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anithing+ /双子は推理する  作者: 淡島かりす
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8-18.商談室の出来事

「二人が似た魔法陣を作った。そしてそれぞれ相手を殺すつもりで、此処に持って来た。商談室を殺害現場に選んだのは、展示会で商談室が使われることが滅多にないことをお互いに知っていたため」


 アリトラは天井を指さしながら言った。リコリーはそれを目で追いながら言葉を繋げる。


「商談室に行く最大の理由は、勿論契約を結ぶ時だね」

「出店者でなかった被害者が、契約主になることはあり得ない。ということは契約する側であったことは明白。でもそうなると、一つ矛盾が生じる。それが……」

「財布の青いリボン」


 双子は同時にその単語を口にした。


「契約をするつもりなら、青いリボンを外したはず。でもリボンは外さなかった。なのに商談室にいた。これが導き出す答えは一つ」

「被害者は契約を結ぶ気なんかなかった。そういうことだよね?」

「契約書は書くけど、それは金儲けのためじゃない。だからリボンを解かなかった。被害者は加害者を殺そうとしていた。だからその契約書がただの紙切れになることがわかってた」


 被害者はその契約が無意味だと知っていた。それは自分が死ぬからではない。自分が契約主を殺すつもりだったからである。

 そんなもののために験担ぎをすべきではないと思ったのか、あるいは無意識のうちにそうしたかは定かではない。語るべき人間の顔は切り裂かれている。


「アタシが考えるに、被害者は加害者を商談室に呼び出すために、事前に話を持ち掛けていたんだと思う。その内容が何かは知らないけど、多分加害者の商売に一枚噛ませろ、的なものだったんじゃないかな」

「事前に話を持ち掛けたから、二人とも魔法陣を用意出来ていた。被害者は照明管の中に魔法陣を仕込んだけど、これを加害者に取らせるつもりだったんだよね?」

「うん。契約書を書いている時に「明かりが暗い」とでも言って、加害者に照明管を取り外させるつもりだった。照明管の付け替え自体は誰でも可能」


 照明管についている接続用の金具は非常に外れやすくなっていた。免許を有している被害者が魔法陣を管の中に入れたとして、金具を締め損ねるとは考えにくい。となると、それは被害者によって故意に細工されていた可能性がある。


「此処で思い出して欲しいのは、カレードさんがリコリーを呼んだ時の証言」

「商談室から紙が擦れるような音がした。ラミオン軍曹はそう言ってた。僕は最初、照明用魔法陣に紙が巻きつけてあって、それが剥離したんじゃないかと思ってたけど、そう考えると不可解なことがある」


 中に仕込んであった魔法陣は、細く強く巻かれていた。指を話すとすぐに丸まってしまうほどに。もしそれが本当に、照明用の魔法陣に巻き付いていたのであれば、自然に離れるとは思えなかった。


「紙の端を照明用魔法陣に巻き付けておいて、もう一方を接続用の金具と管の間に挟み込んでおく。魔法陣は一つの角だけ、小さく外側に折られていた。あれがストッパーの役目をしていたんだろうね。管と金具の間に隙間がある状態だから、照明管を外そうとすると金具だけ回ってしまう。すると金具と一緒に紙が回って……」

「魔法陣発動。そんな筋書かな。でも結局その魔法陣は使われないまま放置されて、ストッパとなってた折り目が外れた。だから紙が管の中で丸まった。カレードさんが気付かなかったら、今度は緩んだ管が落ちてたかもね」


 アリトラはそこまで言い終わると小首を傾げた。


「でも実際には加害者が仕込んだ魔法陣によって殺された。その時の状況について、気になることがある」

「椅子に返り血が飛んでいたことだよね?」

「被害者は契約書を書きこんでいた時に魔法陣が発動して死んだ。普通、契約書は立ったまま書かない。なのにどうして返り血が椅子の上にもあったのか」

「あれ? それわかってなかったの?」


 リコリーが意外そうに聞き返す。最初に魔法陣の話を持ち出した片割れが、今更そんな疑問を提示するのが信じられないと言いたげな表情だった。


「じゃあリコリーはわかるの?」

「わかるも何も……被害者は椅子になんか座ってなかったんだよ」

「何で言い切れる?」

「いいかい、アリトラ。二つの魔法陣は同じものを改造したんだよ。だから動きはそっくりなんだ。なのにラミオン軍曹の傷は右から左、被害者の傷は上から下だった。被害者が同じ魔法陣を真正面から覗き込んだなら、右頬から左頬にかけて傷が出来たはずだ」


 流暢に説明をするリコリーだが、元々口が回るタイプではないので早口にはならない。そのおかげでアリトラは、片割れの言いたいことをすぐに理解することが出来た。


「ということは……契約書が置かれている右側に立って、契約書を捲った?」

「恐らく加害者は被害者と商談室に入った後に、契約書だけおいてすぐに出て行った。被害者は、魔法陣が仕込んであるために光っている契約書が気になって、立ったまま捲った。そんなところじゃないかな」

「でも加害者はどうしてすぐに出て行ったのか。すぐにいなくなったら不審に思われるんじゃないの」


 アリトラはそう言ったが、すぐに自分の中で答えを見つけると明るい表情に変わった。


「ペンを取りに行った?」

「そうだと思う。部屋にペンの類は落ちていなかったし、被害者が手に何かを持っていた様子はなかった。「ペンを忘れたから取りに行ってくるよ。すぐに戻るから」とか言えば自然だしね」

「それを待つ間に被害者は死んだ。加害者は後から戻ってきて、契約書を回収した」


 双子は互いに顔を見合わせると、揃って溜息をつく。その表情は、特に動き回ったわけでもないのに疲れ切っていた。


「なんでこんな面倒くさい殺し方するんだろう」

「アタシに聞かれても知らない。でも、同じ日に同じような殺し方を考える二人なんだし、加害者の動機を聞けば被害者の動機もわかりそうじゃない?」


 肩を竦めたアリトラに、リコリーも頷いて同意を示した。

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