8-11.似ている絵
「十分の三、というと……瑠璃の刃ですかね。思いつくのは」
刑務部時代の後輩がホットサンドを頬張りながら言うのに、カルナシオンは眉を寄せた。
「おいおい、俺より後に入った奴らがあの組織のこと知ってるのか?」
「最近ちょっとね、話題になってたんです。嘘か本当かは知りませんけど、瑠璃の刃の幹部の似顔絵ってのが出回ったんですよ」
「似顔絵だぁ?どこで?」
「押収したのは西区だったかな。あぁいう有名な犯罪組織の幹部連中の「写真」「似顔絵」が出回ることはよくあることです」
「そりゃそうだな。真偽もわからないのに怖いもの見たさで皆買いやがる」
「でね、そのうちの一人が似てたんですよ」
「誰に」
「法務部の新人に」
カルナシオンはその意味を数秒考え込んでから、問い直した。
「リコリー・セルバドス」
「そうそう。セルバドス管理官のご子息。まぁでもたかが似顔絵だし、相手は管理官だ。滅多な噂話なんかしたら後が恐ろしい」
「どのぐらい似ているんだ?」
「いや、全体の印象ですよ。ふざけ半分でね、髪型変えたら似てる気がするー、なんて盛り上がってただけです」
「……西区か」
カルナシオンは一つの仮説を導き出す。
西区で瑠璃の刃の幹部とされる似顔絵が出回って、そのうちの一人がリコリーに似ていた。西区に仕事で行ったリコリーのことを誰かが誤解して危害を加えた、あるいはそのような素振りを見せた。
それが原因で帰れないでいるとすれば、問題である。
「なぁ、十八の男がいなくなって一日経たないのに、探しに行くってことでは出来ないよな?」
「当たり前じゃないですか」
「でも探しに行く大義名分が欲しい場合はどうする」
「別に先輩が一人で行くなら問題ないのでは」
「だよなぁ。やっぱりそうなるよな。出来れば店は空けたくないし、大事にもしたくない」
後輩の魔法使いは苦笑いをして肩を竦めた。
「相変わらずですね、先輩は。今の話で、大体何が起こっているかは理解出来ました」
「流石現役の刑務官は鋭いな。ご褒美に、似顔絵見て新人を笑いの種にしたことを、シノにバラさないでいてやろう」
「相変わらずですね、本当に。口実つけて新人を西区に向かわせましょう」
「宜しく」
紙ナフキンで口周りを拭った後輩は、そのまま席を立つ。
「でも、場合によっては大事にさせてもらいますからね」
「だからそうなる前に何とかしてくれって言ってるだろ」