姿をしていても、

あの浅ましい嗅覚を持ってすぐに正体に気がつくに決まっているのです。

それなのに不用意に近づくなんて。

正体を感づいて下さいと自ら首を差し出すのと同じです。」


「ん? クティノス人は聴覚は鋭いですが、嗅覚は我々と変わらないはずですよ?」


「クティノス人の嗅覚はどうでもいいのです。

あのメス犬のオニキスちゃんに対しての限定能力のお話です。」


 いつものように無表情で淡々とした喋り方ではあるが、

その声には明らかに剣呑な空気が含まれており、

ただでさえ寝不足のオニキスの精神が理不尽なストレスで削られていく。


「どうして貴方達は仲良く出来ないのでしょうか……。

昔からずっと一緒に育ってきた友達だと言うのに。」


「オニキスちゃん。ゴキブリはずっと人間と一緒に暮らしてきましたが、

彼らが友人になることも、愛されることはありません。それと一緒です。」


 膨大な量のお揚げをもくもくと食しながら幼馴染をゴキブリ呼ばわりするシャマ。

 そもそも食事中にゴキブリの話をする女子はどうなのかと思う。


 そんなことを考えながらコーヒーの香りを楽しんでいるときだった。


「オオォォラ!いい朝だなオィィ!!メシの時間だオラァッ!!!」


 勢い良く扉を開く音とともに食堂に蛮声が響き渡る。


 この王族として最高水準の英才教育を受けたにも関わらず品格の欠片もない蛮族のような声は。


 クティノス獣人国 第二王子 ”天津國 大和”!


 どうやら明日の模擬戦のために前日からこの学園に泊まっていたらしい。


 考えるより早くオニキスは懐からお稲荷さん仮面を取り出し装着する!

変身ヒーローもかくやと言う早業であった。


「オニキスちゃん、それずっと持ち歩いているんですか……。」


 シャマの呆れた視線が痛い。

しかし、今回の件に関してはこれを持ち歩いていたのは大正解だったと言える。


「んぉ、そこに居るのは昨日の狐野郎じゃねえか!

 ん?女だから……じょ、め、女郎?」


「ッ見つかった!?」


「そんなお面つけた人間が食堂に居たら、

そりゃみつかりますよ、お稲荷さん仮面ちゃん……。」


 こんな話をしている間に、

大和は素早くビュッフェから山盛りの朝食(肉)を皿に盛ると、

ずかずかと隣の席にやってきた。


「いやー、奇遇だなぁオイィ。

その顔、忘れてねえぜ!昨日は世話になったなぁ。」


 隣の席だと言うのに声がでかい。

機嫌の良い大和はその機嫌に比例して声がでかくなる。


「いきなり居なくなるからよぉ、礼をいいそびれちまったぜぇ!」


 笑いながらバンバン肩を叩かれる、

左肩だけなで肩になってしまいそうな衝撃が辛い……。


「山犬、朝から煩い。TPOわきまえない獣は朝食を食べる資格を持たない……。」


 突然かけられる底冷えするような声に、

真っ青な顔になった大和が声の主の方を向く。


「げぇっ シャマ!!」


「数年ぶりに会う友人に対する挨拶がそれ?

……久しぶりね、大和。息災?」


「ぉおぅ、ぁ、元気だ、ぞぉ~?

しゃ、しゃぁマも、げ、元気ぃそうだなぁ~?

相変わらず死んだ魚みたいで、び、美人だなぁ?」」


 先程までの大きな声が嘘のように小さく萎縮する大和。

 大和は幼少時よりシャマには度々酷いイタズラをされており、

その恐怖は魂にまで刻まれていた。

 シャマはそれを判っているので敢えて声のトーンを落としている。

 ……つまり楽しんでいるのだ。


 今はお互い良い歳なのだからもう大丈夫……

頭ではそう理解しつつも大和の心が、魂が、恐怖に震え上がる、

幼き日々に心に刻み込まれたモノは、大人になった程度で抗える物ではないのだ。


「大和。

そちらにいる お稲荷さん仮面オニキスちゃんは、

明日貴方の模擬戦の相手をされる方よ。

あまり試合前に馴れ馴れしくするものではないわ。」


「おぉ、そうだったのかぁ。そりゃあ確かに試合前にこういうのは良くねえなあ。うん。

お、オレ様は向こうで食べることにするぜぇ。」


 良い口実が出来たと、慌ててシャマ(てんてき)から逃げ遂せる大和。

 ひょっとして、この状況を慮って大和を追い払ってくれたのだろうか?

シャマの表情からはその真意は全く読めない。


「おぅ、お稲荷!オレ様は大和ってんだ。明日はよろしくなぁ!!」


 遠く離れた席につく事によって心の傷を癒やした大和の元気な声が聞こえてきた。

 とりあえず無言で会釈しておく。


 あ、後から入ってきた月詠に説教されている、

シュンとしながら説教されている大男を見ていると、

何やら大和に同情してしまう……。


「シャマ、助けてくれたんですね?ありがとうございます。」


 仮面を上にずらしシャマに礼をいう。

何だかんだいってシャマにはいつも助けられているなと素直に礼を言う。


「シャマは煩い山犬を追っ払っただけです。

お礼を言われるようなことはしてません。」


 いつもの無表情で黙々とうどんを食べることを再開するシャマ。

少し尖った耳の先が僅かに赤くなっているような気がした。





 ――それにしても明日は大和と模擬戦か。

角が使えない以上、魔法中心で戦うことになるだろう。


 神凪を使えばさすがの脳筋もオニキスの正体に気がついてしまう可能性もある。


 明日は雄々しいオニキスを全校生徒に見てもらうのも目的なわけなので、

いっその事、普段は使わない武器を使うのも良いかもしれない。


 武芸百般、フェガリ武術の全ての技を修めたオニキスであれば、

武器は刀に拘る必要はないのである。


 明日はなるべく無骨な鈍器等を選び、全力で戦うことで評価を覆したい。

 一瞬そんな考えが過ぎったがそんな考えをすぐに振り払う。


 相手はあの大和である。

恐らく”あの力”は使わないとしても角無し状態の武の腕前は、

間違いなく向こうが遥かに上である。

 クティノス人の身体能力というのは人族などとは比べ物にならない物なのである。

故に大和に勝つためには全力を尽くす必要があった。


 武器は兎に角、魔法に関しては装備品での底上げは必須ですね……。


「シャマ、明日は角無し状態ではありますが全力で挑もうと思います。

武器に関しましてはそれなりに魔力増強をしつつ、

見た目も無骨な鈍器を持っているので問題ないのですが。

私は普段、前衛寄りの魔法剣士ですので、

正直な所、魔力増強の防具等はあまり持っていないのです。」


「……大丈夫です、オニキスちゃん。

すでに明日の戦いのための装備はシャマの部下が本国より輸送しているはずです。

明日の朝には届きますのでご安心下さい。」


 普段いろいろ問題があるが、こういう時のシャマは流石である。

対戦相手と状況からすでにこちらの考えを先読みし、準備を済ませていたのだ。


「ありがとうシャマ。それでは任せましたよ。」


「はい、おまかせ下さい。

明日の模擬戦、シャマは心より楽しみにしております。」


 頼もしい返事に満足し、食堂を後にする。




 ――後にオニキスは、優秀であるが常に問題行動をするこの従者の事を、

何の疑いもせずに頼り切ってしまったこの時の自分を永遠と恨むこととなる。


優秀ではあるが、あくまでシャマは問題児なのである……。






いつもお読み頂きありがとうございます。

今回はあまりお話進みませんでしたが次回はシャマの陰謀が炸裂致します。

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