第1章 信頼と駆け引き⑦
-----------------------------------
先ほどとは打って変わって別の場所に俺はいる。
先ほどの戦闘は、軍の司令官が倒れたことにより、戦闘不能となった軍が退却していったことで、高校側の勝利となった。
俺はその場を救って、よし、終わりと去ろうとした瞬間少女に引き留められ、建物の中へと連れていかれたのだった。
「こ、んのバカ‼」
パッカーンと心地よいほどの快音が少女の頭で鳴る。
この部屋には今少女と俺、あとひとり女子の学生がいる。
そしてたった今、学生が少女の頭をコピー用紙の束で殴ったところだった。
・・・結構痛そうだなそれ、紙とはいえ。
でも少女は何も言えないだろう。それほどに、少女の前にいる学生はめちゃくちゃ怒っている。
「なんなのアンタ!今、あんたがいなくなったらこの高校が崩壊するって気づかないの!?誰がここを統率してんのよ!あんたでしょう、水樹!?今アンタが死んだらこれは負け戦確定だわ‼」
生徒会長の少女の名前は水樹、というらしい。
そう一息に言い切った学生の目に心配するような色を見てもなお、水樹と呼ばれた方は、だけど、と口をとがらせる。
その様子に、それまで傍観を決め込んでいた俺はねえ、と声を上げた。
「君が本当にここの指揮官やってるの?」
その言葉に俺を見て、水樹と呼ばれた少女はうなずく。
「私は、上代水樹。ここの生徒会長兼反乱の指揮をしているの」
あなたは、とその目が言っている。
その視線は居心地悪いのだが、俺は・・・。
「・・・俺さ、名前がないんだよね~」
「「え」」
2人の声が重なった。
この時代、名前がないということはほとんどない。生まれた瞬間につけられ、種族ごとに国民として位置付けられていくからだ。
・・・名前がないということは、国に認可されていないということだ。
「ま、こんな容姿しているし?・・・呼び方は何でもいいよ。君はなんていうの?」
もう1人の学生に聞く。
「私は夏野ゆりか(ナツノユリカ)。この青鹿学園の副会長をしています。ちなみに、情報処理が得意なの。わたしも呼び方は何でもいいかな」
もう1人は情報処理が得意という少女。
この部屋の形状からも、その技術がすごいことがうかがえる。
・・・見たことのない機械ばっかりなんだけれど。
「・・・あのさ、唐突で悪いんだけどさ・・・」
夏野のほうが、言いづらそうに口を開いた。
「君って何者なの」
俺はその質問に目を細める。
「・・・その答え聞いてさ・・・もし俺が敵だったらどうするの」
質問に質問で返すと、上代のほうが笑った。
「・・・私ら全員死ぬな」
その言葉にあっけにとられる。分かっているのに、なぜ俺をこの場所まで連れてきたのだろうか。
「私はあの時、仲間の犠牲、戦局の悪化、絶望的な状況・・・たくさんの要因に目を奪われていた・・・たぶん冷静な判断も出来てなかった」
軍の方向へ向かっていったことを言っているのだろうか。
「君は“俺は味方”だって言ってたよね」
「・・・あぁ」
俺がうなずくと、上代は頭を下げてきた。
「私はあなたにこの状況を助けてほしい・・・だからここに連れてきた」
たぶんこの施設において中枢を担う部屋。
その部屋に俺をつれて来た理由。
・・・俺を利用したくて、ということか。
俺がいればこの反乱は有利に進ませることができる。
それは先ほどの俺の様子を見ていたら分かることだろう。
「・・・俺は、化け物だよ」
・・・それでもいいのだろうか。
「名前はまだない」みたいな笑
しかし主人公チャラいしゃべり方してるよね、ほんと。