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anithing+ /双子は推理する  作者: 淡島かりす
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1-1.双子の兄妹

 珈琲の香ばしい匂いが漂うカフェは、開店直後のゆっくりとした空気で満ちている。

 黒いワンピースに白いフリルのエプロン姿の若い女は、平均よりも少し上回る背丈を目一杯動かすようにしてテーブルや椅子を拭いて回っていた。

 青い豊かな髪は一つに高く束ねて黒いリボンで飾り、彫りの深い二重の紅い瞳は愛嬌のある顔立ちに少々の大人びた印象を与えている。


「よし、テーブル拭き完了。花瓶の水も入替えないと」


 壁にかかった時計は九時を示していた。

 昼前には全ての準備を終えて、先に休憩を済ませないといけない。昼のチャイムが鳴れば、このカフェがある建物の上階から次々と人が降りてきて、争うかのように席を取っていく。

 そしてその中を笑顔を保ったまま、ランチメニューを配る使命が彼女にはあった。

 『マニ・エルカラム』と店名の書かれたメニュー表に、砂糖のかけらが付いているのを見つけると、彼女は息を吹きかけてそれを払おうとした。

 その刹那、誰かが勢い良くカフェのガラス扉を開けたために息を飲み込む。


「アリトラ!」


 乱入者は彼女の名前を呼びながら、まっすぐに歩いてきた。室内で可能な限り早足で、しかし多少足取りが覚束ない。

 そのまま間合いに入った男は、彼女の両肩を手で掴んで焦った声を放った。


「僕の瓶を見なかった!?」

「はぁ?」


 アリトラと呼ばれた女は露骨に眉を寄せる。


「知るわけない」

「隠していると為にならないよ。今なら許してやるから早く………」


 途端に男は天井を仰ぐ。それは男の意思ではなく、その顎を蹴り上げたローヒールの左足のためだった。

 数秒後に大きな音と共に男は床に沈み込み、その振動で近くにあったテーブルの上のメニューも落ちた。


「落ち着いて」


 アリトラ・セルバドスは呆れ返った口調で床の男を見る。

 平素は整えられている黒い髪は、相当慌てていたのか寝ぐせが残っている。よく見れば、青い瞳の端が濡れていて、それなりにダメージがあったことを物語っていた。


「いきなり蹴るなよぉ…」


 起き上がった男が弱々しく呟きながら抗議する。


「いきなり泥棒呼ばわりしたからだよ。何なの、リコリー」


 リコリー・セルバドスは大きく溜息をついて服についた埃を払った。


「まぁそれは悪かったけどさ」

「瓶を失くしたの?」

「声が大きいよ」


 慌てて指摘するリコリーに、アリトラは「さっきの声の方が大きい」と返す。


「いいから座って落ち着いて。珈琲淹れてあげるから」

「何が悲しくて、あんな泥水みたいなの飲まなきゃいけないんだよ。水でいい」

「はいはい。カウンターにどうぞ」



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