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anithing+ /双子は推理する  作者: 淡島かりす
+Opera[歌劇]
113/267

5-11.舞台に隠された秘密


「もう一つ教えてください。メイさんは貴方に照明のことを尋ねたんですか?」

「あ、あぁ。どうしてすぐに照明を点けなかったのかと」

「彼女はディリスさんを恨んでいると聞いたのですが、その点については?」


 ゴルジは「うーん」と腕組をして、再び脂汗を滲ませる。


「恨んではいないと思う。いや、恨まなくなってきたというべきだろうか」

「どういう意味ですか」

「俺はメイさんが演じた時も知っているけど、どう贔屓目に見ても、メイさんのほうが上手いんだよ。ディリスさんはずっと男役をやっていたせいか、女性的な仕草が今一つでね。メイさんは歌を歌わずとも、王族の憂いが伝わるような、可憐な演技が出来るんだ」


 メイは最初は新人に役を取られたことを悔しがっていたが、ディリスが自分に及ばないとわかって、次第に機嫌がよくなっていったという。

 劇団のファン達からも、メイの方が良いという声が上がっており、却って彼女の人気が高まっているとのことだった。


「だから、メイさんはディリスさんを恨んでいないと思うよ。元々、ディリスさんは男装で人気が出ただけで、演技力や表現力は際立って高いと言うわけじゃなかったしね」

「そうなんですか?」

「かといって、ディリスさんが下手なわけじゃない。現に女性役も出来ることは今回の公演で証明された。あの二人に特にいがみ合う要素はないと思う」

「ふーん……」


 リコリーは考え込みながら、ゴルジと少しを距離を取り、精霊瓶を握りしめた。


「どう思う?」

「即興劇のために、一度舞台を暗転させる段取りになっていた。でもそれより早く暗転してしまった。でも役者達はそれは予定通りだと思ったはず」


 アリトラが確認するように言葉を切りながら言う。

 リコリーはそれに相槌を返した。


「となると、暗闇の中で被害者は予定通りの行動を起こそうとしたことになるよね?」

「うん。それで落下時に悲鳴を上げた。舞台セットに何か残ってるかな?」


 リコリーが城のセットの方に近づくと、アリトラが不満そうに声を出した。


「あんまり奥に行くと、聞こえないってば」

「へ?」


 舞台裏からセットの方に歩いたことで、寧ろリコリーは客席の方に近づいている。


「僕、舞台裏にいたんだけど」

「え? でもさっきはっきり聞こえたよ」


 リコリーは周囲を見回した。

 通信系魔法は、大気の振動を利用している。

 先ほど、照明用の小部屋にいた時には、その大気が壁で遮断されてしまうので、通信が出来なかった。

 ステージ上でも、緞帳が遮っていたから通信の精度が低くなっていると思っていた。だが、今の話では辻褄が合わない。


「ちょっと待って」


 その場で立ち止まり、四方を見回す。

 城のセット、舞台裏で呆けている照明係、死体があった場所に置かれた人型のロープ。降り注ぐ照明。そして、緞帳。


「アリトラ、その部屋を出て、左に向かってゆっくり歩いてくれる?」

「左?」

「うん。あまり早足は駄目だよ」


 アリトラが席を立つ音がして、何度か雑音が混じったが、やがて声がはっきり聞こえるようになった。


「あ、聞こえるようになったよ。リコリー」

「緞帳の遮断魔法が一箇所、おかしい」

「えーっと、アタシは出て左に行ったから……。舞台の左手の部分?」

「うん。でも、何処かな……」

「下だよ」


 明瞭に聞こえるようになった分、強さを持ったアリトラの声がリコリーの鼓膜を震わせた。


「リコリーから見て緞帳の右下の部分を調べて」

「え、なんで?」

「いいから」


 言われるがままに、リコリーは緞帳の方に向かった。

 総重量はかなりのものであろう分厚い緞帳は、裾の方に金色の房がつけられており、それらには若干埃が付着していた。リコリーはその房の一部が妙に弛んでいるのを見ると、手を伸ばす。

 刹那、後ろから声を掛けられて肩を跳ねた。


「リコリー、今度は何をしているんだ」

「伯父様。照明室の調査はもう良いのですか?」

「あぁ。他の者にも見てもらったが、どうも最初に駄目になった照明がこの上のやつだとわかったので、見に来たところだ」


 ゼノはリコリーが房に手を伸ばしているのを見つけると、眉を寄せた。


「それがどうかしたのか?」

「ここだけ他に比べて妙に出っ張ってないですか?」

「……中に何かあるな。慎重に見てみろ」

「はい」


 房を掻き分けると、黒い長方形の箱が隠れていた。

 どこかで見たようなそれに、リコリーは首を傾げる。


「これって……」

「ディナーボックスだな」

「あ、さっき食べたやつですか?」

「中を見てみろ」


 絡まった房を解いて、ディナーボックスを取り出す。

 横向きに隠されていたために具材は寄ってしまっていたが、内容物から考えて、一口も食べていないようだった。

 ハンバーグから立ち昇る湯気が、宙に霧散していく。


「勿体ない」

「しかし何故、こんな場所に……。何かのまじないか?」


 悩む伯父の横で、リコリーは上を見上げる。

 そこには照明が一つあり、その光の向かう先には、城のセットがあった。


「伯父様」

「なんだ」

「アリトラのところに一度戻りませんか? 少し相談したことがあるんです」


 静かに言うその口調は、その父親から受け継いだ、有無を言わせぬ響きがあった。

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