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anithing+ /双子は推理する  作者: 淡島かりす
+GrimReaper[死神]
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9-36.明日のための宴

 セルバドス家のリビングには大きなテーブルが設置され、思いつく限りの料理と、集められるだけの飲み物が並べられていた。

 皿に食べ物を盛りつけて各々が好きな場所で食事をするパーティスタイルで、双子とロンギークは部屋の隅でボード遊びに興じている。ソファーではゼノとルノの軍人二人が、カルナシオンに次々と酒を飲ませていた。


「あの、二人とも飲みすぎでは」

「カンティネス、お前制御機関戻らないのかー? バドラスのことが吹っ切れたなら、喫茶店続けなくてもいいだろー?」


 ルノがグラスに酒を注ぎながら、呂律の回らない口で言う。


「制御機関が嫌なら軍に来てもいいぞ。お前なら歓迎する」

「兄上、それはお菓子じゃなくて煙草だ」


 一見素面だが十分に酔っているゼノは、先ほどから何度もカルナシオンの背中を叩いては同じことを繰り返していた。


「いいんです。別に今更制御機関に戻る理由もないし。それにアリトラの職場が無くなりますよ」

「いいんだよ、アリトラはー。あいつ自分でどうにかするってー」

「それは確かに」

「酒足りてないんじゃないか。私が入れてやろう」

「兄上、だからそれは酒じゃなくてドレッシングだって」


 騒がしい二人を遠くで眺めるのは、テーブルを挟んで反対側の椅子に腰かけたシノだった。


「楽しそうねぇ」

「あの二人はカンティネスを気に入っているからね、昔から。はい、ワインだよ」

「ありがとう、リノお兄様」


 ワインを妹に手渡したリノは、自分も同じ銘柄のものを口に運ぶ。


「今日は疲れただろう」

「一周回って、今は元気ね。魔力は使い切ってるのに」

「早めに休んだ方がいい。ところで、どうしてこの家には幻獣がいるんだろう?」


 リノは双子達の足元にいる白い幻獣を指さした。眠っているのか、可愛らしい柄のブランケットを被って横になっている。


「よくわからないけど、餌を貰いに来るのよ」

「そんな野良猫みたいな感じで来るだろうか、普通……?」

「勝手に来る分には追い払えないし、まぁ双子も気に入ってるみたいだから。研究材料にはしないでね」

「専門外だ。ちょっと水を貰って来よう」


 リノはリビングに続いているキッチンの方に向かう。そこではホースルが一人、洗い物を片付けていた。


「向こうに行かないのか」

「今日は俺は何もしてませんから。お義兄さん達が酔いつぶれたら運ばなきゃいけませんし」

「あぁ。確かにあれは危険だな」


 長兄と次兄の醜態を目に浮かべ、リノはぼんやりと呟く。


「どうしました? 何か足らないものでも?」

「水を貰いに」

「もう出してますよ」

「そうか」


 リノは手に持ったままのグラスを傾けてワインを喉に流し込む。セルバドス家の人間は酒に強くないが、リノはまだ兄達に比べると自分の適量を知っていた。


「《《お前がボクに言った通り》》、アリトラの吹き飛んだ軌道がおかしかった」

「そうですか」

「どうしてわかった?」

「何となくですよ。皆は爆破された店しか見てなくても、吹き飛ばされたのは俺の娘ですからね」


 一度洗い物を中断して、ホースルは濡れた手をタオルで拭う。リビングと同じ照明がついているのに、妙に薄暗い。リノは酒で緩んだ目でホースルを見ながら、幾度となく聞いてきた言葉を口にする。


「お前は何者だ?」


 ホースルはゆっくりと視線をリノに合わせた。その口元に浮かんだ笑みは、いつも見る物とは少し違っていた。


「ただの商人ですよ」


 リノはその顔を黙って見つめる。しかし暫くすると頭を何度か振り、グラスの中の残りを一気に飲み干した。


「やめた。ボクは他人のことを考えるように出来ていないんだ」

「お水飲んで下さいね。三人同時に倒れられたら厄介です」


 返事にもならない声を出し、リノはキッチンを後にする。

 ホースルはふらつく背中を心配そうに見ていたが、ふと足元に白い物体が近付いてきたのに気付き、視線を向ける。


『どうした、白い毛玉』

『誰が毛玉だ。向こうは酒臭くて適わん。こちらで寝る』


 口に咥えたブランケットを床に置き、幻獣はそこを次の寝床に決めたようだった。


『今の人間はお前が何か知っているのか』

『人間でないことぐらいは、そのうち気付くかもしれないな』

『そうしたら消すか』


 幻獣の言葉に、ホースルは首の動きだけで否定を返す。


『別に私に危害があるわけではない』

『優しいことだ。後悔しても知らないぞ』

『黙れ、毛玉』


 少し経ってから、ホースルがいないことに気付いた双子がキッチンを覗き込んだ。いつものように、リコリーのほうが先に口を開く。


「父ちゃん、こっち来ないの?」

「一緒に食べよう。マスターの持って来たトマトペーストが絶品」

「今行くよ。明日の献立を考えていてね」


 ホースルは子供達のほうへ近付くと、優しい口調で尋ねた。


「何が食べたい?」


 双子は示し合わせたかのように同時に笑顔になると、声を揃える。それは何度もこの家で繰り返され、その度にホースルを幸福な気持ちにする言葉だった。


「父ちゃんが作った料理なら何でも!」


第二部 完

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