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anithing+ /双子は推理する  作者: 淡島かりす
+Ruined country[亡国]
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7-11.魔法陣の意味

「でもさ、アリトラ嬢」


 ミソギが横から異を述べた。


「現に額縁は盗まれたじゃないか」

「怪盗にとって、カレードさんが落ちて来たことは全くの想定外だった。でも怪盗は屋根の上に十三剣士がいることは知っていたはず。そうじゃなければ、あのトラップを用意しない。目の前に十三剣士が落ちてきて、その横をすり抜けることが出来るかな? アタシは怖くて出来ない」


 アリトラは剣士二人に質問を投げる。


「あの状況で、もし誰かが近くをすり抜けたら気付きますか?」

「気付く……だろうね。俺達は単独行動が多いから気配を察知するのに長けているし」

「俺もわかる。あの時、俺の近くを通って行った奴なんかいなかったぜ」

「誰も額縁には近づかなかった。でも額縁は無くなった。怪盗は盗んでいない。となると導かれる答えは「額縁が勝手に消えた」」


 突拍子もない言葉に、真っ先に反応したのはカレードだった。それを冗談と受け取った男は、喉から息を吐くような声を出す。


「なんだよ、勝手に消えたって」

「そのままの意味。まず小さい頃に死んだ王の肖像画がないのは何故だと思う?」

「そりゃ、肖像画描く前に死んじまったとかじゃねぇの?」

「正解。多分夭逝した王は全員、肖像画を描いてもらう条件が揃っていなかった」

「条件?」


 理解出来ずに目を瞬かせるカレードに、アリトラは部屋の奥を指さした。


「十八歳で即位して二十歳で殺された悲嘆王の肖像画はないのに、十七歳で即位して三十歳で処刑された翡翠王の肖像画はある。しかも随分若い時に描いたみたい」

「あれは即位の時に描かれたらしいよ」


 リコリーがそう説明する。アリトラは「やっぱり」と頷きながら言った。


「悲嘆王は結婚式の日に殺された。つまりそれまで、少なくとも正統な跡継ぎになる子供はいなかったと考えられる。でも翡翠王が処刑された時に、一番大きな息子は十五歳だった。つまり、即位したときには跡継ぎがいたってこと」

「子供がいると肖像画を描くってこと?」


 片割れが何を言っているのか、漸く理解したリコリーが問う。ヴァンとミソギも同じ答えに辿り着いたようだったが、双子の会話に入りにくいのか口を閉じていた。


「中期に作られた矛盾陣の額縁が、ずっと使われていたなんて変でしょ? あれはずっと、「次の王様のため」に使われていた物だと思う。王家の血を絶やさないために使われた、所謂避難装置として」

「避難装置……」


 リコリーは謁見室の中を見て、そして先ほど投げかけられた質問を思い出す。

 窓がない、一つしか出入口を持たない部屋。扉を閉めてしまえば密室と化す。


「この部屋がシェルターのような役割を持っていたってこと?」

「それだけじゃ不十分。次の王様を守るためには、どこかに逃げるための出口がないとね。例えば此処に王様の子供が逃げ込んだとする。追いかけて来た人は、その子を引きずり出そうとして……どうすると思う?」

「扉を叩くよね。そこしか出入口がないし」

「そうなると、部屋に衝撃が伝わる。額縁がそれを察知して、「逃げ道」を作り出す。そういう避難装置なんだと思う」


 怪盗は額縁の謎を解き、それが正しいか確かめようとした。

 予告を出せば、刑務部は厳戒態勢を敷く。変装されるのを避けるためにいつもは開け放たれている特別展示室の扉を閉ざして、密室状態を作り出す。そこに魔法陣で衝撃を与えれば、額縁に仕込まれた「装置」が動き出す。

 それが狙いだったと考えられた。


「人がいないと発動しないかもしれないから、予告状を出したんだと思う。「滅びし国の象徴」をリコリーは革命時のことだと考えたみたいだけど、怪盗は違う意味で書いている。この装置が使われるような状況下は国が傾きつつある証拠。だから、あんな表現を用いた」

「でも矛盾陣を使い続けたのは?」

「恐らく、「知的テロ」の一つだ」


 ヴァンが腕組みをしたまま呟いた。リンデスターの矛盾陣の成り立ちを説明した上で、自分の考えを重ねる。


「王族の大事な避難経路に矛盾陣を使うことで、「ほら困るでしょう? だから早く魔法陣の仕組みを統一しましょう」とか持ち掛けたのかもしれない。そのまま王家が使い続けたのは、却って他の連中に解読されることがない、という安心感からかもな。元々あの額縁に使われていた矛盾陣は「王の肖像を守るため」ということだったが、実際には「次の王を守るため」だったということだ。……それで、セルバドスの妹。額縁が消えたのは「避難装置」のためなのか?」

「発動した後に見えなくなっちゃえば、他の人には操作出来ないでしょ? 多分、今は見えない状態になっているだけ。人がいなくなれば、また見えるようになると思う」

「おい、ちょっと待て」


 殆ど置いてけぼりになっていたカレードが口を挟んだ。


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