第1章 信頼と駆け引き①
この時代は狂っている。
そう考える意思は他人には届かないのだろうか。
黒の種族 “グレデル”の種族の中で上流階級である軍は、“種族の誇りを保つため”という理由から、一気に他の4種族を攻め滅ぼすための“第4次世界大戦”を企て、そして実行した。
その決定は内密に行われており、国民の考えなど受け入れる様子など見られなかった。
軍は今となっては政治の実験までも握っており、国民はその決定に反論することは許されない。
残念ながら軍はグレデルの科学力と軍事力をもってすれば勝てると、何の根拠もなく信じているようだ。
戦争万歳、種族主義万歳という今の時代で、反逆の道を行くことは死に値するらしい。
動員の招集に応じなければ種族に対する反逆とみなされ粛清されるし、戦争に赴けば種族のために命を賭して戦うことを強要されるのは目に見えている。
どちらにしても待っているのは“死”だ。
“動員の招集に応じない”という強固な姿勢を貫いた、私たちの学校“青鹿学園”では武力行使に対する戦術行使によって、軍をしりぞけていた。
軍の攻撃をのらりくらりとかわし、絶対に正面から戦おうとはしなかった。
それに、軍の方も戦争の方に興味がいっているようで、そこまでの戦力を注いで降伏させにくることはなかったのだ。
そんなことを横たわりながらぼんやりと考えながた。
痛みのため少ししか動かせない体を持ち上げ、顔を上げて周りを見た。灰色の空を仰ぎながら、雨を感じて顔をしかめる。
今の私と同じようにたくさんの生徒が地面に伏していた。さらに、砲弾による爆発やロボット体による襲撃、軍人の屈強なこぶしによって倒されていく光景が目に入る。
戦争を始めてしばらくたったという状態であるのに、なぜ軍はこうも急に戦力を注いできたのか。
・・・推測するに、第4次世界大戦の戦局はグレデル側にとって良くない方向に進んでいるようだった。
グレデルは、反乱分子を排除して国民を招集していかなくてはならないほど、かなりの劣勢に追い込まれているのだろう。
第4次世界大戦を仕掛けた側であるグレデルが劣勢になっているのだ。
反逆罪として私たちを見せしめのように殺すことで国民の招集をより効率的にし、戦力の増強は必須ということだろう。
実際、私たちはかつてないほどの劣勢に追い込まれている。
考えてみれば当然のことだった。武器などろくに持たない一般高校の非戦闘員。本当なら机について学問を受けているはずの学生なのだ。
種族をかけて戦う軍の圧倒的な力の前に立ち向かえるほどの・・・何か”武器”を備えているわけではない。
それでも今までは綿密に計画を練り、弱者なりの戦いを軍と繰り広げて、勝利を収めるくらいのことはしてきたのだ。
・・・それでも、足りなかった。
生徒の中には経験のない劣勢に、怖気づいたように後退するものも見えた。
その様子も、血生臭いにおいが漂う劣勢の戦局、次々と倒れていく友人を見てしまっては、それも仕方のないようなことと思えた。
まだ戦う舞台の名前しか出てない・・・。