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anithing+ /双子は推理する  作者: 淡島かりす
+ImaginaryBeast[幻獣]
136/267

7-11.幻獣の思惑

 数日後、ホースルは新聞を読みながら朝の珈琲を味わっていた。

 妻と子供は仕事に行ってしまい、静かな空気が漂っている。慰霊祭まであと三日を切り、駅の周りなどは賑やかであるが、セルバドス家のある場所は閑静な住宅街であるため、平素から変わらない。


「あれ、捕まったんだ。飾りに爆発物を仕掛けた犯人」


 新聞には、商店街の飾りに爆発魔法陣を仕込んだ男が逮捕されたと報じていた。犯人は去年の慰霊祭に灯篭を出していたが、「非常に危険な作りである」ことを理由に失格となっており、その逆恨みによる犯行だった。

 祭当日に、自分の灯篭をわざと蛇行浮遊させて飾りを切り落とし、地面に落下させて爆発を促す。そして祭の参加者たちをパニックに陥れるのが狙いだったらしい。

 新聞には困惑を隠しきれない表情のライツィとロンギークが、感謝状を持って写真に写っている。双子がその二人に説明を押し付けたことを、ホースルはその日の夕食の時に聞かされていた。


「まぁ、それはいいんだけど……」


 新聞から目を離したホースルは、足元に横たわる大きな白い毛皮を見下ろす。


『お前は何故、此処に餌を貰いに来るんだ。仮にもナ族の高名な者だろう』

『私は貴様の子供が気に入った。私のことを理解してくれるとは、シ族の子供としては上出来だ。なので偶に顔を出すことにする』

『ふざけるな。森に帰れ』


 幻獣が顔を出すようになって双子は大喜びだったが、ホースルはそのせいで機嫌が悪かった。

 足でその白い毛皮を軽く蹴るが、幻獣は涼しい表情で尻尾を揺らす。


『帰ってもいいぞ。シ族のところに赴き、リンが此処にいると伝えてくるおまけつきだ』

『伝えても良いぞ、五体満足で帰れる自信があるならな』

『そういうことをしなければ、私だって大人しくしている。餌代を寄越せというなら、私の毛を一房持っていくが良い。人間どもが喜んで高値で買い取るだろう』


 ホースルは舌打ちして、新聞をテーブルに置いた。


『ソル』

『なんだ。ミルクはぬるめが良い』

『泥水でも舐めてろ。外には雪が豊富だ。そうではなく、お前の冠名を聞かせてもらおうか』


 幻獣は寝そべったまま、視線だけをホースルに向けた。


『イーティラだ。イーティラ・ナ・ソル』


 それを聞いたホースルは、眉を持ち上げる仕草をした。この国に来たばかりの頃に読んだ、アーシア大陸に伝わる「創世記」の内容を思い出し、口角を歪める。


 ――マズルはその獣に身上を尋ねた。獣はその白き頭と白き体、白き足と尾でもって、マズルを祝福した。マズルはその獣をイーティラと呼び、良き友として傍に置いた。


『なるほど。我が兄の「良きイーティラ」か』

『そうだ。まぁ仲良くやろうではないか、マズルの弟よ』

『断固として断る。腹が膨れたなら出て行け』


 冷たく言い切って、ホースルは椅子から立ち上がる。空になったマグカップだけを持ち、キッチンの方へと消えて行った。

 残された幻獣は大欠伸をして、再び視線を伏せる。暖炉は暖かく、手入れされた絨毯は心地よい。双子がくれたブランケットも、幻獣の睡眠導入に一役買っていた。

 微睡む幻獣の上では、テーブルに取り残された新聞が広げられたまま、ライツィとロンギークの写真を晒している。その写真がいずれ一つの騒動を起こすことを、その時は誰も知らなかった。


END

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