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anithing+ /双子は推理する  作者: 淡島かりす
+Opera[歌劇]
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5-1.ゼノ・セルバドス

 『マニ・エルカラム』の閉店時間を超えてから、従業員であるアリトラと、その雇い主のカルナシオンは外に出た。

 扉の施錠を行いながら、カルナシオンは建物を見上げる。

 時刻は既に夜の八時を回っていたが、窓には煌々と明かりがついていた。


「今日は随分遅くまで残ってるんだな」

「あれ、聞いてないの? 今日は自然魔力の供給魔法陣のメンテナンス。この前、壊れちゃったでしょ」

「あぁ、それでか。じゃあシノは帰れないな。リコリーもか?」

「リコリーは新人だから、泊まり込みはないって。でも遅くなるって言ってたから、まだ……」

「アリトラ」


 丁度制御機関から出て来たリコリーが声をかける。


「一緒に帰ろう」

「うん。今日は父ちゃんがシチュー作ってくれるって言ってたしね」


 相変わらず仲のよい双子を眺めていたカルナシオンだったが、ふと近くの気配に気付いて顔をあげた。


「あ……」


 近くの街灯の下に佇んでいたのは、口ひげを生やした体格の良い男だった。

 そろそろ雪も降り始める季節にも関わらず、シャツ一枚にスラックスを重ね、黒いコートは袖を通さずに肩にひっかけている。

 年齢はそろそろ六十近いが、鍛えられた体は若々しい。刈り込んだ黒髪は白髪が混じっており、青い瞳は眼光の鋭さを後押ししている。

 道の向こうから大股で歩いてきたその男は、カルナシオンの前で立ち止まった。


「久しぶりだな、カンティネス」


 堂々とした声に、カルナシオンは反射的に背筋を伸ばす。

 お互いの身長は変わらないはずだが、カルナシオンには相手のほうが倍近く大きいように思えた。


「お久しぶりです。珍しいですね、こんな場所に」

「全くだ。店は儲かっているのか」

「お陰様で」

「ふん。それは何よりだ。お前のような魔法使いが、みすみすその立場を捨てて喫茶店の店主なんかになっているのは腹立たしいが、経営不振よりはマシだろう」

「もう辞めてから五年経つんですが」

「五年経ってもお前以上の魔法使いが刑務部に現れていないことが問題だ。刑務部の質は明らかに落ちている」

「はぁ」

「気の抜けた返事をするな!」

「はい!」


 怒鳴られたカルナシオンは咄嗟に背筋を伸ばす。その姿はまるで新人の制御機関局員のようでもあった。

 昔から、この厳格な男が苦手なカルナシオンは、下手に話が長引くことを恐れて、速攻で話題を変える。


「シノに会いに来たんですか?」

「いや、双子を迎えに来た」


 二人のやり取りを眺めていた双子が、きょとんとした顔になる。


「ホースルに頼まれた。全く、あの男と来たらこちらの都合はお構いなしだ」

「父ちゃんに?」

「伯父様、どういうこと?」


 ゼノ・セルバドスは苦々し気な表情を作る。

 双子の一番上の伯父にあたり、セルバドス家の次期当主でもある男は、生真面目で厳格な性格をしていた。フィン国軍の上層部に属する軍人であり、その名は広く知られている。


「仕事で急遽、東ラスレに行くことになったから、お前達を預かって欲しいと言われた」

「預かってって……」

「アタシ達、二人でも留守番出来るけど」

「私もそう言ったが、「偶にはうちの子と遊んでやってください」と言って、とっとといなくなってしまった。聞けば最近、ルノやリノとも会ったそうだな?」

「会いました」

「ルノ伯父様は美味しい紅茶を御馳走してくれた」


 ゼノは眉間に深い皺を刻む。

 不機嫌なようにも見えるが、実際のところはただの癖だった。


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