2-4.カンティネス親子
アリトラが振り返ると、そこにカルナシオンが立っていた。
「あれ、マスター?なんで?」
「夜の仕込みをしていたら、牛乳が足らないことに気付いたんだよ。それはいいとして……、お前は何をやってるんだ」
カルナシオンに睨まれたロンギークは、咄嗟にアリトラの後ろに隠れた。
「まだ学院にいる時間だろう。サボリか」
「い、いや、あの……」
「真面目に勉強をしていると思ったら、親を裏切るような真似をしているとはな」
カルナシオンが溜息をつくと、ロンギークは少し機嫌を悪くして鼻に皺をよせる。
「普段はちゃんと行ってるよ」
「じゃあ今は普段じゃないのか。お前が言う普段ってのはいつだ。俺はお前に遊ばせるために苦労して学費を払ってるんじゃない」
「遊んでるわけじゃないよ」
「この前の試験の成績も悪かったじゃないか。魔法も剣術も座学も。でも俺は何も言わなかったぞ。お前が真面目にやっていればいいと思って。だがサボっているとなれば話は別だ」
「俺は父さんやリコリー兄ちゃんじゃないから、毎回いい成績は出せないよ」
「そんなこと言っていないだろう。真面目にやれと言っているだけだ。それとも学院に行きたくない理由でもあるのか?」
「ないよ」
「じゃあなんで……」
「うるさいなぁ!」
ロンギークが口調を荒げると、カルナシオンが驚いて言葉を飲み込む。
「父さんはいっつも結論ありきで話すから、会話が出来ないんだよ。家でも会わないし、学院にだって来ないし。学費のことだって、父さんが勝手に制御機関やめたからじゃないか」
「それは……」
「周りには「子供といるため」とか言ったらしいけど、俺は父さんと一緒に食事した記憶なんか殆どないよ。姉ちゃんの家でご飯食べたことは沢山あるけど」
何か言おうとするカルナシオンを遮って、ロンギークは通りに響くような声で叫んだ。
「父さんは自分のことばっかりだ!俺のことなんて何も考えてないくせに!」
踵を返して走り出したロンギークを、カルナシオンは追いかけようとしたが、それは直前で阻まれる。
腕を掴んで引き留めたライツィは、若干呆れた顔をしていた。
「おじさん、あれはまずいって」
「そうそう。一方的に責め立てたら図星でも怒るのが人間」
「それにロンギークの言うことも最もだぜ?おじさん、もう少し話聞いてやらないと」
「ロンはマスターに似て頑固だから、一度拗ねると面倒だよ」
自分より年の離れた二人に諭されて、カルナシオンは決まりの悪い顔をした。
「でも、心配するだろう。学院に行きたくないんじゃないかとか、ストレスでも溜まってるのかとか」
「だったらそれを先に出さないと」
ライツィはカルナシオンの腕を話すと、その手で自分の頭を抱えた。
「おじさん、悪気はないんだろうけどさ、ちょっと順序が違うんだよ。このままじゃ、ロンギークに愛想つかされるぜ」
「まぁロンが反抗期なのも問題かもね」
アリトラがロンギークの走り去った方向を見ながら呟く。
「親に反抗したいんだよ。アタシやリコリーもそうだったけど」
「お前らにも反抗期ってあったのか?」
ライツィが尋ねると、アリトラは頷いた。
「ちょっとだけね。でも朝から反抗期が始まって、夜にご飯食べる頃には終わっちゃった。反抗していると、父ちゃんのご飯が食べれないって気付いたから。しかもあの時は滅多に作ってくれないカボチャのシチューだった。抗えるはずがない」
「胃袋掴まれすぎだろ」
「食は全ての基本。……マスター、アタシちょっとロンと話してから戻るね」
何か考え込んでいたカルナシオンは、アリトラの言葉に少し目を見開いた。
「話すって、何処に行ったかわかるのか?」
「当然。あぁ言う時のロンが行く場所は決まってる」