9-26.車中の会話
遠くで爆撃のような音がした。古戦場跡地の方角であるが、まだ軍用列車は到着まで時間があるはずだった。十分前の分岐点で後部車両を切り離し、今は一車両で国境方面へ向かっている。
分岐点で十三剣士の半分が古戦場跡地へ向かい、代わりに制御機関の魔法使い達が前部車両に移ったため、妙な緊張感が場を制していた。
「……カルナシオン・カンティネス」
その中でミソギが呟くと、後ろに座った女がそれを聞き止める。
「今の音が、彼のだと言いたいの」
少しイントネーションが崩れているのは、彼女がフィンの出身でないためだった。
「バドラスに対する恨みを持っていて、制御機関や軍より早く到達出来るのは彼ぐらいだね」
「公共機関ならね」
「どういう意味だい?」
女剣士は軽く肩を竦めた。
「セルバドス准将が戦車を買ったんだって、さっき」
「はぁ?」
戦車を買ってどうするのか、と聞き返しかけてミソギは一つの可能性に行きつく。カルナシオンを後から追い抜かすには、雪道など構わず突き進み、規定の道すらも無視する「道具」が必要である。
「嘘だろ。いくらかかるんだよ」
「確かに名門ではあるけど富豪ってわけでもないし、気になるね。でもあの准将が後ろ暗いお金、使うとも思えない」
「でも戦車を買うって只事じゃないよ。個人が所有するのは……」
「禁じる法律、ないよ。それに武器ユニット全部潰しちゃえば、個性的な乗り物にしかならないし」
女もミソギと同じ予想をしているようだった。座席の後ろで含み笑いをする気配がする。
「……セルバドス家の人間は揃いも揃って「お人好し」か。良く言ったもんだね」
ミソギは溜息をつくと、車両の外に目を向けた。国境軍の要塞が雪の向こうに見える。要塞はワナ高原の一角にあるが、そこから地図の場所に行くには大きな川を越える必要がある。万一、橋を渡る最中に攻撃をされないとも限らない。そのため、要塞から少し手前に降りて移動することになっていた。
「長剣、大剣が俺達の動向を悟ったら追いつけると思うかい?」
「珍しい。ミソギ、あまりそういうこと聞かないのに。でもそうだね、不可能ではないよ。ワナ高原は北区を横断するように広がってる。私達、地の利がないからこうして列車に乗ってる。けど大剣なら北区まで来れば、あとはソリでも使って辿り着けるかも」
ミソギが黙り込んでしまうと、その背もたれを女剣士が軽く蹴り飛ばした。
「もうすぐ着く。大剣がいてもいなくても、私たちのやること、一緒」
「わかってるよ。別に憂鬱になったわけでも後悔しているわけでもない。ただ、北区って想像以上に寒そうだなって思っただけだよ」
遠くの景色が雪で隠されて見えない。白い世界へ列車が飲み込まれていくような感覚に、ミソギは背筋が冷たくなるのを感じた。