2-8.輝く猫の謎
「もう一度、思い出してね。ロンは辺りは真っ暗だったって言った」
「その印象は間違いないんだけど……。その前日は何も見なかったし、本当に暗くて、怖かったし」
「でも雑木林を中心に飛行しているってことは、前日も巡回灯は起動していたはず。でもその日は灯りは見えず、猫が来た時には灯りがついていた。しかもその灯りは広場の東側から北側に移動した」
「移動したのがそんなに大事?」
「そこが一番大事。さて、ここで問題です。防犯装置とは何のために動くのでしょう?」
突然の出題に少年は目を瞬かせる。数秒考え込んだ後に、回答を口にした。
「何のためって、そのままでしょ」
「そこで止まったらダメなんだって。言い方変えようか。防犯装置は何の目的に動く?」
「目的?えーっと、人を守るため?」
「及第点はあげられないかな。犯罪を防ぐから防犯。つまり、防げなきゃ意味がない。つまり防犯装置の最初の目的は、犯罪を犯そうとしている人に警鐘を鳴らすこと」
アリトラは廃墟を見回すと、すぐ近くの窓を指さした。窓ガラスが割れてしまって、雨風に対して諸手を広げている状態である。
「あそこから人が忍び込もうとした時に、急に明かりで照らされたら「誰かいるのかもしれない」って思って入るのを辞めるよね。それが例え、こんな廃墟だとしても」
「うん」
「でもそれでも入ってくる人にはどうする?」
「えーっと、大きな音を出すとか?」
「それでもいいけど、もし何か犯罪を犯しちゃった場合は手遅れ。次の防犯装置の目的は、犯罪者を捕まえることにある。その時に一番有効なのは、撮影かな」
「………まさか、姉ちゃん」
蒼ざめたロンギークに対して、無関係なアリトラはマイペースに続けた。
「学院の防犯装置は、動いているものに対して光を当てて、それでも行動を続けた者を映像にして記憶するもの。猫を棒で殴った時に、防犯装置が作動して、ロンと猫ちゃんを映像に収めたんだろうね」
「じゃ、じゃあ緑色の光は……」
「映像を撮るのに必要ななにかかなぁ?そこまではよくわからないけど。だから光ったのは猫じゃなくて、ロンを含めたそこ一帯。自分が光っているのはわからないし、緑色の光なら土の上じゃ目立たないからね。猫だけ光ったように見えた」
「待って、姉ちゃんやめて」
事態の認識と共にどんどんと顔色が悪くなっていくロンギークを置き去りに、アリトラは遂に結論を出した。
「ロンが夜中に学院に忍び込んで、猫を殴った映像が残ってるってこと」
「うわぁあああ!」
頭を抱えて悲鳴を上げるロンギークは、とてつもなく滑稽な姿をしていた。アリトラが面白そうに笑いながら立ち上がり、ロンギークの傍まで歩み寄る。
「まぁまぁ、そう落ち込まないで」
「無理だよ!猫を叩くとか、俺完全な異常者じゃん!」
「事情話せばわかってくれるかもよ」
「学院に忍びこんだのバレてる時点で、何言っても説得力ないよぉ」
落ち着くように肩を叩きつつ、アリトラはあることを思い出して口を開いた。
「あ、そういえばマスターがロンのことを、ストレス溜まってるのかって心配してた。もう既にマスターのところには連絡入ってるのかな」
「父さんに心配されるのが一番嫌だ……」
「ロンちゃん、よしよーし。学院の風紀委員顧問、まだ変わってないでしょ。一緒に行って誤解を解いてあげる」
「もうやだ……。兄ちゃんや姉ちゃんがいなくてもしっかり出来るところ見せたかったのに、なんでいっつもこうなるんだよぉーー!」
悲痛な少年の叫びは暫くの間廃墟に響き渡り、その数日後には「廃墟に住む少年の幽霊」として語り継がれることとなるが、二人はまだそれを知らなかった。
END.