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anithing+ /双子は推理する  作者: 淡島かりす
+KilledDonut
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3-6.狙撃手

「今、伯父様が言った通り、彼女に犯行は難しいように思えます。でも店員だとするとそれは更におかしい」

「なんでだ?店員がドーナッツに弾丸を仕込んでおいて風魔法で弾き飛ばした。これが一番納得が行く方法じゃないか」

「それは不可能なの。伯父様」


 アリトラはドーナッツの載っていた皿を指さした。


「これを食べたいと言ったのは、アタシ。でも注文したのは伯父様。伯父様はその時に、ドーナッツがいくつ載っているか確認した」

「店員さんは恐らく僕達が一つずつ食べると思ったんでしょう。皿をテーブルの中央ではなく、僕達の間に置いたのがその証拠」

「どっちがどのタイミングで食べるかわからないのに、あらかじめ弾丸を仕込んでいくことは出来ない。だってどっちかが先に弾丸の入っているドーナッツをかじっちゃったら終わりだもん」


そこでアリトラが考え込みながら、皿の縁に右手の人差し指を置いた。


「アタシだけがドーナッツを食べるつもりだったってわかるのは、伯父様とリコリーと、伯父様の部下だけ」

「だがあいつが来たのは……」


 ルノはその時、自分がルイドに言った言葉を思い出す。

 「姪はドーナッツ、甥は紅茶目当て」と確かに言った。敏い者なら、その言葉が何を意味するか、すぐにわかる。


「多分、最初から僕達を狙ったわけではないと思います。五階から階下にいる人たちを標的にしようとしたんでしょう」 

「でも偶然アタシ達がいて、しかもドーナッツを頼むと言うから、銃弾を仕込んだ」


 ルノは双子の向こうの席を見る。

 部下の女は黙って座っており、その横顔には何の表情も浮かんでいなかった。

 椅子から再び立ち上がったルノは、さきほど銃弾のことを相談した時のように、すぐそばまで近づく。


「話を聞いていたか」

「はい」

「どう思う」

「証拠がありません」


 静かに、余裕の表情で紅茶を口に運ぶ様子は、悪質ないたずらの犯人には見えない。


「外から狙撃された可能性だってゼロではありません」

「まぁ、そうかもな。双子は消去法で話をしているだけだ」

「私があらかじめ、床に銃弾を置いて、魔法を使って皿をひっくり返してドーナッツを弾き飛ばした。そんな馬鹿なことをした証拠がない限り、私を犯人とするのは不可能です」

「不可能。そうだなぁ」


 ルノは頭を掻いて、困った様子で呟いた。


「あんな魔法ぐらいじゃ精霊瓶の魔力だって減らないし、お前が魔法を使った証拠にはならない」

「えぇ」

「で、お前まさか非番なのに銃弾用のケースなんて持ってないよな?」


 ルイドの表情がわずかに動いた。


「銃器隊には銃弾を裸で持ち歩く馬鹿はいない。そして非番の際に銃弾や銃を持ち歩くには許可証がいるが、俺はお前から申請を受けていない。だからお前は銃弾のケースなんて持っていないはずだ」

「……隊長は私を疑うのですか」

「なんだ?俺はただ質問をしているだけだろう。持っているのか?持っていないのか?」


 ルイドは鋭い目で睨み付けるが、ルノはいつもの軽い笑顔を浮かべたままだった。

 長い沈黙の後、小さな舌打ちが響く。

 そして掌で握り込めるほどの小さな黒いケースが、ルイドの手によってテーブルの上に放り出された。


「申請はきちんとしないと駄目だぞ」


 ルノはケースを持ち上げると、中を検めた。

 四つの魔法銃用の銃弾が入っているのを見て、満足そうにうなずく。


「で?なんでこんなことをした?」

「……隊長が腑抜けだからです」

「面白い意見だ。ゆっくり腰を据えて拝聴したいが、今日は非番だからな。明日にしてやる」


 ケースを閉じて、上着の内ポケットに大事に仕舞い込んだルノは、まだ睨んでいる部下相手に肩を竦めた。


「そう怒るなよ。ちゃんと聞いてやるって言ってるんだから」

「貴方のそういうところが、私は我慢ならないんです」

「我慢ならなかろうか腹に据えかねようが、俺にはどうでもいい。ただな、ルイド」


 ルノが笑顔から一転、冷たい表情に変わる。

 何の感情もない声が、鋭く相手に向けられた。


「だったら俺に言えばいいのに、他の連中を巻き込む、腐った精神は唾棄に値する。そんな奴はこっちから願い下げだ」


 何か言い返そうとしたルイドは、しかし口を閉ざして黙り込んだ。

 双子の元に戻ったルノは、椅子に座った後に大きく息を吐き出す。


「なんか白けたなぁ。双子達、今日はもう帰ろうか。明日の夜にどこか連れて行ってやるから」

「何処に?」

「決めてない」


 不機嫌に吐き捨てるように言ったルノを見て、双子は顔を見合わせた。


「伯父様、ご機嫌ななめだね。アリトラ」

「こういう時の伯父様はお祖父様そっくりだから仕方ないよ、リコリー」


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