5 革命
次の日、神薙は休み時間になるたびに僕を呼び出し、ひたすらに自己PRをしてきた。正直、面倒なタイプだと思ったのでそのままそのように告げた。
しかしその次の日にも神薙はプレゼンを繰り広げた。
いちいち呼ばれるのも、そのせいでクラスメートから恋人だと誤解されかけているのも嫌だと思った僕は止むなく、1回しっかり話を聞いてみることにした。
かくして、改めて特別教室にやってきた僕は神薙にとりあえず、なんで生徒会長になりたいのか、という基本中の基本足りうる質問をぶつけてみた。
そもそも生徒会長という役職はこの高校では実質生徒の代表を示す、割と重い役職である。
他の高校ではよくある(少なくとも近隣の高校はそうなっている)、風紀委員、部活連などといった役職、所謂スリートップの形式が存在しない。
なぜそうなっているのかなどの歴史は知らないが、これらの役職をすべて生徒会長並びに生徒会本部役員で担っている。
そのため基本的には前年度の副会長すなわち現2年生が生徒会長の推薦を受けて生徒会長の役職に就く。
もちろん、その流れは絶対のものではなく、競合があれば生徒総員による投票式の選挙を行い決定される。
神薙は、質問に対し、決まってるじゃない、と胸を張り
「楽しそうだからよ」
堂々と言い切った。
想定をはるかに超える"考えてなさ"に絶句していると彼女は
「だって、明らかにみんな楽しくなるんだよ?このボクが生徒会長をやるんだ。それも2年間も。知ってる?今のこの高校の人気の低迷具合。入試倍率が落ちて偏差値が落ちたら今の生徒も困るでしょう?だからボクが自ら出払って世界一魅力的な学校のレッテルを上から貼っつけてやるのよ!」
……これほどまでに具体性のないアピールもそうそうないだろう。
ただ、この高校の人気が落ちている点については割と有名な事実で、神薙の言う通りにもなる可能性も高い。
……ふと思った。こいつ使えるのでは?と。
僕が自分で生徒会長になるのは客観的人気および教員推薦のとりやすさを加味しても不可能ではないし、何なら神薙より圧倒的にムーブメントも起こせるだろう。
しかし、生徒会長になると当然多大なる時間が拘束される。それは本意ではない。
そこで、神薙を傀儡としてしまえば最大効率で最良の結果が得られるのではないだろうか。
そう思った僕は神薙の適当なアピールに大いに感心したかのように振る舞い、「協力」を承諾したのだった。
神薙への協力を約束づけた僕はまず、生徒会長選に出るに必要なものといった基本ルールから調べ始めた。必要なものは 1.教員の推薦 2.生徒の推薦(50名以上の署名) 3.後援演説者 この3つだった。選挙戦は7月終わり、定期テスト直後に行われる。
これだけの期間があれば2、3は余裕でクリアできるだろう。何なら僕が後援になっても良い。
問題があるとすれば「教員の推薦」である。
当然教員も流れに逆らって1年生を推薦する以上その生徒はある程度の成績を補保持しているほかにも何か最低でも1つ"推せる"ポイントが必要となる。
神薙は学力は意外にも悪くなく(本人は中学でも生徒会長だったんだから当然!と言っていたが正直、「悪くない」止まりである)少し教えていけば及第点には足りるだろう。
となれば必要なのは"推せる"ポイントである。
僕にこの部分を教授することができるかと言われると微妙なため、僕が持っている人脈に頼ることになりそうだ。
そう言いかけたところで神薙が
「人脈...なるほどな!つまり、生徒の間でボクが生徒会長になることを共通認識にさせて教師に示せばいいだけだね!」
「というわけでこれから当分の間、付きまとうから!この学校の生徒全員にボクのことを紹介させてあげようっ!」
まっとうとは思えない宣言だが、当人の考えならそれでも良いか、と渋々、しかして表向き揚々と、承諾した。
後に、神薙由紀の名は全校生徒の間に当時はまだ学年で有名程度だった僕の名前とともに知れ渡り、当時の副会長の棄権も相まって、学校史上初の1年生の生徒会長となったのである。
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「…ぞ!…ほら」
「もうすぐ着くぞっ」
肩をゆすられて目を覚ます。
朝が早かったせいか眠っていたようだ。
今ではこのように一緒に旅行をするような仲になった俗称『革命家』との"デート"はまだこれからだ。