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夏の日  作者: 端の方。
4/5

4 生徒会長

起床時間を告げたのはいつもの紗夜の声ではなかった。

普段よりも2時間ほど早い4時を示す携帯のアラームは僕が寝坊することなく起きられた事実を知らせている。

早朝と言える時間のため、紗夜を起こさないよう気を付けながら出かける支度をする。

1Fに降りるとテーブルには、紗夜が夜のうちに用意しておいてくれたサンドウィッチが置いてある。

紗夜の心遣いに感謝を示す置手紙と引き換えて、さほど多くはない荷物を抱え外に出る。

まだ日の昇らない薄暗い路地を集合場所である神薙の実家、神薙書店、ではなく住んでいる方のアパートへと向かった。


高校からほど近い位置にあるアパートに着いても相変わらず空は白けもしない。なぜ神薙が実家から十分に近いこのアパートに居を構えているのかは知らないが、とりあえず時間を確認して部屋のチャイムを押す。



……反応がない。

ということもなく、私服に身を包んだ神薙が玄関から顔をのぞかせる。

「お、やっときたねぇ!さ、行こうか!」

お姉さんとのお出かけに緊張して早く来すぎて家の前うろうろしてる姿が見たかったんだけどなぁ、などとのたまっているが、相手はこの神薙だ。間違っても何も起こらないし何も起こらないのだから緊張もしない。いつも通りだ。

結局どこに行くつもりなのかと問いかけると

「ん~...着いてからのお楽しみということで!」

そういって最寄駅から高校生にとっては結構な額の記された切符を手渡してきた。明らかに県は跨ぐだろう。

「あ、交通費と宿代は心配しなくてもいいよ。今回はボクが持ち掛けたデートだからね!」

僕は返す言葉とは裏腹にいくらか安堵して駅までの道途を進めた。


明るくなってきたと感じた頃、始発時刻を示す電光掲示板と現在時刻を確認し、あと3分ほどだと少し急ぎ気味でホームへ降り1人も乗客のいない車両に乗り込む。

運行にかかる費用と採算合わなそうだな、などと考えていると

「ねぇねぇ、2人きりだよ?? こんなかわいらしくて1年生にして生徒会長になっちゃうような人気者のお姉さんと2人きりだよ? なんか言うこととかぁ!することとかぁ!あるよね???」

...無い。

確かに人望も風貌も、ついでに学力も客観的に見て最高級だとは思うが、神薙である。

返事がわりに適当に頭を髪を崩さない程度に撫でて、少しばかり昔、神薙に初めて会った頃のことを思い浮かべた。


_____________________________________


『放課後、特別教室に来てください。待ってます  神薙由紀』

まだ入学して3週間ほどしか経っていない頃、朝登校したら下駄箱に入っていた手紙である。

内容は簡素で注して飾り気のない手紙の送り主は知らない名前だった。

初めてもらった、パッと見、ラブレターのような内容の手紙は僕を少しばかり高揚させた。

これまで意識して行ってきた、他人から少しでも良く見られようと笑顔を作り、積極的に多くのクラスメートに話しかける、といった努力もこの日は勝手に緩もうとする頬を引き締めることに意識を向けるので精いっぱいだった。


全然集中できない授業が終わり、あまり早く行きすぎても格好がつかないと、少し時間を空けて特別教室へ向かい、特別教室に入るとそこで待っていたのは


胸元にまっすぐ飛んでくるナイフだった。


何も考えられないままその切っ先が僕の皮膚を突き破...らなかった。

突然のことに呆然としていると教室の奥から笑い声とともに綺麗な容姿の少女が歩いてきた。

「...ククッ...初めまして!ボクが、神薙由紀だよ。...フフッ...はぁー、次の生徒会長よ!由紀とでもお姉さんとでも自由に呼ぶと言いわっ」

イメージが決定付けられた瞬間である。

神薙由紀と名乗った少女は続けて

「あなたがこの学年の世論であることも意識して存在力を高めていることも把握しているわ。そのうえで協力を要請するわ。」

「私を生徒会長に"させてあげる"」


僕は黙って教室を出た。

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