4-3.それぞれの理由
「俺は元々、ハリとの国境で警備をしている国境部隊の人間だ。それが急に中央区に呼び出し食らったんだよ。本当は夕方の列車で戻るつもりだったんだけど、トラブルがあって列車が到着出来なくて。仕方なく徒歩で行くことになったんだ」
「トラブル?」
「木が倒れて線路塞いじまったんだよ。知らないのか?」
女は黙って首を振る。
「今日はずっと山の中にいたから」
「山の中ぁ?なんでだ?」
壁際の暖炉の前には、それぞれの衣服が干されていた。
スイもそれに倣って、自分の上着やブーツを並べる。
四つ並んだ靴はいずれも山登り用のブーツで、泥などの汚れはぬぐい取られていたが、それでも全体的に薄汚れている。
流石に裸足では寒いので、スイはその傍のスリッパを借りた。他の四人も同じようにスリッパを履いている。
「私はアカデミーの研究員なのよ。この山独自の生態系を調べているの。嵐が直撃する前に帰ろうとしたんだけど、思いのほか早くてね。それで此処に来たというわけ」
「ふーん。爺さんは?」
「私は不動産関係の仕事をしていてね。この山小屋は私の会社の管轄下にあるんだよ。点検のために来たんだが、うっかり転寝してしまってね。気付いたら出られなくなっていたというわけだ」
「まぁ下手に外に出なくてよかったぜ。この嵐じゃ爺さんみたいなのは吹き飛ばされて終わりだ。そっちの二人は?」
仲良くソファーに座っていた男女が顔を上げる。
「お前達、恋人ってわけじゃなさそうだな」
「あ、僕達は兄妹です。妹と一緒にハリにいる親戚のところに顔を出す予定だったんですが、汽車が止まってしまったので山越えを。でも途中で僕の体力が尽きてしまって」
「お前の?妹じゃなくて?」
「昔から妹のほうが運動神経がいいんです」
恥ずかしそうに言う少年を、少女が何か揶揄ったが、丁度外の雷の音に掻き消されてしまった。
「此処にいるので全員か?」
「いえ、もう一人いるわ」
女がそう言いながら、自分の背後を指さす。
そこには四つの扉が並んでいた。
「来るなり、具合が悪いといって横になっている男よ。何処にいるんだったかしら?」
女が尋ねると、少女が左から二番目の扉を指さした。
「あのお部屋。お爺さんに聞いてからと思ったけど、かなり具合悪いみたいだったから」
「構わんよ。別に此処は私物でもなんでもない。少し埃臭かったかもしれないがね」
老人は鷹揚に笑って、少女を安堵の顔つきに変えた。
「風邪か何かか?」
「じゃないかしら。薬はあげたけど。それより、丁度食事を作ろうとしていたの。此処の非常食と皆の持っているものの寄せ集めだけど、貴方もどう?」
スイはそれを聞いて、思い出したように入口に放置していた自分の荷物の方を指さす。
「俺も軍のレーションあるから、使ってくれ」
「レーション……あぁ、軍隊の携帯食?不味いって評判の」
女の台詞にスイは肩を竦めた。
「不味いのは肉と魚と野菜だけだ。パンはそれなりに食えるぞ」
「その三つがダメな時点で全滅な気がするのだけど。お嬢ちゃん、食材として頂いておく?」
「ん?調理するのか?」
そう尋ねると、女ではなく少女が手を上げた。
「はーい、やります。お料理は結構得意なの」
「そうか。まぁ俺は食えればなんでもいいぜ」