第5話 デートに騒動は付き物なのか?
更新が遅れてしまいました…。
申し訳ないです。
これからは少しペースを上げたいと思います。
昔、先輩が炭酸飲料を飲んでみたいと言っていたことを思い出した俺は自販機でコーラを2本買った。
途中、ショップの中を流し見して先輩のもとに戻る。
少しして先輩の姿を見つけたは良いものの、男2人…いや、3人だ。後から来た1人はお手洗いに行っていた様子。ペコペコ謝ってる。
「ナンパか…。リアルにあんだな、こういうの」
呑気にしてる場合じゃないけど、先輩なら多分大丈夫だろう。
少しずつ近づいて様子を見てみる。
「お姉さん1人? もし良かったらオレ達と遊ばない?」
出た。ナンパのテンプレ。もはや常套句だよねコレ。コレ以外に言うことないの?
「やっぱ男3人だとむさ苦しくてさぁ〜。ご飯とか色々奢るよ?」
「結構よ」
「ズバッと言うねぇ…。でもそういうの、嫌いじゃないよ〜」
「ちょっとでいいからさぁ。ね?」
「2度も言わせないで。結構よ」
あー、あー、あー。怒ってらっしゃる。
チャラい人間は先輩が最も苦手とする人種だ。顔には出てないけど…かなりイライラしてるな、あの人。
…そろそろ出た方が良いかな……?
「先輩、お待たせしました」
「あら、遅かったのね」
「少し混んでて。それじゃ行きましょうか」
そそくさとこの場から離れようとするが、1番手前のリーダー格らしき男に腕を掴まれる。
「おい、待てよ」
「何ですか? と言うか、痛いんで離してください」
すると案外すんなり離した。意外だなおい。
「お前、この娘とどういう関係な訳? 先に話してたのオレ達でしょ?」
「普通にデートしに来てるだけの先輩後輩の関係ですけど? それに先に話していたって、明らかに嫌がってたじゃないですか」
「…篠崎君。行きましょ」
「ですね。次どこ行きたいですか?」
「オイオイオイ。行かせねぇって」
また掴んできた。正直しつこいな…。それにウザい。こんな連中に敬語使うの馬鹿馬鹿しくなってきた…。
「お前、GOって知ってるか?」
「知ってるしプレイもしてる」
「ヘッドプラグ、あるだろうな」
「ある」
「なら話は早い。今すぐオレと決闘しろ」
「話の展開、若干早いな…。んで?」
「決闘でオレが勝ったら、その娘はオレ達とデートしてもらう。お前が勝ったら黙って引っ込んでやるよ」
「…分かった。その勝負、受けて立つ」
俺とリーダー格の男は仮眠室へ行き、ヘッドプラグを着けてGOへログインした。
まずはコロシアムに向かう。
数分後に着いた。どうやら男は先に中へ入ったようだ。
ちなみに決闘はスマホから専用アプリで観戦することが出来る。先輩と残った2人はそれで勝敗を観るようだ。
コロシアムの会場に進む。会場の真ん中で男のアバターが腕を組んで薄ら笑いしている。
「オレの職業は大剣士。レベルは39だ。怖気づいて帰るなら今のうちだぜ?」
「最上級派生職業サムライ。レベルは84。その言葉、そっくりそのまま返すぞ」
「そんな脅し、通用しないぜっ!」
背中の大剣を抜き、突進してくる。
かなりのスピードだ。移動速度を上げる装備を積んでいるのだろう。
まぁ、でも、
「余裕だけどね」
身体を逸らすと同時に抜刀して斬りつける。
クリティカルヒット。男のHPが3割程が簡単に消し飛ぶ。防御力はあまり無いようだ。
「…ッ!?」
何が起こったのか分からないのか、突進の勢いのまま躓いて転ぶ。
「…野郎っ!」
立ち上がり、大剣を携えてまた突進してくるかと思ったが、大剣士のスキル、鼓舞。自身やパーティーメンバーの攻撃力と会心力を上げるスキルを使用したようだ。
そして溜めの体勢に入った。恐らく、鼓舞を使ったのはこの為だろう。身体を屈めて1歩踏み出して来た。そして走る。
俺に肉薄すると、案の定大剣を振り下ろす。
後ろに下がり、すんでのところで躱した次の瞬間、視界の隅で男の左脚が動いたのが見えた。蹴りだ。
不意を突かれ、まともに蹴りを喰らってしまった。
「オラァ!」
いくらレベルの差があるとは言え、攻撃力が上がっているうえに不意の一撃だ。吹き飛ばされはしなかったが、HPが目に見えて減少するが、1割程か。
自分の攻撃が通じたことに調子に乗ったのか、男はニヤニヤと腹立つ表情をした。
「ハハハッ! さっきのクリティカルヒットはまぐれだったみたいだな? 実はレベルも嘘ついてんじゃねぇのか?」
「わざわざこんな時に嘘つく道理はないだろ。そもそも、鼓舞で攻撃力上がってんのに削れたHPは1割程度。それでよく調子に乗れるな」
「はぁ? 何言ってんだテメェ」
忠告や注意に対して聞く耳を持たない連中の言うことだ。
「お前らのそういうところが嫌いなんだよ…」
「ボーッとしてんな、よ!」
横薙ぎに大剣を振るってきた。
俺は敢えて動かずに棒立ちで受ける。もちろん直撃した。
「あっははははっ! とうとうまともに受けやがったか!」
だが、
「HPをよく見てみろ。1ドットも動いてねぇぞ」
「はぁ?」
そう、1ドットも動いてないのだ。
サムライの持つ完全防御の技。金剛の構え。待機時間がかなり長く効果時間も短いが、その間被ダメージを完全に無効化することが出来る技だ。
「テメェ、そんなの反則だろ!」
「反則? 甘い事言うなよ。中には与ダメージ8倍だとか、一撃で4回ダメージだとか、全被ダメージ激減だとか、反則級の連中がゴロゴロ居るんだぞ? それでも俺の事反則って言えるか?」
まぁ、例に挙げたのは全部俺の知り合いだけどな。
チートの域だが、公式のWikiにも書かれた最高難易度のオススメ防具の組み合わせをしているヤツだ。化け物って言われることも多いらしい。
「つまり、レベルが段違いって事だよ」
「まさか本当に…!?」
「本当に俺のレベルは84だ。降参するか?」
「………クソッ!」
男は大剣を地面に叩きつける。
このまま決闘メニュー開いて降参してくれると良いんだけどな。
「このまま…終われっかよ!」
男が懐から何かを取り出した。アレは…
「それは…自爆結晶!?」
使用すると自分のHPが軽々吹き飛ぶ程の大爆発を起こす自爆アイテムだ。もちろん、爆発範囲は広い。使う機会は滅多にないのだが、金剛の構えなどの「完全防御」系の技を使って被ダメージを無効化し、相手にだけダメージを与える…。そんな戦い方も出来るが、大剣士にそんなスキルも技もない。
「自分もろとも吹き飛ぶつもりか…!」
「降参するくらいなら引き分けの方がいいだろう…? お前にとっても屈辱になるしなァ」
「だったら…っ!」
身を屈めて駆け出す。
トップスピードに乗ると『月兎』を引き抜く。
男の持っている自爆結晶を破壊する。
「な、何…ッ!?」
結晶はパラパラと砕け散った。
そして、左手で鞘を抜き、男の側頭部に叩きつける。
そのまま右脚を軸に回転し、袈裟斬り。もう一度鞘で殴る。左手で鞘を持ち変えて顎をカチ上げる。
「ガ…ッ!?」
男が短く声を上げるが気にはしない。
ガラ空きになった男の腹に素早く一閃。それだけで男のHPのゲージは赤くなり、わずかな残量を注意するかのように警告音が鳴っている。
俺は残りのHPを斬り捨てるようにとどめを刺した。
「お、覚えてろよぉぉーっ!」
またもやテンプレの捨て台詞を吐いて逃げてった。
「記憶に残したい連中じゃないな…。改めて先輩、行きましょ」
「え、えぇ。そうね」
「あ、渡すの遅れましたけど、飲み物どうぞ」
「あら、ゴメンなさい。勝負の途中、そこの自販機で買ってきちゃったの」
ふふふ、と悪い笑みを浮かべる先輩。ドSとかではなく、もはや嫌がらせだ。
「でも、お金は渡しておくわ。買いに行ってくれてありがとう」
と、先輩は微笑んだ。
…まぁ、こういうのも悪くない、かもしれない。
いくつかのアトラクションに乗った頃、先輩に軽く手を引かれた。
「…っと。どうしたんですか?」
「少しお腹が空いて…。どこかで昼食を食べましょう?」
「あー、了解です。それじゃぁ…」
バッグからパークの地図を取り出し、現在地を確認する。えーと、割と端の方だな。
「何か食べたいものはありますか?」
「特にこれと言ってないわね。私は軽食程度で構わないけれど、篠崎君は?」
「そこそこ食べたい感じです。とりあえず、近くにあるのはカレー屋とレストランですね。少し戻るとパスタの店もありますけど…」
「そうね…。少し回ってみましょ。メニューを見て、食べたいものがあったらそこにしましょ」
「んじゃぁ、近いところから行きますか。コッチです」
先輩を連れて先にカレー屋に向かう。
スパイスの香りが漂ってきた。食欲を刺激するピリッとした香りだ。
店先に置かれたメニューを見ると、チキンカレーやポークカレー、野菜カレーなど数種類のカレーが書かれていた。
どれもとても美味そうだが、先輩の表情はビミョーだ。カレーって気分じゃないみたいだ。
「次のところ行きます?」
「えぇ、気分が乗らなかったわ」
「あはは……」
歩いて数分のところにレストランがあった。
カレー屋同様、メニューは店先にあった。
「ドリアにハンバーグ、ピザにグリルチキン…。選り取りみどりですね」
「そうね。目移りしちゃうわ」
「ここにしますか」
「えぇ、構わないわ」
いざ入店。
少しレジは混み合っていた。お昼時だからしょうがないけどな。
そこで、俺と先輩は別行動をする事にした。別々に別れて、先にレジに着いた方は注文し、料理を受け取って適当な席に座る。後から来る方は水やおしぼりといったものを2つずつ持ってくることにした。
結局、俺が後者になってしまった。
ジュージューと鉄板の上で音を立てるグリルチキンに半分意識を持っていかれながらも、もう半分の意識で先輩を探す。
あー、少し奥の席に座っている。持ってきた文学小説読んでるな、あの人。
手前側に椅子に座っている人が多くいるので、本来通路の部分が獣道みたいになってる。歩きづらくて仕方ない。
自分でも思うほど、なかなか器用に避けられたことに、どやぁぁぁって心で叫びながら席に座る。
先輩におしぼりと水を渡す。
「ありがと」
「いいえ。先輩は何にしたんですか?」
「シーフードドリアよ。最近魚介類にハマったの」
「へぇー…。なるほど」
「篠崎君は、グリルチキンね。…野菜がないけれど?」
「あー、サラダセットにしようか迷ったんですけど…野菜食べる気になれなくて」
「全く…バランス良く食べなきゃダメでしょう?」
「…すいません……」
「…まぁ、いいわ。食べましょ」
「…はい」
鉄板からの音は小さくなってしまったものの、塩コショウでシンプルな味付けがされたチキンは食欲をそそるのに十分な破壊力を有していた。
ナイフとフォークを持ち、いざ食す。
ナイフはすんなりと通った。思っていたよりも肉が柔らかい。
皮はパリッとしており、中からは肉汁が溢れ出す。アカン、見ただけでヨダレが止まらん。
そして口に運ぶ。
ひと口噛めば、肉の旨みが口に広がる。
噛めば噛むほどに美味い。
「ん〜……美味ぁ……」
「そう、良かったわね」
「はいぃ……。…ってあれ? 先輩、まだ食べないんですか?」
「えぇ、まだ熱いもの」
「いや、今が食べ頃だと思いますけど?」
「…………た…なの…」
「…え?」
「猫舌なの…っ!」
先輩が頬を膨らますように顔を赤くする。なんか可愛いけど…お怒りだ……。
「あぁ…すいませんでした…」
「分かればよろしい」
先輩が猫舌とはな…。結構意外だ。
鶏肉を噛み締めそう思った。
猫舌の先輩に怒られつつ、桐也はデートを楽しむ。
良い雰囲気になっているが…。
次回もお楽しみに!