第4話 おデート
ほい、玄武です。
少しばかり遅れてしまい申し訳ございませんでした…。
それでは第4話、いってみよー。
楓乃に高級プリンを3個奢らせてから数日後、母さんの言っていた「週末の休み」になった。どこに行きたいと言う事もなく、昔家族旅行で行った某テーマパークに行くことになった。母さんの計らいなのかどうか分からないが、何故か車の後部座席には楓乃の隣には、この時期には少し薄いのではないかという春物を着た白波先輩が乗っていた。
超自然に混ざっててビックリした。
「先輩、何でいるんですか?」
「お母さんが呼んだの。ちょうど今日空いてたみたいだし、ちょうど良いなって思って」
やっぱりアンタの仕業か。
「お兄ちゃん寂しい思いしなくて良かったね!」
「楓乃…やめて……」
「感謝なさい」
「先輩のドS発言にはどう反応したらいいの…!?」
「桐也、ドンマイ。それじゃぁ行くよー」
母さん……、息子にドンマイて…。
2時間ぐらいで目的地に着いた。
それまでははしゃいでいた楓乃は寝てたし、先輩は楓乃に体を預けて寝ていた。
様子を見る時に2人の寝顔を見た時は少し、いや、かなりドキッとした。
俺は眠くなかったから寝なかったけど、多分2人は元気だろう。寝れば良かったって思っても後の祭り。もう駐車場まで来てしまっている。
車から降りてバッグを持って楓乃と先輩を起こす。寝起きの2人は少しネコのように見えた。
母さんは先に入場チケットを買いに行ったので、車の鍵を閉めて、なかなか目の覚めない2人を連れて入場口へ。
母さんと合流し鍵を渡すと、母さんからもチケットを渡された。
すっかり目の覚めた2人のテンションはかなり高い。というのも、楓乃は実に数年ぶりだし、先輩に至っては初めてとのこと。そりゃあテンション上がるわな。
「し、篠崎君」
「何ですか?」
「私、こういう所初めてで…。ど、どどどどうふればいいの?」
「落ち着いて下さい、先輩噛んでますから」
「か、噛んでないわよ、聞き間違いよ」
「はいはい……」
「それじゃぁお兄ちゃん、またねー」
「…は!?」
「2組に分かれて行動しよってお母さんが。それに先輩のために色々教えてあげてねってことで」
「母さんかよ…」
「まぁまぁ、あんな綺麗な先輩とおデートですよ? 喜びなさいなって」
「今どきおデートって単語聞かねぇな…」
「それじゃぁねぇー」
楓乃と母さんは人混みに消えた。
どうっすかなー……。
「…じゃぁ、俺たちも行きましょうか…」
「え、えぇ。…あ、実は私、やってみたい事があるの」
「やってみたい事…?」
先輩のナビをしながら着いたのはお土産やパーク内のグッズを売っている店だ。パークのキャラを模した飾り付けがされており、先輩は目を輝かしながら中に入って行った。
店内を回ってみると、少し奥の商品棚の前に先輩が立っていた。その棚には帽子やパーカー、タオルが置かれている。先輩のやりたい事、何となく分かってきたぞ…。
「パーカー、買うんですか?」
「な、何で分かったの…!?」
「何となくですけど…。先輩の事だから、ニュースやら雑誌やらで情報集めしたんですよね?」
「えぇ、こういう所に来たことが無かったから」
「で、そのニュースやら雑誌やらにパーカーとか帽子とか被ってパーク内を歩いてる人を見た、と」
「概ね当たりね。パーカーという、その心は?」
「ここの帽子は大きいし、邪魔になる。かと言ってタオルはこの時期あまり必要ではないし、先輩の性格から小さめのタオルは持って来ている事を念頭に入れると、パーカーかなと。先輩、若干薄着ですし」
「いい推理ね。当たりよ」
「肌寒くないんですか?」
「少し、ね。でも篠崎君も少し薄着じゃない?」
「あー、車の助手席乗ってたら結構日が当たって暑くなったんで上着脱いだんですよ。邪魔になるし、車に置いてきましたけどね」
「なら、いい機会かもね」
「どういうことですか……?」
まさか…。
「あなたも買うのよ? 世に言うペアルックね」
やっぱりか!
なし崩し的にペアルックになってしまった。寒色系の暗い色があって良かった…。ちなみに隣の先輩のパーカーは白だ。何か…眩しい。何故か大きめのサイズを買った先輩。袖からは指先しか出ておらず、かなりブカブカだ。
「何で大きめのサイズ買ったんですか?」
「こっちの方が男ウケが良いかなって」
「…それも雑誌ですか……?」
「えぇ、そうよ? 変かしら?」
凄いな雑誌。見直したぞ。
「……いや、よく似合ってますよ。先輩らしさがあって良いと思います」
「ありがとう、お世辞でも嬉しいわ」
「それは良かったです…。あ、ポップコーンとか買います?」
「今はお腹空いてないから遠慮しておくわ」
「了解しました。んじゃ行きましょうか」
バッグを肩に掛け直し、店の外に出る。
休日だから当たり前だけど、やっぱり家族連れやカップルが多い。んでも今日は割りかし空いているかも。
「篠崎君、その、手を繋いでもいい…かしら……?」
「…え?」
先輩? 顔赤いけど? 熱でもある?
「えと、折角のペアルックだし……」
「雑誌…ですか……」
「…うぐ………」
コレは…しょうがないか……。
仕方なく左手を出す。
先輩は右手でぎこちなく握る。
指は細くて、手を握ると小さくて。その小さな手が少しずつ強く、俺の手を握る。
胸が少し苦しくなるような、そんな感じがした。
「そ、それじゃぁ、行きましょうか…」
先輩は小さく頷いた。
パーク内を歩いているカップルはやっぱり手を繋いでいたり、腕を組んでいたりしている。…どういう気持ちで歩けばいいんだ?
心拍数だけが緊張感でどんどん強く、大きくなっていく。身体も心做しか暑い。
「篠崎君、篠崎君。あのアトラクションに行ってみたい」
「あ、じゃぁ並びますか…」
先輩の目がキラキラ輝いている。ここで見るものが全部初めて見るものなんだろう。
いつもクールな先輩が素直な子供のように思えて、かなり可愛いと思った。ギャップが凄いよな…。
最後尾に並ぶ。待ち時間は大体40分ぐらいか。先輩はこんな時でも手を離さなかった。いや、むしろ少し強く握ってきた。緊張してんのかな…?
俺たちが今並んでいるのはジェットコースター型のアトラクションで、ニュースの特集なんかでよく見る、人気アトラクションの1つだ。
どちらかというと絶叫系は得意な方だと思う。あ、でもフリーフォール系は無理。垂直落下はどうしても膝が笑う。
「そういえば、先輩って絶叫系大丈夫なんですか?」
「どちらか、と聞かれたら多分、大丈夫な方だと信じたいわね。乗ったことないから」
「そうでしたね…。すみませんでした」
「あら、篠崎君が謝ることなんてないのよ?」
「ついつい反射的に」
先輩に対しては頭が上がらない。テスト勉強で分からないところを何度も教えてもらったし、そのおかげで今の成績をキープしている状態だ。だからこそ、反射的に謝る癖がついてしまった。
「楽しみ……」
先輩が小さく呟いた。
手を繋いでいるこの至近距離だし、もちろん聞こえた。超楽しそう。鼻歌聞こえるし。
……ていうか、周りの視線が超痛い。刺さるように痛い。
こういう時って大体、男性客からの視線だよな…。
白波先輩は美少女だし、こんな死にかけの魚みたいな目つきの人間の隣に居て、なおかつ手を繋いでいる。オマケにペアルック。…視線で刺殺されそうだ……。あ、今誰か舌打ちしたな?
なんやかんやで気づいたらもう目の前にコースターがある。次のコースターに乗れるだろうな。
スタッフさんの案内で1番前へ。先輩のテンションもかなり上がるだろうなぁ…。
多分、この人が犬なら尻尾ぶんぶん振ってるだろうけど、どちらかと言うと猫なんだよな…。いつもクールな辺り。
すぐに無人のコースターが来た。目の前のゲートが開いて乗り込む。
荷物を足元に置いて、安全バーを降ろす。スタッフさんが安全バーが固定されたのを確認してから「行ってらっしゃーい」と手を振って見送ってくれる。
では、行ってきます。
数分後には出口に居た。
先輩の口元が少し緩んでいるのを見ると、来て良かったなって思える。
「次、どうします?」
「篠崎君は行きたいところないの?」
「先輩優先。惹かれるままに楽しみましょ」
「そう? なら、少し私のワガママに付き合ってもらおうかしら」
「ははは、マジか」
「笑った後、急に真顔になるのやめてもらえる?」
「すいませんでした」
「ふふ、許してあげるわ。代わりに飲み物買ってきてもらえるかしら? 私、ここで待ってるから」
「パシリですか…。分かりました、すぐ戻ってくるので」
まさかこんな所でパシラされるとは…。
「…先輩、大丈夫かな……」
白波先輩にパシらされた桐也。
先輩の飲み物をどうしようか迷いつつ飲み物を買いに行く…。
次回もお楽しみに!