表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
anithing+ /双子は推理する  作者: 淡島かりす
+FirstCase[最初の事件]
117/267

6-1.中央区学院の日常

 フィン民主国は中央と東西南北の五区に分かれている。それぞれの区には国立学院が存在し、各区に暮らす子供達は六歳から十七歳までの間、学院に通うことが義務付けられている。

 中央区学院は、第五地区の半分を占めるほどの巨大な敷地を持ち、その門に通じる道路は、朝と夕方で大渋滞を起こすほとだった。

 魔法使いが大部分を占めるこの国では、子供達は当初は机を並べて魔法について勉強するが、大きくなるとそれぞれの特性に従ってクラスが分かれていく。

 中央区には、国の中心機関が多く集まっている影響もあって、魔法学に関するレベルは非常に高く、地方に比べると品行方正な生徒が多い。

 だが、勿論素行の悪い生徒も存在する。


「今、俺のこと睨んだだろ」


 広い敷地の中にいくつも存在する校舎のうちの一つ、その影で通りすがりの生徒に因縁をつけたのも、まさにその素行の悪い生徒の一人だった。


「に、睨んでないです」


 怯えながらも否定する少年は、平均より小柄な体に学院指定のローブを羽織っている。それは不良生徒も同じであるが、袖口の刺繍が互いに異なる。

 不良の方は赤と緑の二本ライン。十七歳の体術専攻クラスの証である。

 一方の小柄な少年は青と白と黄色の三本ライン。十五歳の魔法専攻特科クラスを示している。特科クラスには魔法が得意なことは無論のこと、学業が優秀な者しか入れない。その証拠として、少年のローブのフードには、成績優秀者に与えられる刺繍がいくつも縫い込まれていた。


「じゃあなんでこっち見たんだよ」

「な、なんとなく……。曲がり角にいたから」

「いたら悪いのか!?」

「ひぃっ!」


 体術専攻で体の大きい上級生相手に、少年は怯えて視線を泳がせる。

 しかし校舎の裏側に近い場所で、かつ昼休みともあって周囲に人はいない。秋も終盤となった裏庭にあるのは、大量の枯葉ばかりである。

 防御するかのように体の前で抱き込んだ分厚い学術書は、しかし相手に肩を思い切り小突かれた時に、あっさり手から離れた。

 地面に倒れ込んだ少年を、不良は馬鹿にしたように鼻で笑う。


「人の事を睨んだりするからだ」

「だから、目つきが悪いのは生まれつきで……」

「言い訳するんじゃねぇ!」


 不良が拳を振り上げる。

 少年が咄嗟に顔を庇おうとした時、それは起きた。一直線に二人に向かって来る足音。軽やかだが迷いはなく速い。


「暴力……反っ対ぃぃいいいっ!」


 そんな宣言が聞こえたかと思うと、不良は真横に吹き飛んだ。中途半端に拳を握っていたために、受け身を取る暇もない。

 顔に飛び蹴りを食らったのだと、不良自身が理解したのは、地面に倒れて数秒後のことだった。


「暴力は駄目ー!」


 新たに現れたのは、この国では珍しい青い髪を、ショートヘアにした少女だった。

 袖口の刺繍は青と白。フードには剣の刺繍が一つだけ入っている。

 パンの入った紙袋を体の前で抱えており、それが蹴りの遠因となっていた。


「アリトラのも暴力じゃないかな……」

「違う。アタシのはただの抗議」


 リコリー・セルバドスは、双子の妹であるアリトラの行動に疑問を感じたものの、すぐに否定されてしまった。

 不良は、自分を蹴り飛ばしたのが女であることがわかると、蹴られた顔を摩りながら立ち上がり、低い声を出す。


「なんだてめぇ」

「暴力を止めた善良な生徒」

「関係ない奴は引っ込んでろ!」

「関係は大アリだし、怒鳴るか殴るかしか能のない阿呆の言うことを聞く趣味はない」


 怖いもの知らずのアリトラは、眉一つ動かさずに言い放つ。

 傍で聞いているリコリーは気が気ではなかった。


「女だからって調子に乗ってると痛い目にあうぞ」

「へぇ、予言出来るんだ。すっごーい」


 これ以上ない平坦な口調に、不良は青筋を額に浮かばせた。

 リコリーを殴ろうとした時と同じフォームで、アリトラの間合いに入り、容赦なく顔面を狙う。

 だがアリトラは、左に跳躍して拳を避けると、相手の右足の脛を力一杯蹴り上げた。

 鈍い声を上げて、不良がその場に蹲る。アリトラはそれを冷たい目で見下ろしてから、呆れたように言った。


「アタシの片割れ苛めないでよね。いちいち面倒くさいんだから」


 そして、リコリーの方を向き直る。


「リコリーが遅いから、チキンサンド買ってきちゃったよ。早く行こう」

「あ、うん」


 リコリーは警戒するように不良を何度か振り返りながら、アリトラに続いてその場を離れた。

 十分に距離が出来たところで、大きく溜息をつく。


「あんまり危険なことしないでよ」

「だってリコリー、あのままだったら殴られてた。流石に顔面を殴られるのは可哀想だし、母ちゃんが心配する」

「だからって、お前が助ける必要はないんだけど……」

「じゃあ自分で魔法を使ってどうにかしたら?」


 リコリーはその言葉に首を横に振った。


「嫌だ。万一問題が起きた場合に、魔法を使って喧嘩したなんて露見したら将来が危うい」

「そういうところはしっかりしてるよね」

「ところで、今日は何処でご飯食べる?」

「第七演習場は?」

「いいね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ