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カフスラン公国戦記「聖霊ベルテシャツァルの黙示録」  作者: 小鳥遊椎菜
第3章 抗いの末に
7/38

(1)苦悩と衝撃

1


 カリウスの言葉を聞いて、一同は唖然とした。

 そして、カリウスが何をしたいのかが全くわからなかった。

「カリウス、今あなたが発した言葉が、どういう意味を持つ言葉なのかはわかっているわよね?それを分かったうえで発言したのよね?」

 カトリシアが厳しい口調で問う。

「ああ、わかってる。俺たちの本来の任務から外れたことであり、下手をすれば公爵殿への反逆ともとらえられるだろうな。でもさ、ここ4日間で分かった事実から導き出される結論としては間違ってないと思うぜ。」

「それしか方法がないのですか?」

「ああ。正当な方法で迫って、エフィカ政府が隠したがっている事実を公表してくれると思うか?」

「それを探すのが交渉でしょ?カリウスの考え方だと、この世界は戦争だらけになってしまうわ。」

「でも、今回は武力行使に出るしかないだろ?これだけエフィカの人々が汲々としているんだぞ。」

「我々がそれを行う必要があるのですか?エフィカの国民でもない我々が。」

「エフィカの国民じゃあないからこそできることじゃないか!」

「カリウス、落ち着いて。いろいろなことがいっぺんに起きて今あなたの中では少し混乱しているのよ、きっと。少し落ち着いたら・・・」

「みんなわかんないかな!俺が言わんとしていることが!」

 カリウスは再び立ち上がり、机をたたいてこういった。

 カリウスが言いたいことはなんとなくメンバーもわかってはいた。ただ、それを実行していいものなのか、迷いはあった。

 5人それぞれに、今エフィカが非常に窮屈な国になっていることは実感していた。そして、その窮屈さに耐えられなくなった人々が、カフスランに亡命してきていることもわかっていた。

 軍務省からのデータによれば、エフィカ軍の軍事力は強大なもので、戦いになれば勝てるかどうかはわからないという。非常に効率的な作戦を立て、無駄な動きを一切しない「鮮やかな」作戦を立てるのを得意とする。それはきっと、この国のトップに立っているのがスーパーコンピューターだからだろう。

 もしそんな軍隊がカフスランに攻め込んで来たら、一体どうなるのか。

 エフィカとカフスランが友好関係を築いてきた理由の一つに、エフィカが資源に乏しいということがあった。カフスランには地下資源が豊富にあるため、カフスランと資源貿易を行うにはどうしても友好関係を築いておく必要があったのだ。しかし、もし効率重視政策で進んだ場合どうなるか。友好関係を築くよりカフスランよりも強大な戦力を準備し、攻め込んだ方がより効率的であると考えるだろう。

 そのような事態に陥る前に、エフィカの暴走を止めたいという思いはメンバーそれぞれにあった。

「みんな、俺たちは騎士を目指している人間だ。個々それぞれに、カフスランでトップを争う技術を持っているのだぞ。俺たちの力があれば、戦うことは可能だ。」

「そなたは、我々5人でそれを実行しようと考えているのか?」

 今まで黙ってことを眺めていたパルカンが口を開いた。

「最初のうちはそうなるだろう。ただ、今後カフスランの方から援軍が来ることは期待したい。」

「カフスランが援軍を送る見込みはそなたの中では立っているのか?」

「それは五分五分だな。俺たちがただ暴走しただけってなれば援軍はよこさないだろう。ただ、カフスランがエフィカを攻めるチャンスだと思えば援軍を送ってくるんじゃないかと思っている。」

「ほう。なるほど。で、勝ち目はあるのか?」

「それはやってみなけりゃわかんないだろ。最初から勝ちが保障されている戦いなんてねーよ」

「なるほどな。それなら余は賛同しかねるな。」

「なんだよ!腰が引けてるんじゃねえのか!」

「カリウスの考えに賛同はする。そう思う気持ちもよくわかる。ただ、準備不足で戦いに突入することには反対だ。」

「パルカン・・・。あなたがそんなことを言っていいの?」

「逆に余の発言の何が問題なんだ?」

「あなたの立場よ。公爵の娘であるあなたが、そんなことを言っていいのってこと。カリウスがやろうとしていることは、カフスランへの裏切りでもあるのだから。」

「国王の家族が国家に歯向かって国が滅んだ話はめずらしくなかろう。逆に国家元首のそばにいるからいろいろと見たくもない物も見せられる余の気持ちもわかってはくれないか。」

 それを言われるとカトリシアも何も言えなかった。

「カリウス殿の言っていることは我々が工作員としてエフィカの転覆をはかるという解釈はできませんかね?」

 ヒートアップしたメンバーに、落ち着きのあるバスティーニの声が届く。

「少し落ち着いて考えましょう。カリウスが皆さんに提案したことは、『黙示録』で氏が求めていたことではないでしょうか。そして、それが実現できればエフィカとの戦争状態を解消する可能性が高くなると思いませんか?」

「なるほど。あなたが言いたいことはわかったわ。でも、それは私たちに実現可能?」

「現段階では準備不足としか言えませんね。現状では不可能です。しかし、きちんと段階を踏んで準備を行えば、不可能ではありません。」

「段階?」

「ええ、ステージを設けるんです。そして、各ステージでの到達目標を定めるんです。例えば、人を集める、武器を集める、資金を集める、とかね。そして、到達目標をクリアしたら次のステージへ移行する。そうやっていけば、実現は可能だと考えます。もちろん、到達目標の中に軍務省からの協力を取り付ける、というのがありますが。」

「バスティーニ・・・。」

「決断を下すのは団長、あなたです。ただ、私はカリウス殿の意見には賛同します。エフィカの国民にとっては、この国は非常に窮屈であり、寂しいと思います。今はこの現状が受け入れられている人も、そのうち耐えられなくなるでしょう。通常の人間関係を築けないことほど、人間にとって苦痛はありません。孤独で生きていけないように、特殊な環境下で生活できるのも限度があるでしょう。『黙示録』の中で氏が言ったように、目を覚ますべき時なんだと思います。そのきっかけに我々がなればいいのです。そして、カフスランにとってみれば、このような国は非常に脅威であり、厄介です。人間が為政者でない国など、まともに相手ができません。この国が、まともな人間が為政者である国になることは、我が国にとって大きなメリットになるはずです。私は以上の意見をあなたにお伝えしようと思います。」

 これには彼女は何も返事できなかった。

「フロリアは?フロリアはどう思うの?」

「私にはわからないわ・・・。いろんなことがいっぺんに起きすぎて、収拾がつかない。だけどこれだけは約束する。カトリシアの決定に絶対についていくって!」

「フロリア・・・。」

 カトリシアは頭を抱えた。もう、どうしたらいいのかがわからない。

「ごめん、一回部屋に行ってもいいかしら?一人で考えたいわ。」

 皆が返事をする前に、彼女は2階の寝室へと向かった。


2


―――お父様、私はどうしたらいいのですか!

 この騎士団を任された時、与えられた任務はエフィカの内情を探り、それを報告することだった。しかし、メンバーは工作員として、エフィカ国家の転覆を行うべきであると主張しているのだ。

 正義感の強いメンバーが集まっているのはカトリシアもよくわかっていた。ただ、今その正義感をかざして行動することが正しいことなのはどうかはわからない。カリウスの主張は明らかに騎士団の活動の主旨から外れたものであり、軍務省から指示されたことではない。軍務省に相談すれば、当然却下されるであろう。

―――ああ、こういうときに気軽に相談できる妹みたいな存在がいればな・・・。

 カトリシアは一人っ子である。ただ、昔、小さいころに自分と同じ黒髪の少女と遊んでいたような記憶がある。いや、兄弟が欲しいと強く思っている自分の思いから記憶がゆがめられているのかもしれない。

 自分の周りで兄弟がいる子たちを見ていると、皆身近に歳の近い話や悩みを真剣に聞いてくれる存在がいていいなと羨ましく思っていた。

―――結局、私はどうしたらいいのかしら・・・。

 メンバーの言う通り、工作員として活動すべきなのか、これまで通り内情を探る活動を続けるべきなのか。ただ、これ以上今やっていることを継続していてもなにも進展がないような気がしているのも事実だった。何か別の策を練らない限り、前には進まないような気はしていたのだ。しかし、だからといって工作行為を行うことは全く考えていなかった。

 カトリシアの中で今一番達成しなければならないことは、黙示録にあるように、本当に大統領がスーパーコンピューターなのかどうかを確認することだった。この事実を確認しない限り、このことを事実として軍務省には報告できない。そして、この事実を確認することが一番の困難であることもよくわかっていた。これだけ国が総力を挙げて隠している事実だ。それを簡単に確認できるわけがない。何か、ある意味では卑怯な手段を用いない限り確認することはできないだろう。

 戦場ではとっさの判断力が、勝負を左右し、自己の生死を左右する。今ここは戦場ではないものの、状況としてはよく似た状況下にある。指揮官である自分が適切に判断を下さなければ、軍務省から与えられたミッションの達成という、この騎士団創設の最大の目的を達成しそこねる。ここでの判断が、非常に重く、大事なものになる。

―――あー、もうどうしたらいいのよ!

 カトリシアは枕に顔をうずめ、ただひたすらに迷っていた。


 カトリシアが立ち去った後の食堂では、重い空気が流れていた。

「カリウス、ちょっと言い過ぎたんじゃないの?カトリシアだって相当迷っているのよ。軍務省からの要求と、私たちの要求との狭間にあってつらいのに、あんな言い方はないんじゃないの?」

「ちょっと言い過ぎたかなとは思ってるよ。だけどよ、間違ったことを言っていたつもりはねえよ。今俺たちがつかんでいる事実から十分に考えられることじゃないか。」

「確かにな。ただ、今のカトリシアにそれを要求するのは少し酷ではないか?」

「だけどよ・・・。」

「とにかく、カトリシア嬢の判断を待ちましょう。きっと、彼女なりの結論を出すでしょう。我々はその指示に従うまでです。少し落ち着くためにもお茶でも入れませんか?」

「いいわね、バスティーニ。私、上のカトリシアにも持って行ってあげるわ。」

「それは助かります。是非お願いしますね。」

「ところで、外がちと暗すぎはしないか?」

 今は午後の3時だ。夏の3時はまだまだ暑い日差しが照り付ける時間だが、外はどんよりとした雲が広がっていた。

「何か、嵐が来そうな雰囲気ね。」

「エフィカもカフスランも気候は非常に穏やかですからね。嵐が来るのは非常に珍しいですね。」

「そういえば、カトリシアって雷が超苦手じゃなかったっけ?」

「そうなのか。」

「そういえばそうだったわね。」


 30分後、外は激しい雷雨となった。

「おお、土砂降りじゃねえか。こんな雨滅多に見ねえから興奮するな!」

 その時、食堂のドアが開いた。そこには青ざめた顔をしたカトリシアが立っていた。

「おうカトリシア。なんだ、雷にビビってんのか?」

「ち、違うわよ。ただ、なんとなく食堂に来ようと・・・」

 その瞬間、雷が鳴る。

「きゃーーーーー!!」

 同時に、カトリシアの悲鳴も響いた。

「雷とカトリシアの悲鳴、どっちが怖いかわからなくなってきたよ」

「そなたらしくないな。そんなに雷が苦手なのか?」

 声をかけたパルカンに、今にも泣きだしそうな顔をしたカトリシアが抱き着く。

「まるで、子供に逆戻りだな。」

「しかしまあ、よく降るわね。今日雷雨になるなんて予報だったかしら?」

「私の端末に届いていた天気予報によれば今日は快晴との予報でしたよ。ただ、予報はあくまで予報ですから。外れることもありますよ。」

「確かにそうね。」

「この辺りに雷が落ちなければいいのですが・・・。」

 バスティーニがこういった瞬間、雷光と同時に大きな雷鳴が響いた。そして、屋敷の電気も消えた。

 カトリシアがこれまでにないくらいの絶叫を上げる。

「おいおい、光ったのと雷鳴が同時だったぞ。この辺りに落ちたんじゃねえのか?」

「停電してますしね。その可能性は極めて高いですね。」

「そなたも泣くんじゃない。屋敷に落ちたわけじゃあるまいし。」

 パルカンは泣き続けるカトリシアの対応で手一杯だった。

「早くやまないかしらね。カトリシアのためにも。」


 停電から30分後。外は雨も上がり、青空が戻ってきた。しかし、停電状態は続いていた。

「カトリシアにも女の子らしい部分があるんだな。余は少し安心した。」

「なによ・・・バカにして・・・」

「バカになんてしていないぞ。かわいらしいなと思っているだけだ。」

「うるさい!」

「それより、停電、なかなか復旧しませんね。」

「首都全体が停電しているのかしら?」

「今、フロリアとカリウスが見回りしています。」

「そうなの。2人が外に出たの気付かなかったわ。」

「そりゃああれだけ悲鳴を上げて泣きじゃくっていたら気が付きませんよ。」

「なによ、バスティーニまで小バカにして!」

「小バカになんてしてませんよ。」

 そんな会話をしていたところで、見回りを済ませた2人が戻ってきた。

「おかえりなさい。どうだった?」

「おう団長殿。絶叫タイム終了ですか?お疲れっす。」

 カトリシアがカリウスに一発蹴りを入れる。

「痛っ・・・。ガチで蹴りいれただろ?」

「ええ、どう、乙女の本気の蹴りは?痛い?」

「それよりカトリシア、聞いて。どうも首都全体で停電しているようなのよ。でね、カリウスが気になることを言っていて・・・ほら、カリウス。」

「ああ、大統領府ってこの近くだよな。もし大統領府も停電してたらやばいんじゃないかって思ってね。」

「どういうこと?」

「スーパーコンピューターのことですね。」

「ああそうだ、バスティーニ。」

「さすがに非常用電源は用意しているでしょう。万が一に備えるはずですよ、普通は。」

「いやそのね、まずいことがあって・・・。」

「まずいこと?」

「首都で火事があったっていうのよ。で、その場所が大統領府の近くなの。」

「町で何か異変はなかった?人々の動きがいつもと比べると違和感があったとか?」

「俺たちが見回っている限りではなかったな。あまり人々が出歩いていないのが少し気になったけど。まーこの天気のすぐ後だからそんなものかと思っている。」

「お店は開いていた?スーパーとかやっていた?」

「スーパーは閉まってたぞ。今日土曜日だろ?普通店は閉まってるだろ?」

「カフスランではそうかもしれないけど、エフィカは年中無休よ!だってほとんど機械がやっているんだもの。店休なんて必要ないじゃない!」

 そのカトリシアの言葉を聞いたバスティーニがあるものを取りに行った。それはスマートフォンと呼ばれる端末である。

「みなさん見てください!この端末の様子がおかしいです!」

「おう、どうした?」

 メンバー全員がバスティーニのスマートフォンを覗き込む。

「なんかエラーメッセージみたいのが出てるじゃねえか。なんだこれ?」

「ネットワークに接続できなくなっています。天気予報とかの情報を閲覧するサイトにもアクセスできません。」

「おいおい、まじかいな」

「これは火事の詳細を至急調べる必要がありそうね。外の見回りは私とバスティーニで行くわ。残ったメンバーはここで情報収集をお願い。」

 そういってカトリシアはバスティーニと共に外に出た。


3


 外はあまりにも静かすぎた。

 活動が行われている気配すら感じない。気味の悪い静けさだった。

 大通りには人っ子一人いない。お店の中にも誰もいなかった。

「妙に静かね。気味が悪いわ。」

「そうですね。」

「あのお店の中、一度入ってみましょうか。」

「ええ」

 2人は大通りにあるスーパーの店内に入る。

 店内には誰もいなかった。

「カトリシア嬢、これを見てください!」

「どうしたの、バスティーニ?」

「これ・・・会計を行う機械、動いていません。どこを押しても反応がありません。スマートフォンのと同じエラー表示が出ています。」

 画面は真っ黒になっており、

“A system error has occurred.

Please to recover as soon as possible.

This could be due to a server error.”

と書かれていた。

「サーバーエラーの可能性って・・・システム自体がダウンしたってこと?」

「恐らくそういうことでしょう。この機械だけの問題ではなさそうですね。」

「こういう機械はすべて大統領府のスーパーコンピューターの管轄下にあるの?」

「管轄下にあるかどうかはわかりませんが、この国のネットワークの中心にあるのは間違いありません。中央からの命令がない限りネットワークは機能しませんから、中央がダウンしてしまうとこういうことが起こる可能性は十分にあり得ます。」

「とにかく、大統領府に行ってみましょう。」

「ええ、急いで行ったほうがいいかもしれませんね。」


 2人は大統領府の近くまで来た。すごく焦げ臭いにおいがする。そして、ものすごい黒煙が上がっていた。

 火事は未だおさまってはいなかった。

「これ以上は危なくて近づけないわ。ただ、火の手が大統領府から上がっているのは間違いないわね。」

「ええ。消防車などの類の車両なども来てないとなると・・・」

「システムが落ちて、そういった機能も使われていないってことかしら?」

「可能性はありますね。」

 黒煙が立ち上る大統領府を見ながら、2人はこれだけの先進的技術に依拠しているシステムが、たった1時間ほどの雷雨でダメになってしまった事実に驚愕していた。


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