第1章 信頼と駆け引き⑤
(時間は少しさかのぼります)
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俺はたった1人、人ひとりいない住宅街を歩いていた。
辺りは変に広々としており、動物の気配すらほとんど感じない。
何でこんなに人がいないのか、というのは俺の知識が間違っていなければ、今が戦争中で国民が招集されたからということだろう。ここ辺りの地域も招集されているということだ。
俺といえば、とある事情からずっと閉じこもっていた。まあ、出られなかったといった方が正しいのだろうか。
外に出たこと自体久しぶりで、俺の知っていることが正しいとは限らないが、人の気配1つないことからこの考えで間違えはないだろう。
外に出られなかった俺がこうやって外の世界に触れているのは、ある目的を達成し、俺をつなぎとめているものから解放されるために、とある場所から逃げ出したからだ。
・・・ある目的を達成するために。
俺の目的は、ただ1つだ。
そのためには、軍に対抗することは必須なのだが、今独裁に近い力を持っている軍に対抗することは、俺の力だけでは、無理だろう。
そのためには俺に足りないものを補わなければならない・
・・・足りていないのは”味方”と俺の力を生かせる”場所”だ。今のように1人で行動しても、弱点を暴かれてしまうだけで、勝てる見込みはない。
勝つために”味方”を作らないといけない。
・・・でもどうやって”味方”って作るのだろう。
・・・どうやって“場所”を作るのだろう。
お金やお菓子を渡してお願いする?
いや、それでは賄賂と大差ない。
力を見せつけて味方にしろという?
いや、それでは軍のやり方と変わらない。
・・・信頼してもらって味方になってもらう?
・・・それが、俺にとっては1番難しいだろう。
「あ~、めんどくさい」
頭をガシガシかいていると、遠くの方で大砲を撃つような大きいな音がした。顔を上げると、遠くの建物の近くで煙が上がっている。
そして、風に交じってあるにおいが漂ってくる。
「これって血の匂い・・・?」
よく目を凝らすと、黒い煙が立ち上っているのが見える。
よく見る“戦争”の光景だ。あそこが戦場なのだろうか。
グレデル内の戦場といえば、軍に対抗して起こる“武力デモ”だと聞いている。
グレデルが国民の主張を聞き入れない体制をとっているため、軍の武力に対抗するという方法でデモを行っているらしい。
・・・ということは、もしかしたら“反軍勢力”があそこにはいるかもしれない。
俺にとって都合のいい事実に、笑みが漏れる。
そこまでの距離はもう近い。
建物の形状が見えて、少し驚く。
「もしかして、学生がやっているのか?」
だとしたら珍しい。俺が外にいたころはデモといえば大人がやっているものだった。
大人がデモを行うときには、基本的に公共施設を使わないようにしていたはずだ。
・・・それとも状況が変わったのだろうか。
その施設に向かいながらそんなことを考えていると、学校につき、青鹿学園と書かれた古い門の方から、簡単に入ることができた。どうやらここは裏門らしい。
誰もいないようだが、大丈夫なのだろうか。これでは裏を突かれやすいのではないか。
・・・その疑問はすぐ解決した。
雨の降りはじめた視界に、学生が力及ばず地面に伏している様子が見られた。
けがをしている人も多い。
これでは、すぐに決着がついてしまいそうだ。
その様子をぼんやり眺めていると、軍の方が騒がしくなり高校側で一人倒れている少女を指さした。
そして砲弾を準備する、その様子に慌てる。
「相手は一般市民だろ!?」
少女は砲弾に気付いたのか軍の方に徐々に近づいて行っている。
あいつ・・・なんで・・・
「あんた、死ぬ気なのか」
次の瞬間、俺は俺が思ってもみなかった行動をとってしまったのだった。
次の更新はあしたの15時ごろです~!!