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ギルティナ・オンライン  作者: 夜宵 天兎@玄武
2/7

第2話 猛毒と純白

手頃なクエスト情報を得たシキヤは南門を目指す。

クエストを始めたシキヤが遭遇したのは…。

それでは第2話、行ってみよー。

南門はここから歩いて数十分ぐらいだ。

途中、NPCが営む露店を見て回る。たまに掘り出し物があったりするので、暇があればここに来ることにしている。ちなみに、俺の装備しているアクセサリ、『桜の編紐御守』はここで買った。値段は高かったもののレア度は8。GOでの最高レア度は10なので、かなりのレアアイテムだ。


「お、あの小太刀…」


少し奥の露店の店先に懐かしい小太刀が置かれていた。

『カザグルマ』。カエデが昔使っていた小太刀だ。レア度は7。

風属性を強化し、SPD…素早さを上げる効果を持つ小太刀だ。攻撃力もそれなりにあるので、アサシンやサムライに慣れるまではオススメしたい武器の1つだ。


一通り露店を見終えた後、南門へ足を運ぶ。

少しばかり雲の色が黒っぽいが、気にしないでおこう。とは思いつつも、歩くスピードを少し上げる。

目的の南門へ着いた頃には空はどんよりと曇っていた。少し湿った空気が肌を撫でる。そういえば昔、台風で大雨が降っていた時に雷が鳴ったんだよなぁ。小さい頃の楓乃は怖くて俺に抱きついてたっけ。今では台風が直撃して、学校が休校になったら小躍りするくらいに喜んでGOにログインするようになってしまって…。お兄ちゃんは悲しいよ。

そんなこんなで南門に着いた。

肝心の門番NPCもちゃんと居た。

頭には緑色の「?」というクエストマークが表示されている。


「よう、兄弟。何か困り事はあるか? 俺で良ければ手を貸すぜ」


すると、門番の頭のマークが「?」から「!」に変化した。


「それは助かる。…実はここだけの話、静寂の泉付近で異様なモンスターが出現したらしい」


静寂の泉。

この街の近くに存在する、小さな泉だ。確か創世神の1人、キリシを祀っている祭壇があるらしい。まぁ、設定上の話だがな。


「そのモンスターは付近で確認されているモンスターとは違うらしい。どうしてもこの目で見てみたいのだが…、私はこの南門での門番という責務を果たさなければならない。…もし良ければ、そのモンスターについての話を聞かせてはくれないか?」

「おう、任せとけ」

「では、頼んだぞ」


門番の頭の「!」マークが緑色から黄色に変化する。

クエストが開始された合図だ。

メニュー画面を開き、クエスト内容の詳細を見る。

『静寂の泉付近に現れた謎のモンスターを討伐し、素材アイテムを回収せよ!』

と書かれていた。モンスターを討伐してドロップした素材アイテムを門番に見せれば良いというカンタンなお仕事の筈。やったりますかー。


回復アイテム等々の準備を整え、静寂の泉に向かう。

薄暗い森の中にあり、初心者なら確実に迷子になるであろう場所にある静寂の泉。複雑に入り組んだ道を進み、数分後。迷うことなく、あっさりと着いてしまったことに対し、GO始めてから今まで早かったなぁと感慨にふける。


「…この辺か」


難なく泉に着いた。

ここまでモンスターに出会わなかったことに違和感を感じるが、クエストの仕様だろうか?

とりあえず、周りを散策する。

特に変わった点もないし、いつもの泉そのものだ。

直後、背後で小枝の折れた音がした。

反射的に腰の刀、月刀『月兎』に手をかける。

ガサガサと茂みが揺れ、次の瞬間、何かが飛び出してきた。

ほぼ脊髄反射でその「何か」に斬りかかろうと前に踏み出し、加速する。


「くら―――」

「…え?」

「―――えぇっ!?」

「キャァ!?」


抜きかけた刀を少し強引に鞘へ戻す。

システムによるアシストされた攻撃モーションは強制解除され、急に解放された身体は体勢を立て直すことなど出来ず、前のめりに倒れる。

茂みから現れたのは少女だった。

結果、彼女に飛びかかるような形になってしまった。

どうにか彼女を下敷きにしないよう頑張ったが…、押し倒したようにしかみえない。

淡い水色の髪に白い髪飾り。垂れ気味の目は大きく見開かれている。徐々に赤くなる顔を見て、即座に離れる。


「わ、悪い!」

「い、いえ! その、こちらこそごめんなさい!」

「…って、その装備…。初心者か?」

「ふぇ…? あ、はい、最近始めたばかりで…。クエストに行って以来、道が分からなくなってしまって……」

「あー、そうだったのか…。さっきはホントにゴメンな? てっきりクエストの対象モンスターかと…」

「あなたが謝ることなんて! 私の不注意でした…」


ペコペコと何度も頭を下げる少女。

いや、今のは完全に俺が悪いんだけどな…。


「自己紹介…、まだだったな。俺はシキヤ。職業(ジョブ)はサムライでレベルは84だ。よろしくな」

「あ、私はカイラって言います! 職業(ジョブ)治癒術師(ヒーラー)です! レベルはえと、18…ぐらい、です! 多分…」

「まさか、治癒術師(ヒーラー)1人でクエストに行ってたのか!?」

「いえ、その、パーティーメンバーの皆さんは先に街に戻られてて…。私だけはぐれてしまって…、道に迷ってました…」


どんどん表情が沈んでいくカイラ。

初心者がいきなり森の中でメンバーとはぐれたらそりゃあ、不安にもなるだろう。


「…実は私、昔からこうなんです。何をやっても上手くいかなくて…。でも、GOを友達に誘われて、自分を変えられるんじゃないかなって思って…。でも、やっぱり上手くいかなくて…」

「なら、コレをやろう」

「シキヤさん? 何を言って…」


俺はアイテム一覧をいじる。

治癒術師(ヒーラー)は俺のプレイスタイルに合わなかったし、装備を売ろうにも所持金には多少余裕がある。


「とりあえず、今送った装備をすれば攻撃力も防御力もそれなりに上がるはずだ。バイタルアップの効果もあるからHPも少し底上げ出来るし、クリティカルライズで会心率も上がる。この装備なら初心者レベルのクエストなら楽になるだろうし、中級者レベルでも十分にクリア出来ると思う」

「え、え?」


カイラは驚きながら、信じられないというような顔をする。


「まぁ、俺は使わない装備だし。知り合いの回復役ももう使わないだろうし」

「こんな高価な装備、受け取れません!」

「いや、むしろ受け取ってくれよ…」

「受け取りません!」

「…あー、んじゃぁ、こうしよう。さっきのお詫びってことで。それと初心者を応援する上級者ってことで」

「でも…」

「受け取ってくれ」

「…分かりました。ありがたく頂きます」

「んじゃ、そこに受け取りの画面が出てるだろ?」

「はい、これですね」

「んで、その下にあるYesってボタン押してくれ」

「…はい、押しました」


シュッと音と共に俺とカイラの画面が消える。

これで受け渡し完了だ。

カイラはメニュー画面をもう一度開き、先ほど渡した装備を装備する。

カイラは淡い青のホログラムに包まれ、装備が変わった。

武器は『クリスターロッド』。先端に白い星の付いた杖で、女性プレイヤーは多く装備している。消費MP補正と回復量が少し上がるという、治癒術師(ヒーラー)専用装備だ。

防具は『サストリリローブ』という白いローブだ。バイタルアップと防御力補正、MP上限アップの付いた後方支援系の防具。オシャレという理由で装備しているプレイヤーもいる。

アクセサリは『会心の護符』。会心率を上げるクリティカルライズを持ったアクセサリだ。

それぞれのレア度は6。中級者までは難なくやっていける装備だ。

まぁ、上手くカイラなら使ってくれるだろう。

見込み…のようなモノを感じたし。


その時、カイラの背後に紅く光る目が4つ、こちらを見ている。

音もなく、じりじりと近寄って来る。紅く光る目は少しずつ大きくなっているのが何よりも証拠だ。

嫌な予感がする。

額に脂汗がじっとりと滲み、不快だ。

刹那、ヤツはこちらに飛びかかってきた。


「カイラ、伏せろッ!」

「え、キャ!?」


ギリギリで何とか躱す。

数十メートル先でカサカサと動く黒い何か。

それは見るのもおぞましい、巨大な黒い蜘蛛だった。

残忍(ブルータル)大蜘蛛(シュピンネ)』。それがヤツの正体。ランクはA+とかなりの上位モンスターだ。

過去に1回だけ討伐したが、それはパーティーメンバーが居たからだ。ぶっちゃけソロで狩るのは初めてだ。


「…カイラ、俺の話をよく聞け」

「な、何でしょう?」

「後ろに1本、細い獣道がある。そこを真っ直ぐ行けば街の南門があるはずだ。そこまで逃げろ」

「でも、シキヤさんは…!?」

「サムライは追い込まれば追い込まれるほどに強くなる職業だ。回復アイテムも十分に持ってきてるし、多分1人でも大丈夫」

「でも…!」

「早く行け」

「……ッ! 分かりました…。どうかご無事で」

「おう」


カイラは後ずさりしながらある程度離れると走って獣道に向かい、消えて行った。

完全に消えたのを確認すると、大蜘蛛に向き直す。


「さーて、やろうか蜘蛛野郎。かかって来いや」


俺は刀の柄に手をかけ、姿勢を低くする。

紅く爛々と光る目は一部分、という事が分かった。額の辺りに小さな複眼がもう4つを確認できた。

カサカサと大きくも細い脚を器用に動かし、徐々に距離を詰めてくる。

距離は既に数メートル先。

大蜘蛛は腹を持ち上げ、粘着質の糸の塊を数発ほど発射する。

後ろに跳び、難なく躱す。が、ベチャッと地面に落ちた糸の塊は一時的な(トラップ)になる。一定時間の間だが、こちらから距離を詰めるのは中々難しくなってしまった。


「…あの技しかないか」


そう呟き、体勢を整える。

大蜘蛛がその顎を開く。

毒針が来る。

案の定、弾丸の様な紫色の太い毒針が飛ぶ。


「…ハァッ!」


サムライの持つカウンタースキル、秘剣ツバメガエシ。

相手からの全遠距離系の攻撃を弾き、相手に返す技だ。

毒針を大蜘蛛に跳ね返すが、あまり効いていないようだ。つまり、効果はいまひとつのようだ。というフレーズを使う絶好のチャンスである。


「…とかやってる場合じゃねぇ、か!」


大蜘蛛の前脚の刺突を弾き、懐に潜り込んで一撃を加えるが、部位によって柔らかさが違うのか、ヤツのHPは中々減らない。

すぐそのままヤツの後ろに回り、比較的柔らかそうな腹にある紫の宝石めがけ突きの技、テンコウを放つ。


「キシャァァァァアッ!?」


大蜘蛛が仰け反るように悲痛の声を上げる。


「弱点は腹か!」


弱点が分かればこちらのものだ。

今度は連続斬りの技、コソウをお見舞いしてやろうかと腹に近づく。

肉薄した次の瞬間、腹が膨れる。


「ッ!?」


咄嗟に身体を逸らし、硬質化した糸の塊を避ける。

HPがドット単位で減る。…掠ったか。

体勢が崩れた瞬間、前脚の刺突を喰らう。


「く…っ!」


HPが目に見えて減少する。だが、まだ余裕はある。

何とか持ち直し、愛刀を構えてしっかりと距離を取る。

数十メートル程度の距離を取り、一旦、呼吸を整える。

睨み合いの中、大蜘蛛の身体が震え始めた。


「何だ…?」


「―――ギシャァァァァァァァァアッ!」


耳を劈くような咆哮に耳を塞ぐ。

見れば大蜘蛛の身体が徐々に肥大化している。

顎と脚は大きく、太く、鋭く変化する。より凶暴になった大蜘蛛は見れば見るほどに不快感を覚える。

全身の毛が逆立つような感覚だ。

顎から滴る毒は地面に落ちればシューシューと音を立てる。余程の猛毒だろうな…。

どうやら腹の宝石を壊すと怒り状態になるようだ。

こりゃあ、パーティーメンバーが居た方が楽だろうな。

怒り状態への変化の反動が大きいのか、大蜘蛛はしばらく動かない。


「手伝いましょうか?」

「あぁ、助かる…。今、パーティー申請送るから…って! ロゼ、お前いつから居た!?」

「蜘蛛が大きくなる辺りぐらいかしらね。折角のクエスト、誘ってくれても良いのに」

「悪かったな…! ほら、今送ったから承認してくれるか?」

「えぇ、よろしく頼むわ」


ロゼは細身の剣、白雪剣『クローカシス』をゆっくりと抜く。

氷属性の剣の中でも選りすぐりの代物で、レイドボス『アグレスタ城の氷騎士』のレアドロップアイテムでもある。


「あの顎と糸がかなり厄介だ。気をつけろ」

「状態異常は私に無意味だけれど」

「…そうだったな。『雪姫の薄氷鎧』…だっけか?」


白と水色で雪と氷の刺繍がされており、胸の辺りを守るプレートが付いているだけの布装備だが、防御力は申し分ない。その上、状態異常を無効化、氷属性被ダメージ軽減、敵撃破時にMPを微量回復。HP40%以下の場合、自動回復等々の超便利スキル盛りだくさんの防具だ。


「えぇ、純白は汚れないこそ純白なの」

「凄いな…その装備とこだわり…」

「…来た!」


大蜘蛛は毒の顎を広げ、突進してくる。

先ほどよりも疾い。

横に跳び、回避する。

すかさず振り向き、腹に一撃。

しかし、弾かれる金属音がした。


「腹まで硬質化した…!?」

「下がりなさい!」


ロゼが剣を横に一閃する。

(ソード)姫君(プリンセス)の防御力を無視した全体攻撃、ホライゾン。

使用後は一時的に動けなくなる上に再使用までの待機時間(クールタイム)が長いのが欠点だが、強力な一撃だ。

俺は『月兎』を上段に構え、一気に振り下ろす。防御力を一定時間減少させる技、兜割り。


「ギシュァァァア!?」


防御力を無視された上、防御力を減少されたことが驚きなのか悲鳴を上げる大蜘蛛。

跳躍し、糸の雨を降らせる。

避けつつも弾くが、被弾もする。

俺のHPはもう残り6割近くになってしまった。

ロゼはまだ余裕があるようだ。

硬直から解放されたロゼは剣を鞘に戻し、詠唱を始める。


「…フローズランス」


氷の巨槍が何本も宙に生成される。

ロゼはタイミングを見計らい、巨槍を放つ。

狙いはもちろん、防御力の下がっている腹だ。

全弾命中し、ヤツのHPはガクッと大きく減る。


「キシャァァァァァアッ!?」


さすがの大蜘蛛もこれには堪えたのか、空中で藻掻く。


「行きなさい!」

「おう!」


愛刀を脇に構え、思いっきり助走をつけて飛ぶ。

落ちてくるヤツの腹はもう目の前だ。

その距離、わずか2メートル。


「喰らえぇぇぇぇぇぇえッ!!」


月刀『月兎』を装備していることで使用可能になるスキル。

必殺の技、斬月。

そしてサムライ固有スキル、背水の陣。

残りHPに応じて攻撃力が上昇するスキルだ。

一太刀、防御力の下がっている腹に入れる。

重力に引かれて落ちる大蜘蛛の重さに乗せて刀を振り抜く。

腹は両断され、本体から離れていく。

だが、大蜘蛛はしぶとくもまだ生きていた。

一矢報いようと、後ろ脚を俺に叩きつける。かなり重く早い一撃だ。

HPは約1割削れ、叩きつけられた勢いで落下する速度は徐々に上がる。

落下ダメージを加え、残りHPは約4割をきった。

大蜘蛛も地に落ち、動かなくなる。

数秒後、ホログラムとなって消えた。

切断した腹も同時に消えた。

…久しぶりの苦戦だった。

地面に大の字になって空を見上げる。

日は傾いており、空はオレンジ色に染まりつつあった。


「アイテムの回収、終わったわ。お疲れ様」

「お前もな。来てくれてありがとよ」

「感謝しきれないほどに感謝なさい」

「へいへい。心の底からありがとーございました」


ロゼが隣に座り、メニュー画面を開き、アイテムを取り出した。


「多分、コレを門番に見せればクエストクリアよ」

「『残忍な証』…か。随分と物騒なアイテムだな」

「ふふ、確かにそうね」

「あぁ、そうだ。ロゼ」

「何かしら?」


俺は起き上がって、ロゼに向き合う。


「改めて、今回は来てくれてありがとな」

「まぁ、久しぶりに一緒にクエスト出来たから。私も楽しかったわ」

「そっか。…んで、こっからが本題なんだが」

「本題…?」

「あぁ。今回の件について俺は出来る限りの範囲でお前にお礼がしたい。何でも言ってくれ」

「相変わらず唐突ね。うーん…何でも、か」

「あー、出来る限りの範囲だからな?」

「じゃぁ…」

「ん?」

「私と結婚しましょう」

「………へ…?」


その瞬間、俺の脳内はフリーズした。

大蜘蛛討伐後、ロゼの一言にフリーズしたシキヤ。

彼の答えは…?

次回もお楽しみに!

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