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夏の日  作者: 端の方。
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2 由紀セレクション

想定外の心労を負った入学式からももうすぐ1週間となる日曜日、授業の始まる前最後の休日。最近のうち届いたメッセージも神薙からの「日程変更!来週の土日、両方空けとくように!」といった今週の暇をより拡大するものだけだった。

紗夜は早くも友人に恵まれたらしく、入学式以降ほとんど毎日のように出かけている。


僕は基本的に学校の中では顔の広いほうであると自覚している。

何がきっかけでそうすることになったのかは覚えていないが、自らをボクないしお姉さんと人称する"同学年"で"同齢"の生徒会長、神薙がまだ生徒会長になる前からやたらと連れまわされ、最終的に後援会として選挙中の応援演説を任されたりしていたのが原因だろう。

そういった経緯で学校内で友人の多そうな生徒として知られてはいるが実際には休みの日に誰かと遊びに行ったりすることはめったにない。


そんなわけで望んでいたわけでもない静寂な休日を手に入れた僕は、自転車で10分少々のところにあるいつもの書店へと歩いて向かった。


いつも客の多い書店ではないが、開店時間から間もないため余計に客足の少ない店内だが、居づらくなるような静けさはかかっているBGMのおかげで感じない。

神薙書店の名を冠するここは理解の通り、神薙由紀の実家である。普段は学校での処務が終わった後ならば神薙がレジカウンターか、自身のお勧め図書を並べた棚、通称「由紀セレクション」の整理をしているが、予想通り今日はいない。僕と神薙は本についてはあまり趣味が合わないので、正直、由紀セレクションは選択しづらい棚だ。なので、目的の1冊を買いに来るとき以外ではなるべく神薙のいないタイミングを見計らっての来店を心掛けている。

しばらく店内の棚の間を行ったり来たりしながら、目にとまった本を3冊ほど手に取ったところで最奥にしてレジ手前、由紀セレクションまでたどり着いた。

今は何が置いてあるのかを友人の好として軽く見てレジへ向かおうとして1冊、明らかに僕に対して書かれたであろうポップの付いた本が面陳してあることに気付く。

何かと思えばそこにおいてあったのはスケジュール帳であった。何の意図があるのか知る由もないが、本屋のお勧め棚としては似つかわしくない1冊も同時にレジへ持っていくことにした。


紗夜は朝出かける前に甲斐甲斐しくも昼食まで用意していってくれたのでそれを食べたのち、先ほど手に入れた本のうち、唯一無償で手に入れることになったスケジュール帳を包装からほどき、開いてみる。

そこには図々しくも「お姉さんのために空けておく日」なるマークが"来年の7月まで"不定期的に記されていた。

物にもよるだろうが、一般的なスケジュール帳の書き込み部が1年間用なのに対して、このスケジュール帳はこの4月から来年の7月までという中途半端な綴になっているため、これは神薙の無駄に豊富なスキルによる手製の品だと判断し、近直の予定のみを頭に入れて他の本を読み入ることにした。


3冊目を読み終え、読書の後特有のぽーっとした感覚に身を包まれていると、玄関から紗夜の帰宅を告げる声が聞こえ、今がもう夕方、日も沈むころだと自覚する。

楽しげながらも少し疲れた様子の紗夜は夕飯の用意に取り掛かろうとする。僕は一応手伝いを申し出るも「むしろ邪魔だから」と、キッチンから押しのけられる。仕方なく端末に目を向けると、由紀からのメッセージを知らせる通知が届いていることに気が付く。

そこにはスケジュール帳のカレンダー調のページの先、メモのようになっている部分にも目を通すこと、といった要件が書かれていた。

改めて開くと、メモの1ページ目に今度の土曜日の集合場所等が記されていた。

見落としていたことに気付いた僕は少しだけ申し訳なく思いつつ、雑記の多いメッセージを読み進めると「定期的に確認すること」「紗夜に見られないようにすること」等といった注釈もあり、逆らう必要もなかったので僕は了承の旨を返しスケジュール帳をいつも使っている鞄にしまった。

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