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第八話 吠えたけるは獣の拳 咲き誇るは百合の花

バトルが続いておりますので残酷描写が多少ございます。

苦手な方はご注意下さい。





 ――スクビデア=ミュル=デトリチュスは今まで欲しいものは何でも手に入れてきた。

生まれながらに貴族と言う立場であり、魔術の才能も歴代デトリチュス家最高と言われていた神童。


 彼の家は下級貴族ではあったが、

彼の父クピディタース=ミュル=デトリチュスは自らの収める領民に重税を課し、

更には横領、密輸などなどあらゆる悪事を以て巨万の富を築いていた。


 それ故スクデビアは幼少の頃より欲しいものは何でも手に入れることが出来た。

たとえそれが他人のものでも金と暴力で全てを手に入れてきたのだ。

 特に女性というものは金と暴力をチラつかせればすぐに言うことを聞くものだと思っている。

 それほど彼の価値観は歪んでいた。


 先日、魔法科のクラス分け試験場にて信じられないほどの美少女に出会った。

美しい黒髪の少女はひと目でスクデビアの胸を射抜く。

しかし、歪みきった彼には恋心と言うものは理解でき無かったため、

彼は即座に彼女を家で囲う事に決める。


 妾とは言えこの私が正式に娶ってやるのだから、この女は犬のように喜んで恭順するに違いない。


 ――だが、その女の返答は拒絶だった。

スクデビアの名を聞いても貴族と聞いても拒絶の意思しか見せなかったのだ。

こんな事ははじめてだった。


 この私に恥をかかせたのだ。

あの女には極刑を与えねばならない。

歪んだ彼は即座にそういう思考に至った。


 まずはオニキスと親しげにしていた女を拐い、呼び出すことにする。

その後でじっくりと、スクビデア=ミュル=デトリチュスの偉大さを解らせてやることにした。


 しかし魔法試験で見せたあの女の魔法は少し厄介である。

あんな物を撃たれては自分はともかく、

自分の雇っているゴロツキ共では返り討ちに合うかも知れない。


 悩んだスクデビアはデトリチュス家に出入りしている闇商人に相談することにした。

すると闇商人は驚くほど乗り気で色々な商品を勧めてきた。


 やつの商品はどれも素晴らしかった。

魔法を封じる珠の威力も素晴らしかったし、なによりこの赤い石。


「スクデビア様は太っ腹ッスねぇ。いっぱい買ってもらえたので、

いざって時の切り札になる魔道具も差し上げるッスよ。

こっちはサービスなんでお代は結構ッス。」


 サービスなどといって無料で譲ってもらったこの石。


 ……これが素晴らしい。

この石はスクデビアを人間のはるか上位の存在へと導いてくれた。


 初めのうちはその変化に多少ついていけず思考が濁ってしまったが、

今は頭はスッキリしている。

多少顔の形が変わってしまったので発声が上手くいかないが、

恐らくすぐに慣れることだろう。


 力があふれる。

最早何が来ようが恐ろしくはない。

私は神になったのかもしれない。


 この力があれば最早あの生意気な女も敵ではない。

案の定、あの女は我が剣戟を躱しきれずに無様に吹っ飛んでいった。


 ――やったか?


 どうやら力の加減を誤ってしまったために即死させてしまったようだ。

泣き叫ぶ姿を見たかったが仕方ない。

あの女の死体を切り刻むのも楽しそうだ。


 瓦礫の下から掘り起こして、

死した後もその体を穢し尽くしてやろう。


 想像するだけで股間が隆起する。


 あぁ、気分がいい――――


 




 ――――先程まで激しい戦闘音が聞こえていた廃墟だったが、今は静寂に包まれていた。




 さて、どのへんで潰れているのかな?

スクデビアは積もった瓦礫をどかそうとして自身の異常に気がついた。

スクデビアの右手、オニキスを葬った拳が復元の泡に包まれていたのだ。


「お、お?こでは一体……。ンギィ!?」


 突如スクデビアの頭部が業火に包まれた。


 魔法!?対魔法絶対防御結界が発動しているのに?

突然頭部を覆う炎は顔の表面を焼いた辺りで霧散して消えていった。

霧散したということは間違いなく今のは魔法だったらしい。


「うーん、やっぱり全力で魔法を構築しても散らされちゃうんですね。厄介な結界です……。」


 凛とした声が響く。

聞き覚えのある声だ。


 スクデビアが声の方を向くとそこには、

少々埃や土で汚れてはいるものの先ほどと変わらず無傷の(・・・)オニキスの姿があった。


 いや、先ほどと違う所が一箇所。

彼女の頭部には太い角が生えていた。

そして先程までとは明らかにその身にまとう雰囲気が変わっていた。


 そして理解する。

先程ボキボキとへし折れていたのはこの女の肋ではなく自分の腕だったのだと。


「もう少しあのままの状態での全力を試したかったのですがね。

まぁ、リーベさんもこちらに向かってますしそろそろ終わらせましょうか。」


 オニキスは角から魔力が全身に伝わるのを感じる。

久しぶりの感覚だ……。

 今の状態であれば角の無い状態とは違い、周りの様々の物が知覚できる。

スクデビアの体内で心臓のように脈打つ魔力も今ならハッキリと感じることが可能だ。


 スクデビアに傷がつくとひときわ大きく鳴動する魔力、

恐らくそこにあの石があるのだろう。


「オニキスちゃん、そろそろ決めちゃって下さい。リーベちゃんが来てしまいます。」


「わかりました。次で決めます。」


 オニキスの角が薄く光り、それと共鳴するように神凪も輝きを増していく。


「う、あァ……。」


「欲に目がくらみ禁忌に手を出した己の不明を恥じなさい。

私の友人を怖がらせた罪は償って頂きます!」


 神凪が鋭くスクデビアの体を貫く。

先ほどまでの非力なそれでは無く、魔力によって身体能力を大きく向上させたそれは、

スクデビアの肉体をたやすく破壊し彼の背中から赤い石を飛び出させた。


 核となる赤い石を失ったスクデビアの体は復元された部位から順に腐れ落ち、

異臭を放ちつつその場に崩れ落ちた。


「この石、今の一撃でも砕けないとは……。

一体何なのでしょうね。」


 刀を拭い鞘に収めつつ赤い石を眺める。

赤い石は多少の傷をつけつつも怪しい光を放っていた。




「オニキスちゃん……。」


 声のする方を見ると、

珍しく不機嫌な表情をしたシャマの顔があった。


「シャ、シャマ……?」


「今回の戦い、慣れない角無しの状態だったとは言え、

色々と迂闊すぎです。

相手があの程度だったから良かったものの、

もし、あれがもっと上位の存在であったらあの直撃打は致命的でした。」


「う、で、でも私は無傷でしたし……。」


「無傷かどうかではありません。

以前にもこの男の平手を避けられずにもらっていましたね?

最近の陛下は気が抜けています。

この程度の事で本当にフェガリの王と呼べますでしょうか?」


 あまりの剣幕に思わず後ずさるオニキス。

 ここ迄激昂するシャマを見るのは非常に珍しい。


 いつも飄々とオニキスをからかう姿はそこにはなく、

厳しい臣下の姿がそこにはあった。

言葉遣いも学園のときとは違ってしまっている。


「つ、つまり、シャマは私が吹き飛ばされてしまったので心配してくれたということですか?」


 愛想笑いを浮かべつつ下手に従者の顔色をうかがう美少女。

誰がこの姿を見て、この人物が魔王なのだと思うだろうか……。


「シャマは、陛下の従者で近衛でもあります。

故に陛下の身を案ずるのは当然の職務でございます。」


 不機嫌そうに顔をそむけるシャマの耳は赤かったが、

そこをつつくと本気で殺されるような気がしたのでそっとしておくことにした。


 素直ではないが自分のことを心底心配してくれる従者がいるというのは嬉しいものだ。




 ――――――


 しばらくすると慌ただしい足音が聞こえてきた。


「オニキスさぁん、シャマちゃぁぁん!無事ですかぁぁぁ!!」


 汗に濡れながら駆け込み、

二人の姿を見るとその顔をクシャクシャにしながらシャマに突っ込んでいく。


「よかったぁぁぁぁ、大丈夫だったんですねぇ。」


 リーベのタックルに近い抱擁はシャマに躱され、

勢いが止まらずにそのまま地面に頭から突っ込んでいく。


「見ましたかオニキスちゃん?これが油断のない動きというものです。」


 ドヤ顔を決めるシャマ。

いや、友人にその対応はいかがなものか。


「うぅ、シャマちゃん……ひどいですぅ……。」


「おぉ。お前ら無事だったんだな、よかった。」


 べそをかきながら起き上がるリーベの後ろから

グレコ先生と数人の教師がやってきた。


「グレコ先生。はい、私達二人で何とか退けることが出来ました。

壁の外に共犯者が倒れていると思いますのでそちらはよろしくお願いします。」


「うむ、そちらは任されよう。」


 気を失っている共犯のゴロツキはグレコたちによって捕縛されていく。

主犯であったスクデビアはすでに原型を留めない腐肉の塊のようなものに成り果てていた。


「リーベ=グリュックから話を聞いているが、これがスクビデア=ミュル=デトリチュスなのか?」


「はい、そこに落ちている赤い石を取り込んだ後にこのような姿に変化いたしました。」


「これか、ぬうっ!?」


 グレコが石を確かめようと近づいた瞬間、赤い石がグレコに向かって触手のようなものを伸ばした。


 ――しかし、次の瞬間グレコの拳が白く輝きはじめる。


「ぬぅぅぅんっ!!砕破!」


 両拳で挟み込むように放たれた拳は超高速で石を挟み込み、

オニキスの突きですら傷しかつかなかった赤い石を粉々に粉砕した。


「くそ、証拠品だが押収する余裕はなかったな。

コイツはかなり危険な代物だ。」


 ――いや、あの石を砕く治癒術士よりは危険ではない気がする。


「とにかく、お前たちが無事でよかった。

デトリチュスに関してはこちらから家に伝えよう。

ただでさえ評判の悪かったデトリチュス家が今回のような騒ぎを起こし、

なによりグリュックをさらって危害を加えようとしたとなると……。

流石に今回は国からのお咎めなしとはいかんだろうな。」


「ん、リーベに危害を加えると国が動くようなことがあるのですか?」


「あ、先生それは……。」


 慌てて止めようとするリーベ。


「ん、知らんのか?

グリュック家は先代、先々代と聖女を輩出した名家だからな。

貴族ではないがこの国には重要な意味を持つ家だ。

そこの一人娘、しかも治癒術士としてSクラスに入れるほどの才をもった

リーベ=グリュックを攫ったのだ。

これはいくら金を持っているとは言え、

流石に下級貴族如きがもみ消せる案件ではなかろう。」


 驚いてリーベを見る。

リーベはどこかバツが悪そうにもじもじと目線をそらした。


「別に隠して居たわけではないのですが、そのぉ……。

私が聖女の娘と判ってしまうと、クラスの皆さんのように少し距離を取られてしまうかと思いましてぇ。

せっかく仲良くなって下さったオニキスさんとシャマちゃんに話すのがこわかったんですぅ。」


 しょげかえるリーベが居た堪れないので

優しく頭をなでながらオニキスがリーベを慰める。


「私達の事をそこまで想ってくださってたのですねリーベさん。

大丈夫ですよ、私たちはもうお友達じゃないですか。

こんなにボロボロになってまで、

急いで先生方を連れてきてくださった貴方と距離を置いたりするわけがありませんよ。」


 ボロボロ涙を流して感極まりオニキスを強く抱きしめるリーベ。

泣きじゃくるリーベを慰めるオニキスの姿は慈愛に満ちており、

これではどちらが聖女なのか判らんなとグレコが苦笑する。


「うわぁぁぁん、よかった。本当にぃ~~。」


「さぁ、可愛い顔が台無しですよ。泣き止んで下さい。」


 持っていたハンカチでリーベの顔を拭いてあげると、

リーベは泣き止みニヘラっと笑ってみせた。


 うん、やはりこの娘は笑顔方がよく似合う。


「はい、オニキス……お姉さま(・・・・)!」


 満面の笑みでそう告げる少女は、すこし頬を赤らめうっとりとした表情でそう告げるのだった。


「ほう……。」


 オニキスは気が付かなかったが、

その従者は新たなおもちゃを見つけたとその目を輝かせていた……。









 ――――――そんな大団円の微笑ましい光景を遠くから眺める男が居た。


「マジッスか。魔血結晶とあそこまで融合した人間を一人で?ヤッベェッスねえ。

正直、学園の生徒と言ってもまだまだヒヨコちゃんだとおもって侮ったッスねえ。」


 フードを目深に被った男はヘラヘラと笑いながら一人ごちる。


「まぁ、結界宝玉も魔血結晶もちゃんと使えたみたいだから今回の収穫はこんなとこッスね。

また遊びに来るッスよ、オニキスちゃん~……。」





 男は踵を返すとスラムの闇へと溶けていった……。

























いつも読んでいただきありがとうございます。

評価ブックマークしてくださった方にはさらに感謝感謝です。

良い点悪い点感想をいただけると励みにもなりますし勉強にもなりますのでなにとぞよろしくお願いたします。

いよいよ夏コミ原稿しないといけないので更新は週2~3回が続くと思われますが見捨てないでくださいませ~~~。

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