表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
anithing+ /双子は推理する  作者: 淡島かりす
+GrimReaper[死神]
191/267

9-35.明日のための帰路

 夜になって中央区に戻ってきたミソギを駅で出迎えたのは、カレードだった。いつからいたのかわからないが、金髪には雪が浅く積もっていた。


「ワナ高原への旅はどうだったよ、疾剣」


 カレードが冗談っぽく言う。


「寒い。遊牧民が冬にはいなくなる理由がよくわかるよ」

「ハリまで出ちゃえば、そんなに寒くないんだけどな。だから俺も冬には墓参りしねぇし」

「あぁ、また行くなら今度こそちゃんと外出届出してね」


 二人で軍の基地へ足を向ける。昼過ぎに大騒ぎがあったにも関わらず、街は穏やかな空気が流れていた。


「お前が中央学院に行くとは思わなかったよ」

「双子ちゃんだけじゃなぁ。いつもと違って七番目の気配もなかったし。お前、何か取引したのか?」

「そういうところは賢いね。ちょっとだけ手を引いてもらったんだよ」

「ふーん。まぁ向こうに行って良かったぜ。わかったこともあるし」


 カレードの金髪にはバドラスの返り血がわずかにだが付着していた。夜の暗さで分かりにくいが、街灯の下を通るとそこだけが深い色に変わる。

 ミソギはそれを見ながら、相手の言葉を鸚鵡返しした。


「わかったこと?」

「お前が言っただろ。五年経ってるって」

「言ったね」

「俺はまだ、スイのつもりだったんだよ。此処には、ディードの野郎を殺すためにいるだけ。カレードって名前も、変に周りに過去を探られないようにするため」


 雪の降る中、カレードはかつて過ごした高原を思い出しながら言葉を続ける。白い雲の間から零れる太陽。緑の草原に佇む女が手を振っている。そこに帰れないまま、五年経ってしまった。


「マーナを護れなかったのが悔しかった。でもいくら強くなってもマーナはもういないし、あの高原に俺の居場所もない。どっかでわかってたんだろうな」

「その感覚は理解出来るよ。俺も強くなりたくて故郷を出たからね」

「スイという名前に未練がないわけでも、マーナのことを忘れたわけでもない。でも五年の間に俺はカレードって人間に変わった。だから俺は双子ちゃんを追いかけた」


 ミソギはその言葉を聞いた後、小さく笑った。馬鹿にされたと思ったカレードが眉間に皺を寄せる。


「なんだよ」

「いや、別に。なんか今のお前は生きてる感じがするよ」

「俺は死んでねぇぞ」

「知ってるさ」


 基地まではまだ少し距離がある。ミソギは視線を前に向けたまま、もう一度微笑を浮かべた。


「ディードのこと、聞かないんだね」

「今はどうでもいいや。それよりさー、酒飲みに行こうぜ」

「馬鹿。報告書が先だよ」


 ミソギはあっさりと却下したが、数歩歩いてから「でも」と言い直した。


「明日ならいいよ」

「あ、言ったな。絶対覚えておくからな」

「その代り、今日は報告書書き終わるまで付き合ってもらうからね」


 明日からはまた日常が戻ってくる。二人はそんな確信と共に、残りの帰路を歩き続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ