表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
anithing+ /双子は推理する  作者: 淡島かりす
+ImaginaryBeast[幻獣]
130/267

7-5.昨夜のこと

「で、飾りのことでいいのか?」

「うん、よろしく」

「この商店街の街灯に下がっている飾りが、全て引きちぎられた。千切られた飾りは地面に落ちていて、街灯にぶら下がっていた残骸には、爪痕のようなものが残っていた」

「それは全ての飾りで確認できたの?」


 リコリーが問うと、ライツィは首を振る。


「商店街の入り口……マズナルク駅広場に接している街灯のもので確認したけど、他はついてないみたいだ。まぁ全部確認したわけじゃないけどな。エルカラムのマスターも、顔を近づけてみないとわからない程度の傷って言ってたし」

「飾りは高いところにあるんだっけ?」

「んー……まぁ高い場所だな。ホースルさんとか、あの金髪の軍人さんだったら届くかもしれないけど、それでも下の方しか千切れないと思うぞ。それに飾りは小さな灯篭を糸で連結していたのに、糸ごと切れてたからな。人が手を伸ばして千切り取ったのとは違う」


 ライツィは製図紙を押さえて、リコリーの作業を見守りながら言葉を繋げる。


「飾りは、この時期になると問屋で売られているもので、商店街では商工会費でまとめて購入している」

「去年のものとかは使わないの?」

「古いのを保管しておくほど、高いもんでもないしなぁ。あれを沢山吊るした商店街のほうが栄えてるように見えるし、そんなケチケチした真似はしてねぇよ」

「街灯にひっかけて飾ってるんだよね? あ、そっちの定規取って」

「はいよ。まぁ、基本は脚立だな。商店街の飾りつけ用にでかい脚立があるんだよ。それを使って取り付ける」


 リコリーは定規で幾何学模様を描きながら話を聞いていたが、あまり話に集中すると魔法陣の方が疎かになってしまうため、少し手を休めては、また描くことを繰り返していた。

 魔法陣を一人で描くのは、一介の魔法使いでは出来ない。制御機関の採用試験で課題として出されるほど、高度な技術と見做されている。

 制御機関の人間であれば魔法陣を一人で作るだけの能力はあるが、新人は魔法陣を自分で作る機会がなく、そして作らなくとも業務に支障はないので、すぐに忘れてしまう者が多い。

 リコリーは様々な事情により、魔法陣の研究には余念がなかったが、際立って優れているというわけでもなかった。


「昨日はアカデミーの天気予報で、雪になるのがわかってたから昼間のうちに飾りつけしたんだよ」

「昨日? じゃあ飾りつけしたばっかりだったんだ」

「あぁ。ったく、飾りは安いからいいとして、天気がよくないと飾りつけに時間がかかるからなぁ。あの脚立、デカイから出し入れ面倒くせぇんだよ」


 溜息をつくライツィに、アリトラが疑問符を投げかけた。


「飾りつけは皆でやったの?」

「あぁ。雪の予報があったから、皆で早いところ済ませちまおうって声をかけてな」

「誰が何処を飾り付けるとかは?」

「大体、自分の店の前にある街灯は自分でやるけど、年寄りしかいない店とかもあるから、そのあたりは適当だ。飾りだって、まとめて置いてあるのを、好きなように持って行っただけだから、特に決まり事はねぇよ」


 飾りに差異はなく、飾られたのも同じ日だとすると、どれか一つの街灯か飾りが特殊であったとは考えにくい。

 アリトラは、そのどれかを探すために一つずつ引きちぎった、という仮説を持っていたのだが、その可能性が低いことがわかると、少々落胆した。


「あの飾りが壊れて、得をする人とかいないの?」

「そんなのいない、いない。もし、この商店街を恨んでる奴の犯行だったとしたら、もっと派手なやり方があるだろ。火を点けたりとか、落書きするとか」

「確かに」

「正直、一個だけだったら不思議でもなんでもないからな。元々、あの飾りって脆く作られてるし」

「え、そうなの?」


 アリトラが驚くと、リコリーがそれに補足をした。


「祭当日に灯篭が沢山浮かぶだろ。前に灯篭と飾りが絡まって、魔法陣が暴走しちゃったことがあるんだ。だから、あの飾りを繋いでいる糸は、子供の力でも引きちぎれるようになってるんだよ」

「じゃあ窓から飾りが届く家の子供が、引きちぎっちゃって、それを誤魔化すために全部引きちぎった……とか」


 ふと思いついた仮説を口にしたアリトラだったが、すぐにライツィの否定が重ねられる。


「窓の近くに街灯がない家の方が多い。それに窓があったとして、夜中に雪の降る中を外に出て、余所の家に入って飾りを引きちぎって回るとか、正気の沙汰じゃないぞ」

「だよね。……歩き回って?」


 昨晩は雪が降っていた。

 アリトラが幻獣を見つけた時に、裏庭には雪がうっすらと積もっていた。だが幻獣の体には少ししか雪がかかっていなかったし、庭に足跡も残っていなかった。

 つまり、幻獣は雪が降る前にセルバドス家に来た可能性が高い。


「さっき白い犬を見たって言った子」

「フレアがどうした?」

「その時、雪が降ってたかどうか言ってた?」

「そこまで聞いてないけど、なんでだ?」

「雪が積もっていたなら、幻獣の身の潔白を晴らせるかなって」

「どうしてアリトラが、見ず知らずの幻獣の身の潔白を晴らすんだよ」


 アリトラは自分の失言に気付いて、言葉を詰まらせる。どう誤魔化そうか考えていると、リコリーが助け舟を出した。


「ライチ! 一番ゲートから風魔法を送り込んで!」

「え?」

「早く!」

「わ、わかったよ。えーっと、風魔法だから……」


 ライツィが頭を悩ませながら魔法を発動する。リコリーはその様子を見守りつつ、一瞬だけアリトラに向かって咎めるような表情を浮かべた。アリトラは仕草だけで謝罪しつつ、話を切り替える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ