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anithing+ /双子は推理する  作者: 淡島かりす
+Dolphin[イルカ]
234/267

4-7.突然の爆音

「以上を持ちましてショーは終了となります。館内にはまだまだ沢山の魚や海の生き物が展示されております。どうぞ、引き続き……」


 恐らく「お楽しみください」と続く筈だった言葉は、突然大きな音がドームに響いたことで掻き消された。風船が割れるような破裂音が何重にも重なり、ドーム中に反響する。

 反射神経の良いアリトラはリコリーの手を引っ張ってその場にしゃがみ込ませた。


「な、何……」

「耳!」


 両耳を塞ぐように指示されたリコリーは、慌ててそれに従った。指の隙間から聞こえてくる音は非常に大きく、それに混じってスタッフの女性が「落ち着いてください」と呼び掛けているのが聞こえた。

 二分ほど音は続き、やがて元通り静かになる。それを待っていたかのように、外から別のスタッフが数人駆けこんできた。


「何があった?」

「急に大きな音がして……火災用の警報とも違うから、音響魔法じゃないかと思うんですけど」


 女性スタッフは耳を抑えながら、少々イントネーションが崩れた言葉で返す。その後も何か言ったようだったが、距離があるリコリー達には聞こえなかった。


「音響魔法? ショーで使ったやつか?」


 年嵩のスタッフは怪訝そうに言いながら、視線を水槽に向けた。

 ハシバミ色の瞳をそこで何度か瞬かせる。瞳に映る水槽の中には、何も動いていなかった。


「イルカは?」

「透明になっているのでは? 確か危険を察知すると透過するんですよね?」

「あぁ、そうか……」


 他のスタッフ達は招待客一人一人に声をかけ、安否を確認する。

 いずれも突然のことに驚いてはいたが、怪我などを負った者はいなかった。


「びっくりしたね、リコリー」

「そうだね、アリトラ」


 双子は立ち上がると、他の客たちを見た。

 入口側に立っていた恰幅の良い男、ギレンスは耳の穴に指を突っ込んで、中を掻く仕草をしている。視線は水槽に向けられていたが、他に見るものがないので仕方なくそうしているように見えた。


 そこから少し離れた場所で、二人連れの女性、セレンとエレナは既に回復していた。口々に何か言いながらドームの頂点を指さしている。今の音の正体が気になっているようだった。

 彼女たちのすぐ近くにいる車椅子の老婆ミゼットは、スポンサーであるためかスタッフ達に殊更丁重に扱われていた。だがそれが気に入らないのか、しかめ面で黙り込んだまま耳を押さえていた。

 逆に老婆の連れのジョルジュは大袈裟に耳の痛みを訴えていた。だが声量も発音も極めて正常であり、本人が言うほど強いダメージはないのがわかる。


 水槽のすぐ近くにいた画家のビッツは、他の面々と違う意味で困った表情を浮かべていた。まだ描きかけのスケッチブックを抱えて、何も見えない水槽を見つめている。イルカのデッサンが中断してしまったことを惜しんでいるようで、手に持った鉛筆でスケッチブックの側面を叩いていた。


「何だろうね、今の音」

「設備不良って感じではなかったけど……」


 リコリーはドームの中を見回すが、特にどこかが破損している様子はなかった。魔法を使えば、今の音が物理的な物か魔法によるものかはわかるが、下手をすれば自分に疑いがかかりそうなので、ただ黙って観察する。


「何だ何だ、今の音は」


 双子の後ろにあった小部屋の扉が開いて、白いスーツの老人が飛び込んできた。女性スタッフが今起こったことを説明したうえで、水槽へ手を向ける。


「びっくりしたのか、イルカが見えなくなってしまったんです」

「何? それはいけない。もしかしたら失神などしている可能性がある。イルカは耳がいいからな」


 ジェストは踵を返すと、もう一度小部屋の方へ向かう。呼び止めるスタッフを振り返りもせず、ドーム中に響く大声で返した。


「こういう時のために特殊な光線で透明になったイルカを見ることが出来る魔法陣を用意しているのだよ。今から動かすから、君たちは水槽を見ていたまえ!」


 小部屋の扉が閉まってから数十秒後、ドームの一部に白い光を持った魔法陣が浮かび上がった。複雑な紋様が描かれた中心から、柔らかな青い光が水槽に照射される。

 部屋にいた全員の視線が水槽の中へ向けられた。青い光によって、水槽の中はまるで海の中のように深い色を帯びる。中で揺らめく海藻も、さきほどまでとは全く別のもののように見えた。


「いない」


 誰かがそう呟いた。

 水槽の中にはただ海藻が揺らめいているだけで、そこにイルカの姿を見つけることは出来なかった。


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