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anithing+ /双子は推理する  作者: 淡島かりす
+Opera[歌劇]
109/267

5-7.かつての天才

 冗談なのか本気なのかわからない口調でゼノが言う。

 魔法陣の研究は日進月歩で進化しているが、最新の技術が民間人に浸透するまでには年単位の時間がかかる。

 ガラスなどの媒体に魔法陣から出力した文字を表示するのは、リコリーが知る限りは半年前に試作品が出来たことぐらいだが、どうやらこの劇場では、それより前から同じ仕組みを使っているようだった。


「今の状態は……非常点灯、ですね」

「元々、普通の照明機器に魔法陣を描いて使っているようだ」

「じゃあ今は魔法を使っていないってことですか」

「そうなるな。少し調べたが、魔法陣間の干渉により、互いの魔法が打ち消されたようだ」

「照明同士の?」

「そこまでは調べていない。私は魔法陣は専門外だ。カンティネスじゃあるまいし、何でもかんでも出来るか」


 リコリーはガラスの横の壁に書かれた、出力用の魔法陣を確認しながら、その言葉に疑問を返す。


「リノ伯父様やルノ伯父様もそうですけど、マスターのことを随分評価してますよね?」

「奴は天才だからな」


 当然のことのようにゼノは言った。


「少なくとも私は、奴以上の魔法使いは見たことがない」

「そうは見えませんけど」

「お前は制御機関時代のカンティネスを知らないからだ」

「マスターって、どうして制御機関辞めたんですか? 母ちゃんも言ってるけど、最年少で刑務部のトップになる可能性もあったんでしょう?」


 ゼノはその疑問に対して、少し躊躇う様子を見せた。


「本人から聞け」

「聞いたけどはぐらかされちゃったんです。……あれ?」


 魔法陣を辿っていたリコリーは、ふとその手を止めると、ガラスの向こう側を見るように身を乗り出した。

 小部屋からはステージが見下ろせるようになっていて、下ろされた緞帳も殆ど全て目視の範囲にある。

 つまり、開演中であれば観客席も見える位置にあった。


「どうした」

「一つの照明が、外部の魔法干渉を受けて停止しています。それが引き金となって、残り全ての照明が停止。ということは照明魔法同士の干渉じゃない」

「別の魔法陣か?」

「だと思うんですけど……どれかな? 他にもいろいろあってわからないですね」


 その時、部屋の外にいた軍人が声を掛けた。


「照明担当のゴルジ・バンドレー氏が来ましたが」

「通してくれ」


 入ってきたのは、小太りの中年男だった。

 清潔な格好をしているが、顔には脂汗をかいている。


「貴殿がここの責任者だと聞いているが?」

「責任者と言いますか、まぁ、はい」

「停電になった時のことを教えてもらえるか?」

「は、はい」


 袖で汗を拭ってからゴルジが話し始める。

 緊張しているのか、少したどたどしかった。


「上演中は、俺は此処から一切動きません。あの時、停電した時には操作ミスでもしたかと思ったんですが、魔法陣自体が全く反応しなくなったんで、大慌てで非常灯に切り替えました」

「その時、舞台の方は見なかったか?」

「この部屋は非常時に備えて、魔法は使っていないんで、見ようとすれば見えたと思うんですが……何しろ夢中でしたから。シードラさんの悲鳴が聞こえた後に非常灯がついて、そこで初めて見たぐらいで」

「なるほど。主演女優のディリスについて何か知っているか?」


 はぁ、とゴルジは再び汗を拭う。


「ディリスさんがシードラさんを刺すとは、とてもとても……。逆なら兎に角として」

「それはどういう意味だ?」

「……ディリスさんは此処一年で一気に人気が出て、その分劇団の中では色々とやっかみを買っていたんです。特に、最近スキャンダルがあって人気が落ちていたシードラさんは、内心良い気がしなかったみたいでして」

「なるほど。リコリー、何か聞きたいことはあるか?」

「あ、えっと……」


 リコリーは魔法陣とガラスを指さした。


「貴方以外にこれを操作出来る人はいますか?」

「照明担当なら誰でも操作出来ますが、今日は俺しかいません」

「もし誰かが照明魔法を、開演前や幕間に動かしたとしたら、わかりますか?」

「そ、その場合は警報が鳴る仕組みです。さっきも言ったけど、俺は此処から動かなかったから、誰かがそんなことをしたら気付きますよ」

「そうですか。……ありがとうございます」


 ゴルジは心配そうに魔法陣を見る。

 外部の人間が下手に触って壊してしまうのを恐れているように見えた。


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