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anithing+ /双子は推理する  作者: 淡島かりす
+Opera[歌劇]
116/267

5-14.静寂のカーテンコール

「遅くなってしまったな」


 劇場を出ると、辺りはすっかり夜の帳が下ろされて、街灯以外の明かりは殆ど見つけられなかった。

 劇場のライトアップも終わってしまったため、妙に物悲しい。


「それにしても、リノやルノの話を聞いても半信半疑だったが、お前たちが色んなことに首を突っ込むというのは本当だったんだな」


 呆れ顔でゼノが言うと、先を歩いていた双子はきょとんとした表情で振り返る。


「首は突っ込んでないですけど」

「目の前で変なこと起きてたら気になる」

「好奇心旺盛なのは結構だが、あまり目立つ真似は慎め」


 双子がジントを追及した時、ゼノは隣の個室でそれを聞いていた。楽しそうに謎を解く双子が頼もしい反面、どうにも危ないと思ったのも事実だった。

 少し前の失踪事件のように、何か妙なことに巻き込まれて、危険な目に遭うのではないかという懸念。そしてそれを誰にも止められないのではないかという予感がゼノにはあった。


「あの役者みたいに大人しい人間ばかりではないからな。逆上した奴に怪我でもさせられたらどうする。シノやホースルが悲しむぞ」

「大人しかったよね、あの人」


 アリトラが思い出したように言う。

 双子によって謎は暴かれたが、結局ジントに対して与えられる罪は器物破損罪程度と思われた。

 ナイフを取り換えたことについては微妙なところだが、直接の因果関係を立証することは不可能に近い。


「事故とは言え、今まで仲間だった人間を殺してしまったんだ。罪の意識はあるだろう」

「んー……」


 アリトラは首を傾げて唸るような声を出す。


「あの人、自殺だと思う」

「自殺?」


 尋ね返したのはリコリーだった。

 アリトラはそれに対して小さく一回頷いた、


「即死、だったんでしょ?」

「うん」

「だったら、あの悲鳴はなんだったのかなぁと思って」

「落ちた時の悲鳴じゃないの?」

「たかが二メートルぐらいの高さだし、それまで高い場所で演技していた人が、あんな絶叫みたいな悲鳴上げるとは思えない。それに暗くなってから悲鳴があがるまで、妙な間があった」


 暗い道を歩きながら、アリトラは考え込みながら持論を展開する。


「被害者は、落ちる時にジントさんに何をされたかわかっちゃったんじゃないかな。そして相手の台詞を奪うつもりが、自分の台詞を奪われたことに気が付いた」


 自分が蒔いた種とは言え、惨めな仕返しを受けた男は、暗闇の中で絶叫する。


「右手に何も付着していなかったのは、ナイフを自分で刺して、すぐに手を離したから」

「自分で胸を刺したって言いたいの?」

「暗闇でも、自分の胸の位置はわかる」


 彼は恥を掻く前に、自分で自分の人生に終止符を打ち「退場」した。舞台で死に、そしてジントに罪の意識を背負わせるために。


「考えすぎかな?」

「考えすぎだよ」


 リコリーはそう言ったが、あまり自信のない声だった。

 妙に物静かになってしまった双子を、後ろから見守っていたゼノは、わざとらしく音を立てて懐中時計の蓋を開く。


「まだこの時間なら開いているな。駅前の喫茶店で何か飲んでから帰ろう。双子も好きな物を頼むといい」


 そう言うと、二人は今しがたの空気が嘘のように、嬉しそうな声を上げた。


「駅前の珈琲店! 白菫荘?」

「確かそんな名前だった」

「そこのクッキー、とても美味しくて。まだ残っていたら頼んでいいですか?」

「好きにするといい」


 結局双子に厳しく出来ないあたり、ゼノも弟や妹と変わりがなかった。

 三人は他愛もない話をしながら、駅の方に足を進めていく。

 劇場は、まるで役者と共に死んでしまったかのように沈黙し、その背中を見つめていた。


END

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